47 誕生日パーティ④ ~最悪の予感~

「まぁ、お前達からは大体話が聞けたよ。挑発して煽ったら、お前達はベラベラ喋っていたからな。色々と話してくれるだろうと予想したが、本当にその通りだったよ。頭が悪くて助かった」


(は?意味がわからない。何故このエルフは立っていられる?私はこいつの腹部を何度も刺したはずだ。今頃失血死になってもおかしくない血が流れていたはずだが、よく見ると奴の腹部からは全く血が流れていない。どんな体をしているんだ。いや、何をしたんだ?)


「ユートンだったか。不思議そうな顔をしているな。俺の体はお前の短剣で何度も刺していたはずなのに、どうして死んでいないのか?何故棍棒で叩いたのに、まだ俺が生きているのか。どうしてそもそもダメージが無いのか、と気になっている顔だな。まぁ単純なことだ。刺される度、叩かれる度に体内の臓器へのダメージを即回復していただけの話だ。単純だろ?」


ユートン「ありえない。私は高速でこいつの腹部を何度も刺していった。そのたびに回復なんてできるはずがない・・・」


メイユ「う・・・嘘だ!!!そんなことができるはずがない!!」


「信じるも信じないも、お前たちの勝手だ。さて聞けることも聞けたが、お前たちの話を聞いて俺は更に怒っている。何故怒っているかはお前たちは心当たりがあり過ぎて分からないだろうが、とにかく俺は怒っている。怒りで腸が煮えかえる思いだ。怒りで狂ってしまう気分だ。分かるか?どれだけの思いをお前たち魔族は踏みにじれば気が済むんだ。お前たちは確実にここで息の根を止める。


知らないと思うが、俺が戦いに臨む時は必ず敵を全て全滅できると確信を持つときだけだ。と、言うわけでお前たちを完全に殺す。逃がすつもりはない」


ユートンは、訝し気に言ってきた。

「貴様、さっきまで良い様にやられていたのを忘れたのか?形勢は何も変わっていないぞ。態度が変わったからといって、私たちが簡単にやられると思うのか?」


俺は不思議に思い言った。

「と言うか、分かるよな?あれだけ3人で俺を叩きのめしても、俺はノーダメージなんだ。我彼の戦力差は推して測るべしだが。けどもユートン。まずはあんたを殺すか。この中で唯一逃げられる可能性がある、瞬間移動スキルを持っているからな。逃げられると困るし」


「はははは!!!逃げる?笑わしてくれる。誰が誰から逃げるんだ?」


俺は、一瞬でユートンの懐まで移動して、腹部に右拳打を放った。


ユートンは突然の打撃に、体を『く』の字に曲げて、苦渋の表情を滲ませ地面に手を付いた。俺はちょうど中段蹴りが入る位置に、ユートンの頭がきているのを見て、思い切り横中段蹴りを食らわした。バキ!!!と音がして、ユートンの頭蓋骨が割れ、血が頭から流れでて、ユートンは地に伏した。


「「な!!」」


一瞬で横のユートンが倒れたのを、横で見るだけしかできずリーシャとメイユは一歩も動くことができないでいた。ユートンは強烈な頭痛に苛まれ、意識が薄れていくことを感じながらも、このままここで倒れていては絶対に殺されるとの薄らいでいく意識の中で強い確信を持ち、必死でこの場から逃げる様に本能で瞬間移動スキルを使用し、離脱した。


「いや、だから逃がさない」


俺は、半径5キロ圏内を索敵した。ここから3時の方向50メートルの所に気配が一つ現れた。ユートンの瞬間移動スキルには欠点がある。それはおそらく50メートルぐらいが最大移動距離であることだ。そして一度使うと何分かのインターバルがある事。ビリクイカ伯爵邸からここまでユートンを追いかけながら、何度も瞬間移動スキルを使われているのを見て観察していたのだ。何度も連発をしないので、そんな仮説を立てていた。


50メートルぐらいなら俺も一瞬で追いつける。


一足飛びでユートンの上に現れ、フラフラしているユートンを上空から蹴りを繰り出し、首の骨を折った。これでほぼ止めを刺してはいるが、骨を断ち肉だけでつながっている頭部に2回目の蹴りを放ち上空へ蹴り上げた。頭部と体部がブチブチと筋繊維が切れていき離れたのを確認した。その後直ぐにエマの元に移動して、今の隙にリーシャとメイユがエマに人質にしないように、エマと二人の導線の間に降り立った。


さっきまでの攻勢がなんだったのか理解できずに、リーシャとメイユは茫然としていた。そうすると、耳をつんざくような雄叫びが周囲に木霊した。


「うおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」


俺は、スキルの叫びをもう一度放ち、二人をこちらに強制的に注目させた。


「く!!!」

「ぐ!!!」


「こっちを見な」


そう言ってリーシャに俺は襲い掛かった。心臓部を一撃で粉砕しようと右拳打を放とうとすると、その間に割って入ってきたメイユの体を代わりに貫いていた。


「ゴフッ!!」


「邪魔だ」と言ってメイユを横に放り投げた。


エマの姿をしているリーシャが恐れおののきながら、命乞いをし出した。


「た・・・助けて・・・。私は・・・なんでもするから・・・お願い・・・助けて・・・」


「リーシャと言ったか。それはないだろう。お前たちは人やエルフを殺しまくっているんだろう?自分は殺してもいいけど、自分が殺されるのはダメ、というのは理屈に合わないと思うぜ、俺は。他の命を奪う奴は同時に自分の命が奪われるリスクを背負っていることを自覚しないといけないだろ?」


そう言って俺はリーシャに近付くと、間合いを詰めてくるのを待っていたのか、左手に持っていた棍を持って即座に迎撃してきた。


俺は体をすこしずらし、その棍を左手で掴んだ。リーシャは棍が引っ張ったが棍は動かない。リーシャは焦りを感じていたが、俺は強制的に棍を引き寄せてこちらに向かってくるリーシャの首筋に手刀を当てようとした。


しかし、俺がリーシャを引き寄せることを予想していたのか、リーシャは棍を離し代わりに何か黒い物体を投げきた。


「メイユ特製爆弾よ!」


ドカ―――――――ン!!!!!!!!!


と大爆発が起こった。リーシャはこれでニコが死んだとは思っていないが、ある程度のダメージは通ったはずだと思い倒れているエマを見た。


(ここが分水嶺!エマをここでうまく使えば、形勢は逆転する!)


と瞬時に判断し、倒れているエマに走り寄っていった。


辺りは粉塵が舞い上がり、直径5メートルぐらいのクレーターができていた。爆心地にいた俺は咄嗟に魔力で自分を守ったが、なかなかの威力だった。あの天才魔法道具士か。さすがだな。爆発に巻き込まれ横に倒れていたメイユの足は吹っ飛んでいた。既に虫の息の様で、ヒューヒューと静かな呼吸をしていた。胸には大きな穴が開いており死にかけていた。そっちよりもまずはリーシャだな。


索敵をすると、エマのところにもう1つの反応があった。


(まずい!)


エマが人質に取られたかと焦り、エマの方を見ると、二人のエマが全裸でこちらを向いていた。


しまった!!さっきのリーシャは、本物のエマの服装とは違ってノースリーブのホットパンツの姿だったから、エマの顔形だったとしても、リーシャと判別がついたが、全裸では分からない。


どちらも胸部を腕で隠し横座りをしていた。


右のエマは左のエマを見て驚いたように声をかけた。「あなたは、誰?!なんで同じ私がいるのよ!」

左のエマも右のエマを見て、「あんたは誰!?なんでこんなところに私にそっくりがいるの!!??」

とお互いを罵り合っていた。さてどう判断するかと頭を悩ませた。


とにかく俺は二人に近付き、エマ様!と呼びかけた。


そうすると、二人から「助けて!」「何が起こっているの?」との返事が返ってきた。


俺は静かに状況を説明することから始めた。


「エマ様。私はあなたの護衛としてここにおります。魔族の一人が変化スキルを使い、エマ様と全く同じ姿に変化しております。悍ましい計画を企んでおり、実はこれからエマ様の姿になり変わり、近くの村を殲滅するつもりのようです。その魔族はリーシャと言いますが、これほど同じになる変化スキルですので、正直見ただけでは、どちらが本物のエマ様なのか判別がつきません。先ほどまで、エマ様はパーティ会場用のドレスをお召しになっておられましたが、リーシャがエマ様のお召し物を引き裂いて裸にして、二人を完璧に同一にしたのだと思います。申し訳ございませんが、お二人に今から質問をいたしますので、答えていただいてよろしいですか?」


本物のエマもリーシャもこの質問で生死が分かつと分かっているのか、青ざめながら静かに頷いた。


「では、お二人に聞きます。エマ様の出身地はどこでいらっしゃいますか?」


二人からは同時に「ガルーシュ伯爵領!」との返事が聞こえた。


「わかりました。では、エマ様の以前の専属執事の名は何と申しましたか?」


二人からは同時に「セバス!」との答えが返ってきた。


「では、セバスの正式な名前は何でしょうか?」


二人からは同時に「セバスチャン・ロ・ヴァルア!」との返事が来た。


(リーシャ、やるな。先ほどもガルーシャ領を調べたと言っていたが、エマに完璧に化ける為に、さすがきっちりと調べているか)


俺はそれからエマの親族の質問を何個かしたが、二人とも同じ答えを言ってきた。


(どうしたものか)


一瞬悩んだが、今の自分の姿を見て、最適な質問がある、と気付いた。どれだけ下調べをしようが、絶対に分からない情報というのはあるのだ。


俺は二人に問うた。


「では、最後の質問としましょう。エマ様、私の名前を申してください」


右のエマから「ニコ!」との答えが来た。

左のエマから「知らないわ。あなたは誰?」と返答が来た。


俺は右のエマに向き直った。「じゃあ、お前だな」と言って、すぐさま右のエマの首を掴んで、首の骨を折る勢いで力を込めて持ち上げた。


「エマ様には、私は一度たりとも会ったことはないんだよ。残念だったな、リーシャ」


「ぐ・・・が・・・ち・・・違うわ。私は・・・エ・・・マよ。ほ・・・本当・・・よ。し・・・しん・・・じ・・・て。あなたは・・・・ゆ・・めい・・な・・・ぼう・・・けん・・・しゃ。し・・・っていて・・・とう・・・ぜん・・・よ」


「いや、違うな。リーシャ。まずニコはそもそもここまで来る理由が無いんだ。ニコは冒険者としてガルーシャ伯爵領を拠点としているからな。護衛なんて依頼はそもそも冒険者ギルドからは出ていないんだ。俺が冒険者だから、それは知っているんだ。爪が甘かったな」


「ぐぞおおおおおおおおーー!!!!!」


全力で俺の右手を掻き毟るようにして、リーシャは必死になって逃れようとした。


「お前はエマの姿に成りすまし、大虐殺の責をエマに擦り付けようとした。その行為は万死値する。今ここで死ね!!!!!」


「がああああああぁぁぁぁぁ!!!!」


グギ!!!!!と首の骨を折った。リーシャはその場で脱力し、抵抗は無くなった。リーシャの体の穴という穴から体液が吹き出てきた。そして、俺はリーシャの体を横に放り投げた。その後、地面に倒れたリーシャは、リーシャの体に元に戻り、その場で死に絶えていた。そして火魔法を使い完全にリーシャの体を焼き尽くした。


「あ・・・あなたは一体??」


「エマ、俺だ。エマは俺の声で俺の正体は分かったかなと思っていたが、案外分からないモノなんだな。まぁ、仮に俺の正体に気付いて、さっきの質問に答えたとしても、本物のエマは絶対に『ニコ』とは答えないから、分かったけどな。『ノエル』か『ノブ』だっただろう。まぁエマも他にも質問はいっぱいあるだろうけど、ちょっとここで待っててくれ」


茫然とするエマに、自分が着ていたボロボロの執事服を着させて倒れ伏している瀕死のメイユに相対した。


「おい、メイユ。まだ生きてんだろ?」


「く・・・。死んだと・・・思わして・・・逃げる・・・つもり・・・だったんだけどな・・・」


「まぁ、お前はあのダメージでほぼ虫の息だが、止めは刺していなかったからな。生きているとは思ったよ。きっちり止めを刺して、後顧の憂いを断つとしよう」


「はははは。慎重・・・な事だ。けども・・・もう遅いよ・・・。お前の事は映像で・・・本部に・・・送ったから・・・ね」


「なに?」


「全ての・・・映像は・・・送ったよ。今頃・・・魔族を・・・殺した・・・罪で・・・ガルーシュ伯爵家は・・・取り潰しだ。まぁ・・・最低限・・・の仕事・・・はできた・・・かな・・・」


「な!!!!????」


俺は直ぐに上空に浮いている魔道具を見た。こちらをじーっと見ているような気がして、水魔法で撃墜した。


「も・・・もう遅い・・・。どっちみち・・・エマが・・・誘拐された時点で・・・作戦は・・・成功なのさ。おあいにく様・・・・ぐッ」


「うるさい!」と叫び、俺は、メイユの体を火魔法で燃やし尽くし止めを刺した。


「ははははは!!!!お前らは・・・・もう・・・おわ・・・り・・・・・・だ・・・」


メイユの体が炎の中で朽ちていった。


「ど・・・どういうこと??」エマは、震える体でこちらに話をしてきた。


「どういうことかは、俺にも分からない。くそ!!!一体何が起こっているんだ!!??急いで伯爵領に戻るぞ!道中で今の状況を説明する!」


と、強烈な胸騒ぎをしながら心臓の音がうるさいぐらい、頭に響いていた。何かとてつもなく、最悪の状況になっているんじゃないかという予感がして、背中の冷や汗が止まらない。何がまずいかわからないが、とにかくまずい。


とにかく、今はフィブラーさんたちと合流を最優先事項と定め、俺はエマを背中に抱え、すぐさまビリクイカ伯爵邸に向けて出発した。

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