44.誕生日パーティ① ~マヘレット令嬢~

「昨日の騒音はおそらく近辺に居を構えている、ムラカ派内の抗争であると思われます。エマ様には関係が無いと思われます」


翌朝クリシュナ兵士団長から、エマと給仕3人が集められ状況説明がなされた。


騒ぎを聞きつけた地元の衛兵士たちが、現場にいたクリシュナ達に状況説明を求め事情聴収をし解放した時に「ムラカ派絡みだと思われます」との見解をその衛兵士たちはクリシュナ達に伝えたのをクリシュナ兵士団長はエマ達に報告したのだ。


「この領都も表面上は発展し安全なようですが、実質の所情勢は非常に不安定なのでしょう。より警戒をしなければならないようです。このような抗争に巻き込まれてはかなわないですからね」


エマ達は事態の不安定さを懸念していた。しかしエマは、元からこのような危険は覚悟の上と明るく状況を俯瞰するように護衛兵士団に安心するように伝え、これからも精力的に多くの貴族たちとの接触をしていこうと話をし周囲を励ました。


エマはちらりと俺の方を見て、笑顔を向けてきた。


(あなたがやったのね)


と言っているような笑顔であったので、俺も笑顔でエマに頷いて肩を竦めた。


(ああ。襲撃者を何人か取り逃がしたがな)


エマはこの事件に恐れることなく、より活発に誕生日パーティで出会うであろうムラカ派の貴族たちの邸宅を訪れ、彼らと胸襟を開いた対話を行っていた。自分の信条を堂々と勇気を持って述べる以外に道はなかった。相手は憎悪を持ちながらも、表面上は温かくエマ達を迎え入れるのだが、その言葉の端々には積年の恨みが見え隠れしていた。それはサニ派の貴族に対する怒りと共に、今行われるサニ派への不条理な扱いへの報復に対する警戒心と恐れも含んでいた。エマは全てを理解し、出会う貴族たちに話をしていった。


「私は今こそムラカ派とかサニ派とか、そのような宗派によってエルフ族を分断すべきではないと思っています。敵は誰だと思いますか?サニ派ですか?魔族ですか?」


「それは非常に危うい発言でありますな、エマ令嬢。私はエルフ族と魔族の共存共栄を願うものです。どこかの一族だけが犠牲となり、どこかの一族だけが繁栄するなんて、サニ派が長年持っていた不平等な考えは私にはありません。あなたこそ、今安定しているこのエルフ族国セダムを混沌としたものに陥れるのではありませんか?」


「誤解を恐れず申しましょう。敵は魔族です。ムラカ派は現在魔族と手を組みエルフ族国セダムを治世しているようですが、それは幻想です。悪魔の掌の上でムラカ派は踊っているにすぎません。何を目的に魔族はエルフ族国を属国化しているかは分かりませんが、いつか魔族がエルフ族国での彼らの目的を果たした時にはエルフ族は一夜にして滅亡するでしょう。それが奴隷の供給なのか、エルフ族国の何かの資源なのか、それともエルフ族国の戦略的な意味での土地の確保なのか、私にはわかりません」


「・・・」


「サニ派のエルフたちが全員ムラカ派に友好的とは言いません。しかし、私はサニ派とムラカ派が今いがみ合っている場合ではないと申し上げたいのです。魔族は何を目的にムラカ派に援助しているのですか?おかしいじゃないですか?ムラカ派の為ですか?エルフ国の為ですか?それは何の為ですか?あなたたちはサニ派への怨嗟の為に目が曇ってしまっているのです。魔族がエルフ族国の繁栄に手を貸すメリットがどこにもありません。そもそも魔族とエルフ族は敵国同士なのですから。どう考えても魔族の内部分裂を謀った策略でしかないのです。私もサニ派を変えてまいります。サニ派の上層部も感情的になり、自分たちを見つめられていないのが正直現状です。『ムラカ派邪教宣言』はその最たるものです。正直私はこの宣言にも魔族の関与を疑っております。このような内部分裂している種族はもしかしたらもう生き延びる術は残されていないのかもしれません。しかし私は死ぬまで絶対に諦めません。エルフ族の価値は、必ずこの世界に大きな意味があることを私は証明したいのです。どうか私と共にエルフ族国の未来の為に手を取り合っていただけませんか?」


ムラカ派の貴族たちは、このような年端も行かない女の子の真摯な態度と、真剣な眼差し、堂々たる発言に胸を打たれるのであった。そして今のエルフ族国を取り巻く情勢に大きな疑問を持つようになった。


(たしかにその通りかもしれない。なぜ魔族はここまでムラカ派を助けるのか?その意義が見出せない。労働力の奴隷を捧げる、とあるが、それだけではないだろう。またサニ派も今の状況でも確かに『邪教宣言』を取り下げないのはおかしい。この令嬢の話を聞いていいかもしれない)


エマは一人また一人と味方を増やしていった。時には罵声を浴びせられることもあった。冷笑され門前払いされることもあったが、ただただエルフ族国の未来の為との一点を胸に、エマは忍耐強く対話の道を進んでいくのであった。







そしてとうとう誕生日パーティ当日となった。


ビリクイカ伯爵主催のマヘレット令嬢の誕生日パーティが伯爵邸で開催された。伯爵領内外の貴族たちは期待と興奮に包まれていた。この一大イベントに招かれた貴族たちが、伯爵邸の門をくぐる瞬間、貴族たちは期待で心が高鳴るのを感じていた。


伯爵邸の門は巨大な石造りで装飾され、重厚感と威厳が漂っている。荘厳な幟と旗が風に揺れ、伯爵家のバラの紋章が誇らしげに掲げられていた。門をくぐる瞬間、貴族たちは自分たちが特別な賓客として迎えられていることを感じ、胸を高鳴らせた。この瞬間を迎えるために多くの貴族は美しいドレスやタキシードを身にまとい、華やかな装いで伯爵邸へと向かっていくのだ。


邸内に入ると、美しい大広間が広がっていた。高い天井にはシャンデリアが輝き、壁には巨大な絵画やタペストリーが掛けられていた。美しい彫刻と古代の家具が、ビリクイカ伯爵の歴史と格式を物語っていた。広間の中央には、贅沢に飾られた長いダイニングテーブルが設けられ、金や銀の食器が煌めいていた。


パーティの会場は音楽と笑顔に包まれており、宮廷楽団が優雅な音楽を奏で、踊り子たちが美しい舞踏を披露していた。ガラスのグラスには高級なワインやシャンパンが注がれ、料理はフルコースの豪華さを誇っていた。貴族たちは配られている美酒を楽しむと同時に交流や話題を共有し、新たな友好の輪が広がっていった。


侯爵家の出席者たちも既に場内に入っており、このような重要なメンバーと交流しコネクションを付けようと貴族たちが公爵家の人々に群がっていた。一方で貴族同士も政治的な連携を深め、婚約の提案や同盟の交渉を行っていた。誰それの令嬢は適齢期だ、とか、誰それの令息の武功はどうかなど、話題は尽きなかった。


この伯爵邸でのパーティは贅沢と格式ある社交の場であり、同時に伯爵領内外勢力の結束を強化する重要なイベントとなっていた。貴族たちはこの特別な夜を楽しむことで、自らの役割と責任を感じ、ビリクイカ伯爵の繁栄に貢献することを誓うのだった。




                              ◇



エマは、一参加者として、に付いていた。錚々たる顔ぶれが揃う中で、それぞれの貴族の後ろには2、3名の執事が控えていた。また別室には詰め所が用意され、ビリクイカ伯爵お抱えの護衛兵士が待機していた。


エマの後ろには3人の執事が待機し、何か命令があればすぐに動くように影となり主人に仕えていた。


エマは後方に待機する執事に微笑みながら話しかけていた。


「ノエル、この夜の誕生日パーティは素晴らしいものになりそうね」


「はい、もちろんございます。伯爵閣下も今夜のために多くのことを計画されておられるでしょう。パーティーの成功が期待されます」


エマは周囲を見回しながら、言った。

「まあ、こうしたイベントはいつも緊張しますね。どんな驚きが用意されているのでしょうか?」


フィブラー「伝手からの情報によりますと、音楽と舞踏、そして美食がこの晩にふさわしい楽しみのようです。また特別な発表があるかもしれません」


エマ「それは素晴らしいですね。ビリクイカ伯爵閣下のイベントはいつも非常に洗練されていますから、期待しています。それと後で伯爵閣下とお話しする機会を得たいのですが、可能でしょうか?」


フィブラー「はい、執事を通してお伝えしております。ただし伯爵閣下のスケジュールは非常に忙しいようですので、お待ちいただく必要があるかもしれません」


エマ「わかりました、フィブラー。伯爵閣下がご多忙であることは理解しております。よろしくね」


フィブラー「は!かしこまりました」


エマはその後は、自分の席の近くの貴族と談笑に興じながら時間を過ごしていると主賓の入場の合図がした。


会場の扉がゆっくりと開き、高い天井から吹き抜ける華やかな光が部屋に注ぎ込んだ。トランペットの華麗な音楽が響き渡り、会場内の立ち止まっていた人々が一斉に振り返った。


静寂の中美しい調べの音楽が流れ、煌びやかなカーテンの後ろから伯爵とその一族の者たちが姿を現した。伯爵家の人々は壮麗な王宮の制服を纏っていた。その後ろには伯爵の紋章の入った旗が誇らしげに立てられ、その光景はまるでおとぎ話の世界から抜け出してきたかのようであった。伯爵は優雅に歩みを進め、会場のダイニングテーブルに到達すると、彼の周りの人々が拍手と歓声で迎えた。伯爵は微笑みながら出席者に向けて手を振り感謝の意を示した。


誕生日パーティーの主催者の存在は会場に華やかな雰囲気をもたらし、この特別な夜をより一層魅力的にしていた。


そしてとうとう主役の登場となった。


会場の扉がゆっくりと開き、会場内の騒々しいざわめきが一気に静まりかえった。そして、主賓であるマヘレット令嬢がまるで夢の中から現れたかのように会場の入り口に姿を現した。


伯爵令嬢は美しいドレスに身を包み、そのドレスは宝石で輝いていた。ドレスは夜空を思わせる深い紫色のシルク生地で作られていた。その光沢は星々が空に輝くような輝きを持ち、ドレスのボディは紫のアメジストで美しく飾られ、煌めく星座を模倣している。アメジストの色は深い紫から薄紫まで、さまざまな色調を持っており、それぞれがドレスに深みを与えていた。


ドレスのスカート部分は、エメラルドの緑の葉を模した装飾で覆われていた。これらのエメラルドは森の中の一番美しい翡翠のように輝いており、風になびく草木のように優雅に揺れている。


さらに、ドレスの胸元には深紅のルビーが散りばめられていた。これらのルビーは、情熱と愛情の象徴であり、ドレス全体に華やかさを加えた。ルビーの赤が深い紫と緑と調和して、まるで自然の中に咲く美しい花のようだった。


最後に、ドレスのベルトには青く輝くサファイアが施されていた。サファイアの青は、海のように深く、神秘的であり、ドレスに静かな高貴さを持たせている。


この宝石で飾られたドレスは、まるで自然界の美しさを取り込んだようであり、どんな女性も男性もその魅力に引き寄せられていた。


彼女の髪は華やかにセットされ、髪飾りには貴重な宝石が輝く。伯爵令嬢の美しさと優雅さに、出席者たちは息をのんだ。


マヘレットは優雅に歩みを進め、会場の中央にあるダイニングテーブルに向かって進んだ。その歩みは一挙一動が優雅で、彼女の周りに立ち並んだゲストたちは、その美しさに魅了されていた。彼女の笑顔は会場を明るく照らし、彼女の優雅さはまるで童話の王女そのものだった。


パーティーの開始を告げるファンファーレが鳴り響き、拍手と歓声が会場に広がった。マヘレットは出席者たちに微笑みかけ、彼女の誕生日パーティーが素晴らしいものになることを願い、出席者に謝意を示した。会場は彼女の存在で一層華やかに輝き、パーティーは始まりを迎えたのだった。

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