41 旅路①

それから瞬く間に1ヶ月が経ち、エマには27名の兵士たちとフィブラーさんとアルハさんと俺の3人の給仕を連れて、ビリクイカ伯爵邸に出発することとなった。車も何もない世界だ。その代わりみな魔力を使い身体能力を上げてこの道程を踏破するのだ。総行程は約500キロ。これを1週間で歩き抜くとのことだ。一日ずっとジョギングぐらいのスピードで7時間ぶっ通しで走り続けるつもりだ。大した体力だ。


俺と総副執事長のフィブラーさんと教育係アルハさんとエマは馬車に乗り込み、多くの人たちに見送られながら出発した。


ガルーシュ伯爵邸から出発すること、約1時間。市街地も抜けるとそこには美しい草原が広がり、その中央には一本の道が直線的に伸びていた。この道は風景に爽やかさと平和を感じさせ、ノブの目に映る光景はまさに絶世の美しさだった。


太陽が空高く昇りその光が草原を照らし出すと、草々は鮮やかな緑色に輝き、風に揺れてまるで海の波のように見える。草原には様々な野生の花が咲き誇り、その美しい色彩はまるで生き物のようだ。赤、青、黄、紫、そして白い花々が風に揺れ、微かに香りを運んでくる。


草原の中央を走る一本の道は、土でできた素朴な道で歩く者たちに安定感を与えた。舗装はされてはいないが、多くの人々が歩いてきた形跡がその歴史を土に深く刻み込んでいる。道の両側には草が積み重なり、車輪の跡が明瞭に見えた。地平線まで伸びるこの一本の道は長い旅路を示し、未知の冒険への誘いを持っているようにノブは感じた。


道の脇には木々が点在しその間から微風が吹き抜け、涼しさをもたらす。鳥たちは木の上で歌い、鳴き声が草原に響き渡っていた。美しい鳥たちの歌声は皆の旅路に音楽のような響きをもたらし、誰もがその音楽に耳を傾け、心地の良い雰囲気に気持ちもリラックスしていた。俺はあの毒草の洞窟で作った保存用に乾燥した毒草をポリポリと食べながら、周囲の牧草的な風景を楽しんでいた。


さらに道路の脇には小さな小川が流れており、その水面には太陽の光が反射してキラキラと輝いている。小川のそばには野生の動物たちが姿を現し、水を飲む姿や群れで遊ぶ姿が見られた。これらの動物たちは草原の一部として共存し自然の調和の象徴であった。


昼食の為に気の木陰で小休止をしたが、直ぐに出発。できるだけ行程を前倒しした方がいいとの判断で初日の行程は予想以上に進んでいた。夕暮れが近づくにつれ、太陽は西に傾き、空は赤やオレンジの色に染まった。夕焼けの美しさは、草原と道路に新たな魅力を加え、夜が訪れる前に休息を取る場所を探す皆の心を温かくした。


4日ほど順調に進み、全行程の7分の6を踏破した。もう少し行けばビリクイカ伯爵領都に着くようで、素晴らしいペースで進んでいた。


そんな時、一行は旅路の途中美しい草原を進んでいると先発隊の一名が本隊に戻り、相談があると言って戻ってきた。


先の方に一つの村を見つけたので、そこで今夜の野営をしてはどうかという提案をしてきた。村は小さく穏やかな雰囲気が漂っているとのこと。エマはクリシュナ兵士団長と相談し、全体の行程も計画よりもかなり順調に進んでおり、その日の行程も十分こなしたことを見て取り、その村に立ち寄り一泊させてもらうこととした。クリシュナ兵士団長は、先触れとして一行の到着を伝える様に指示を出した。


一行はそれから20分ほどして、村の入り口に到着した。出迎えてくれたのは、村長と村の中心となるような若者たちだった。彼らは質素な服を身にまとい、広場には子供たちが遊んでいた。何かのお祭りの準備をしているような雰囲気だった。村の中心には小さな井戸と、周囲を取り囲む家々が立ち並んでいるのが見られた。


一行は村の中に入り道行く村人たちに挨拶し、大きな広場に通された。エマは代表として、集まった村人たちに自分たちの旅の目的や周囲の風景の壮大さに感嘆していることを伝え、村人たちは普段はほとんどない外部の人間の様子に興味津々で聞き入りエマ達の話に耳を傾けた。


その後村人たちはエマ一行に村の歴史や文化について語った。彼らは農業と狩猟に従事し、自給自足の生活を送っており、村の結束が非常に強いことを誇りにしていると話した。また地元の祭りや伝統的な行事についても説明し、一行に参加を勧めました。その収穫祭前夜が、まさに本日だというのだ。


夜になると篝火が村のそこあそこに灯り出し、村人たちは中心にある広場に食事の準備をし始めたのでエマ一行も村人たちと共に食事をとることにした。長いテーブルが並び、美味しい料理が供された。村人たちはエマたちを歓迎し、温かく迎え入れてくれた。食事の間笑顔と笑い声が絶えず、一行と村人たちの交流はますます深まっていったのだった。


特に子供たちとの交流は特別なもので、彼らはエマたちに興味津々で手を取って遊ぼうとせがんできた。子供達の純粋さと活気は一行に喜びをもたらし、自然と笑顔が広がっていった。


夜が更け星々が空に輝き始めた頃、村人たちは歌や踊りを披露した。伝統的な音楽が響き渡り、エマたちは村の独特な文化を楽しんだ。村人たちはその美しい音楽と踊りを通じて自分たちの誇りと共感を表現したのだった。


宿泊先を提供してくれる村人たちもいたが、一行は村内の外れた場所で野営を希望し、外れの場所を貸してもらうこととなった。村の静けさと温かさは、一行にとって心休まるものになった


翌朝、一行は村人たちに感謝の意を示し、旅路に戻ることとなった。村人たちは別れ際に手を振り笑顔で見送った。この村に住む村人のように、純朴で優しい人々がいることを誇りに思い、一段とエルフの世がこれからも平穏で進むことを心の底から願った。またエマは、村人たちとの心温まる交流を忘れることはないと思った。このような人々を守るために、私はこの旅を必ず成功させると心に固く誓ったのだった。この出会いは、この世界での旅路が持つ美しさと人々の結束力を一行に教えてくれていたのだった。

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