3 エルフ国激震編

39 ガルーシュ伯爵家の人々

「おはようございます。本日のご予定ですが午前中にアルアハド村への視察、午後はアリスナイン子爵の訪問がございます。子爵はサニ派でして、現在の警察の動きに関してご相談したい事があるとのことです。夕食はエマ様はご家族でお摂りになることになっております。夕食後はお嬢様がご希望されていた、兵士団との訓練がありますが、これはお嬢様の体調次第で、実施の有無はその時にご検討いただいて結構です」


「おはようございます。ありがとう。本日も大切な案件が並んでおりますので、よろしくお願いしますね、ノエル」


「承知いたしました。お嬢様」


「ノエルもエルフ語が上手になりましたね。執事になってからもう1年間経たったかしら?」


「左様でございます」


周囲には何人かの執事たちや給仕たちのいる中での、朝の打ち合わせの場だ。俺は普段とは全く違う態度と口調で、エマに接しなければならなかった。


俺は森脱出の後、マーカス子爵邸に潜入し子爵邸を抵抗する子爵私兵たちを、後顧の憂いを断つ為に根こそぎ皆殺しにし、奴隷たちを解放。子爵邸を焼き払い全ての証拠を隠滅し脱出した。俺はエマに子爵邸焼き討ちにエマと関与は疑われないか、と問うたが、マーカス子爵は多くの貴族たちから恨まれており、魔族としても心当たりがあり過ぎるぐらいあり過ぎるので、犯人は特定されえないでしょう、とエマは語っていた。その判断の元、100人程の奴隷を無事に救出することができた。彼らは全員自由であり俺たちは帰郷を勧めたが、奴隷として拉致された時点で肉親や知り合い、関係者たちは一人残らず殺害されていたので、もう故郷はなく帰るところもない、と肩を落とし涙を流しながら告白していた者がほとんどであった。中には幼子もおり、物心つく前に拉致されていたようだ。その居た堪れない姿を見てエマは全員をガルーシュ伯爵領で引き取ると明言。ぞろぞろと大人数であったがガルーシュ伯爵領土に無事に帰ってくることができ、伯爵当主以下全ての関係者たち、領民たちは歓喜を持ってエマ一行を歓迎した。


『どうやって逃げられたのか?』


それが報告の中で一番の注目となった。彼らはすでにエマがマーカス子爵に襲われている事を知っていた。エマは俺の事を伏せ、セバスの決死の奮闘の末セバスの犠牲を伴ったが何とか逃げ切れたと説明するに留まった。セバスの忠誠心や貢献度、歴史を知る人は彼の死を悼み、あまりに辛い出来事であったので報告会の場は心痛な雰囲気に包まれた。



『同行してきたエルフたちはどうしたのか?』


との問いも出た。帰る途中で出会った避難民を保護したとエマは説明した。その語る悲惨な扱いに心を痛めたガルーシュ家の人々もエマと同様、この領都で彼らを受け入れるべきだとの結論となり、100名程度の元奴隷たちは領都で受け入れられた。彼らには家が与えられ仕事が斡旋された。人が増えるということは経済規模が増えるということだ。上手く人数増加を経済の中に入れ込むことができれば、領都全体の富の増大につながる。それをよく理解している伯爵家の人々と領民たちのおかげで、元奴隷たちは無事にガルーシュ伯爵領に溶け込むことができたのだった。


そして俺の事に関してはその避難民の中にいたこととした。ガルーシュ伯爵邸についた時は俺は顔を隠して、他の避難民に紛れて同行した。エマから伯爵邸にあった変装用魔法アミュレットを受け取り、俺はそれを素早く装着。驚くべきことに俺の髪の色が金色になり目の色が碧眼となった。一般的なエルフ族の耳は長くはあるのだが、短かったとしてもそれほど違和感はないとの話であったので、耳は短いままで放っておくことにしている。


『なぜ、このエルフはエルフ語が話せないか?』


との疑問にはエマは暗い表情をし、ノエルも避難民の中にいた他の幼子のように、幼少時より拉致・人身売買の被害に遭ったようだ、と説明した。最終的に行きついたある貴族の領地では言葉も教えられることなく、危険な鉄鉱山で非人道的な強制労働を強いられていたしていたところ、避難民と一緒に脱出したらしい。その避難民の一団をエマが保護して俺の状況を他の避難民から聞いた、ということになった。


エマとは帰路の途中で色々と相談して、このストーリーが一番理解されやすいだろうと話した。みな不憫な視線で俺を見てこの話を受け入れてくれた。まぁ若干心苦しかったが。今後の活動の中で俺がヒト族であることを隠ぺいするのは、必要な事とは言え、心根の良い人たちを騙しているようで心が痛む。


その後俺はエマを衛兵として護衛することを考えたが、まず俺がその立場になり得る人物になる為には、それだけの戦闘能力を有していることを証明する必要がある。なのでこれは却下。


将来的に魔族に壊滅的な損壊を与える為には、相手にこちらの手を見せない事が戦術上最重要条件な故、自分の戦闘能力は誰にも正確に測らせるつもりはない。味方にも然りだ。敵がこちらの戦力に気付いた時はすでに壊滅。これが勝利の鉄則だ。


しかし潜在的な敵からの、抑止力として俺が護衛に着任している事を見せている方がいいのではないか、との考えも過ぎる。しかしそもそも、こんな140センチぐらい(俺も1年間で10センチは伸びた)しかないヒョロヒョロの子供が護衛に付いて、そもそも抑止力はあるのかなと思うと、やはり護衛役としてはあまり効果的ではないなと結論付けた。正直もう少し厳つい見た目の人物を護衛としては雇うべきだ。しかし俺がエマの護衛をすることは必須だ。はっきり言って俺の周りがエマにとって一番安全だ。昔のセバスの提案を思い出し、エマの『専属執事見習い』として俺を雇うことをエマに提案した。


「『専属執事見習い』ね。わかったわ。いい案だと思うわ、執事見習いさん。(護衛もよろしくお願いね)」と、小声で俺の耳元で付け足しエマは顔を綻ばせた。周囲はエマがエルフの男の子の避難民を不憫に思い、エマお嬢様の近くに置き保護したいのだろう、と思っている。これにも若干だが心が痛む。


俺の素性を改竄しこのように任務についていることは、伯爵家の誰も知らない。知っている人が少なければ少ない程情報漏洩の可能性は下がるから、俺としては安心だ。俺もエマと相談して作ったこの筋書き通りに振舞って行かないといかないといけないので、ボロを出さないように気を付けないといけないなと話し合った。


この伯爵家のエルフたちは俺に言語を教えながら、厳しく俺を執事として躾てくれている。これは本当に助かる。これでエルフ社会において効果的に動ける知識と技能を身に着けることができるからだ。


そんな風に過ごしあの森より脱出してきてかれこれ1年弱経とうとしていた。誰が見ているか分からない状況であるので、二人でいることが絶対に確認できない以上は俺は常に最上級尊敬を持って、エマと接することとしている。


俺は現在朝の打ち合わせが終わり、朝食を他の伯爵執事たちと摂っていた。


俺の教育係をしてくれている30歳ぐらいの男性執事アルハが話しかけてきた。

「ノエル、仕事には慣れたか?」

「はいお陰様で。執事として主人に奉仕することのやりがいをとても感じます」

「ノエルお前は本当に面白いな。その年でそういう感情を言語化できるなんて、早熟すぎるぞ。お前何歳だ?」

「今年で14歳ですがアルハさんのおかげですよ。アルハさんに良くしてもらっているおかげで覚えるべきことがとても簡単に身に付きました。ありがとうございます」


「いや、それはノエルの絶え間ない研鑽のおかげだろう。アルハもノエルみたいに一生懸命に働け。ノエルの元で働くことになることも、そんな遠くの未来ではないぞ」とはアルハさんの先輩執事のフィブラーさんが口を挟んできた。


「いや~フィブラーさん、御冗談を。ははははは!まだ14歳の子供には負けないですよ」


「いやノエルは年の割にかなり仕事ができている。驚異的だ。正直俺にはノエルが歴戦の戦士の様な雰囲気を感じるんだ。おっと、あまりノエルの過去に触れるのは無神経だったな。すまん」


「いえいえ。大丈夫ですよ。それに買い被りですよ、フィブラーさん。アルハさん、今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」


アルハはもちろん執事としての仕事はしっかりとこなせる人物であったが、私生活が壊滅的であった。彼は遊び人で給与は全て博打か女か酒に消えていくという、瞬間最大風速こそ大切との心情で生きていた。色町で遊び酒場で騒ぎ、普通の生活をしていれば絶対に会わないであろうエルフたちと親交があるのが、彼の欠点であり魅力だったりする。いつも町に繰り出す時は俺も誘われる。俺も男だ。もちろん興味はなくはないが、今は自分のやるべき事に集中したいので基本断っているがどうしても断れず行く羽目になったとき、なぜかいざ行く段になるとエマから仕事を頼まれたり、仕事が急きょ忙しくなったりして行けなくなったりする。エマからはそんな時、笑顔で「どこに行くの?」と背後からゴゴゴゴゴと圧が見えていた。もちろん俺は仕事優先なので「仕事をしています」と何故か冷や汗をかいたものだ。エマは何か知っているのか?と疑う時もある。


こんなアルハだがもし俺に兄貴がいたらこんな感じだったんじゃないかな、と思う場面が時々ある。よく俺が一人で鍛錬をしている時なんかは、そっと飲み物や汗拭き様の布を差し入れしてくれる。よく俺が黄昏ながら夜空の星を見て今後の事を考えていると、横に座って何も言わないで一緒に同じ方向を見ていてくれている。変な詮索もしない。余計な言葉もない。ただ時間を共有してくれる。俺が話したい時に話を聞いてくれる。誰か人が気にしてくれている、という感覚だけが俺の心を癒してくれている。本当にいい人だ。


そしてフィブラーさんは、俺を家族のように接してくれていた。彼は仕事一徹の頑固な親父の様な人だ。年は40歳ほど。奥さんはとても美人で子供たちも8歳と5歳と2歳の3兄弟。全員男の子でとてもやんちゃ盛り。夕食によく呼んでくれ、家の中は荒れ放題だが、その中でも笑顔で迎えてくれるフィブラー夫妻には感謝しかない。この人たちと一緒にこの領土で暮らせばと思うことは何度もある。俺にはあまりに居心地が良く、全てを忘れてここに居ついてしまうかもしれないと思うぐらい、ガルーシュ伯爵領は心が落ち着く。俺にとっての第二の故郷のようだ。


この執事たちに輪をかけて伯爵家のエルフたちは、人格者のエルフたちばかりだ。このガルーシュ伯爵当主からしてかなりできた人だ。アルベルト・ル・ガルーシュ伯爵当主は領民から深く尊敬され、愛される存在だった。アルベルトさんの性格の特徴は、まず思いやりの深さだ。彼は領民の幸福を最優先に考え、彼らの困難な状況に共感し手助けをすることを常に心掛けていた。彼は貧しい人々に対しては特に敏感で、飢えている人々に食べ物を提供し寒い季節には衣服と暖房を提供するための公共事業を推進した。彼の領土では、誰もが必要な援助を受ける権利が保障されていたのだ。


さらにアルベルトさんは寛容な考え方を持っており、異なる文化を尊重していた。エルフ国セダムは広大な国土であり、それぞれの地域には様々な伝統・習慣が存在している。皆『エルフ』の名の下にお互いの事を理解できるわけではない。地理的な距離の隔たりは、異文化の多様性を生む。彼の領内方針は『多文化異文化の奨励・保護』であったがために、異なる文化・慣習を持つ人々が遠方より移住してくることはよくあった。大きなトラブルもなく、伝統・習慣の違うエルフたちはガルーシュ伯爵領で平和に共存できていた。彼は他地域の協力と友好を推し進め、他領との平和的な関係を築く努力を怠ることはなかった。


アルベルトさんは教育にも力を入れていた。彼は教育機関の整備を進め、領民が知識を得られるようにしていたのだ。特に若い世代への教育に力を入れ、才能を伸ばす機会を提供していた。彼は「知識こそが力であり未来を築く鍵だ」とよく領民を教育しその信念を領中に広めている、稀有の治世者だった。農民や狩猟民の中には、子供たちに本を読めるようにするよりも『労働力』として期待していたため、それほど多くの農家・狩猟民が子供たちを教育機関に送ることはなかったが、その中でも希望をする人々には教育を施し、人材を発掘し育成することで永続的な領運営の発展を期しているのだ。彼はまさに地に足を付け、直近の生活に必要な衣食住の確保をしながら遠大な平和な世を見据えて行動しているのだ。


さらに、領内の経済発展とそのための環境保護を精力的に進めていた。産業はこの世界では基本、第一次産業の農業と狩猟だ。彼は領内の自然環境を守り、この世界ではそんな言葉は存在しないだろうが、『持続可能な開発』を促進していた。国内の森林や川を保護し、災害対策をし農民たちが安全に農業に従事できるように、また狩猟民が継続的に獣を獲れるよう取り組みを行っていた。彼は環境への配慮を領内の価値観として普及させ、次世代への遺産を守るために努力していたのだ。


アルベルトさんの優れた人格は領民に間違いなく希望と幸せをもたらしている。領民は彼に対して深い信頼を寄せ彼の指導のもとで伯爵領は繁栄していた。彼の治世は領内外で尊敬され、模範とされている。よく他領からの派遣団がガルーシュ伯爵やその伯爵家との面会を希望し、ガルーシュ伯爵家の人々は惜しみなくその知識や技能を共有していた。アルベルトさんの慈悲深い心は彼の治世者としての偉大さをより一層際立たせ、彼の名前は世代を超えて語り継がれていくだろうと、誰もが語り誇りをもってこの領内で住んでいるのだ。


こんな素晴らしい領主としての才能に溢れるアルベルトさんは実はとてもズボラな性格もしている。一人では色んなミスを連発する人なので、彼の部下たちは彼を危なっかしくて一人にはしない。アルベルトさんも自分の事を十分に分かっているので、謙虚に周囲の人々に全幅の信頼を置いて仕事をしていた。そのため「アルベルト様の為なら、一肌脱ぐか」と皆アルベルトさんを中心に、領民の為また領発展のために身を粉にして自主的に働いているのだ。こういうリーダーの形も有りだな、とアルベルトさんを見ていて思う。


ガルーシュ伯爵家にはアルベルトさんと妻のサラ、2人の娘と1人の息子がいる。アルベルト・ル・ガルーシュ伯爵はこの王国内では珍しく正室のみで側室を持たない、愛妻家としても有名であった。子供たちは25歳の長男のスィフル、20歳の長女のティサ、そして16歳の次女のエマ。


伯爵夫人のサラはその存在自体が周囲に安心感をもたらす存在だった。彼女の姿勢や行動、言葉遣いからは強さと安定感がにじみ出ていた。彼女は家族の中で頼りにされ信頼される存在である。俺の世界で言うなら、『かかあ天下』だろうか。


まず彼女の容姿からは一目でそのしっかり者さが感じられた。髪はいつも整然とまとめられ清潔感があり服装もシンプルでありながら品のあるものを選んでいた。彼女の笑顔は温かく家族や友人たちに対して常に優しい微笑みを向けていた。その笑顔は彼女が家庭を支える喜びを感じていることを物語っていた。


サラは困難な状況にも立ち向かう力を持っている。家庭内の問題や困難な局面に対して、彼女は冷静で解決策を見つけるための柔軟性を兼ね備えていた。彼女の意思決定は家族全体の幸福を考えており、その判断基準は常に家族と領民のためにあった。彼女の意志の強さと決断力は、家庭においても伯爵領の政治においても、安定感をもたらしどんな困難な時期も乗り越える力になっていた。


彼女は自分の価値観と信念に忠実であり、それを家族にも教える存在だった。彼女は特に正直さと誠実さを重要視し、家族にもそれを尊重するように促していた。また責任感が強く、自分が約束したことは必ず守る姿勢があった。その姿勢は子供たちにも影響を与え責任を果たす重要性を教えていたのだ。


そして彼女は愛情深く、家族全員に対して常に愛を注いでいた。彼女の愛情は言葉や行動で表現され家族が困難な瞬間でも支えとなっていた。彼女の優しさと思いやりは、家庭を温かく包み込む存在であり家族が幸せで結束力のある関係を築く要因だった。


そんなサラはその強さ、安定感、愛情深さ、責任感、そして家族への献身心からなる素晴らしい存在だ。彼女は、家庭と伯爵領における安心感と幸福感を生み出すものであり、彼女がいることで家族と伯爵領は困難を乗り越え、共に成長し、愛に満ちた生活を楽しんでいたのだった。


25歳長男のスィフル。彼のリーダーシップはまさに圧倒的だった。彼は高い誠実さと知恵を備え領民から深い尊敬を受けていた。彼はその風格と資質を持っていた。


スィフルは身長が高く品のある立ち居振る舞いが特徴的だった。彼の髪は金髪で長めに伸ばし、彼の知恵と経験を示しているようだった。その瞳は深いブルーでまるで未来を見つめるかのように常に輝いていた。彼の顔には微笑みが絶えず、周囲に安心感と希望を与えていた。


スィフルは敬虔な信仰心を持ち、領内の宗教的な行事には常に積極的に参加していた。その信仰心は彼のリーダーシップに深い影響を与え、領民の困難な瞬間にも希望を与えた。彼は領内外の重要な出来事においても、常に信念に基づいた決断を下すことができていた。


教育にも熱心で、他領との外交においても優れた交渉術を持っていた。彼の教養と知識は伯爵領を他領との関係を深め、発展させる大きな力となっていた。また彼は常に新しいアイディアや技術の導入に積極的で、伯爵領を先進的な地域へと導いていた。


スィフルは領民の幸福を最優先事項と考え、社会的な公正を実現するために努力し続けていた。貧困層や弱者の声に耳を傾け彼らの生活を改善するための政策を推進していた。彼の情熱と行動力は、領内外の人々から高く評価されていた。


さらに、スィフルは軍事力を全てはく奪されたエルフ族に対する政策に対して、領土の安全を守るために必要な措置を講じていた。ガルーシュ伯爵に所属する兵士団を組織するが、全て素手。しかし魔力の向上を普段の訓練の一部として、いつでも戦争に参加できるように訓練は怠らなかった。しかしだからといって彼は好戦的というと全くそんなことはなく、彼は平和を愛し紛争解決に積極的に取り組む姿勢を示し、戦争は必ず回避し外交による解決を優先していた。


スィフルのリーダーシップは領内外で高く評価され、彼の指導の下で伯爵領は繁栄し安定した未来に向かって進化していた。その魅力的な姿勢、知識、信仰心、そして国民への深い愛情は、彼を真のリーダーとして讃える理由であった。間違いなく、次期伯爵当主になることは誰の目にも明らかであり、そのつもりでスィフルも精力的に政務に取り組んでいた。


20歳のティサは、慈悲深い女性として魅力的な女性であった。その優しさと思いやりは領内全体に広がっていた。彼女は美しい姿を持ちながらその美しさを鼻にかけることはなく、むしろ謙虚な心で溢れ、他の人々の幸福を第一に考えることができる人であった。


ティサは領内で様々な慈善活動を行っていた。彼女は孤児院を支援し貧しい人々に食事や衣服を提供するために自身の財産を使った。彼女はまた病気や困難な状況にある人々のために医療支援を提供し病院を訪れ、病人たちと励ましの言葉を交わすことが日常的であった。


ティサは知識や教育にも情熱を注いでいた。彼女は領内の学校に出向き教師と生徒たちと交流し、教育の重要性を説いた。彼女は教育の機会を広げ、特に貧しい子供たちに教育の機会を提供するために努力した。彼女の尽力により、領内の教育水準は向上し多くの若者が明るい未来を夢見ることができるようになっているのだった。


その優れたリーダーシップと慈悲深さにより、ティサは領内外で高い評判を得ていた。彼女は父であるアルベルトさんからも全幅の信頼を置かれ、政治的な問題にも参与し、公平な意思決定に寄与した。彼女は力と優しさを兼ね備え、領民からの尊敬を集めた。


しかし、ティサは決して自分の功績を誇示することはなかった。彼女は謙虚で控えめであり、自分の行動が他の人々の幸福に寄与することを最優先としていた。彼女は一人一人の人々と深いつながりを築き、彼らの悩みや苦労に共感し共に困難を乗り越える力を与えていた。


ティサの慈悲深さは領土全体に広がり、伯爵領は豊かで調和の取れた場所として栄えた。彼女は善行を積み重ね、多くの人々の生活に希望と幸福をもたらした。彼女の存在は伯爵家の宝であった。


このような人柄も行動力も、魅力に溢れたティサには王国中から婚約の申し出が絶えることはなかった。その美しさは言葉を超え彼女の慈悲深さや知識、優れたリーダーシップと相まって、多くの人々を惹きつけた。彼女は王国内で高く評価され、彼女の手を求める声は絶えなかった。彼女の父アルベルトと母サラは、彼女の幸せと伯爵領の利益を考えて、慎重にこれらの申し出を検討していた。彼はティサの意向を尊重し、彼女が自分の心から愛する相手を選ぶことを望んでいたからだ。


ティサ自身も婚約の申し出について慎重に考えていた。彼女は自分の心を正直に見つめ、将来の伴侶に求める条件を明確にし、その条件に合致するかどうかを検討していた。彼女は伯爵領またひいては王国の未来にも貢献したいという強い意志を持ちつつ、自分自身の幸せも重要に考えていた。


彼女の周りには多くの婚約候補者が集まり、彼女との会話や交流を求めて競い合った。彼女は一人一人の候補者と時間を過ごし、その人の性格や価値観を理解しようとした。彼女の選択は慎重に行われた。感情だけでなく将来のパートナーシップにおいても成功を約束するものでなければならなかったからだ。


ティサの婚約についての決定は伯爵領全体に影響を与えるものであるため、彼女の選択は賢明であるべきだったのだ。彼女は自分の社会的な立ち位置をよく弁えていた。彼女は自分の心に従いつつも、伯爵領、王国と自分自身の幸せをバランスよく考えていたのだった。


ティサが内政に特化した動きをしているなら、16歳の次女のエマは外交に打って出ることが多かった。その行動力の活発さにはアルベルトもサラもスフィルもティサも非常に気を揉む場面は多く、伯爵領の為また王国の為に献身的に活躍する姿は素晴らしいが、正直ティサのように領内の活動に限定することを正直希望していたのだった。しかし活発で理知的なエマはそんな心配もよそに、今日も人々の中に身を投じ王国の未来の為と奮闘しているのであった。彼女の交渉術のスキルがあまりに高かった為彼女は自分のしたいことを十二分に励めていたのだ。

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