38 リーダー決め

「姫さんに呼ばれてきたがお前たちも来ていたのか」


菅原光輝は開いたドアを通り、個室内に入ってきた。すぐに空いている席を見つけサリア姫の横に腰を下ろした。


「よう、お前ら元気だったか。死んでなかったんだな」


春日は喜びながら返事を返した。

「おぉ!菅原!お前が新しく、俺のパーティに入るメンバーか。これは楽しみだな」


「ん?どういうことだ?」


「ん?お前、何も話は聞いていないのか?俺たちが世界の覇者になるって話だ」


「ん?なんだそれ?はははは。今そんな話になっているのか?おい、お前も入れよ。なんか面白い話になっているぞ」


後ろから入ってきたのは、賢者(S)の真木千尋だった。

「菅原君、もう先先行くから見失うじゃない」


「お前が遅いからだろ。さっさとこっちにこいよ」


「もー」と言って、真木は菅原の隣に座った。


菅原は座ってから給仕に赤ワインを2つ頼み、目の前の何品かを皿に取り分け、いくらか口に入れてから話し始めた。

「まぁ春日、待て。最初に言っておくが、姫さんの話は既に聞いている。超高純度魔鉱石の話だろ。エルフ領にあるって話の。それで俺の力が必要だということで俺は行くつもりでいる。千尋も一緒だ。お前たちも行くのか?だったら今回はお前たちを俺のパーティに入れてやる。お前たち結構ぬるい生活を送っているようだから、俺がしっかりと鍛え直してやるよ」


との菅原の上から目線の発言に春日はうっすらと青筋を立てながら、ゆっくりと口を開いた。

「おい、菅原。お前、頭おかしいんじゃないのか?お前はなんだ、メンバーの佐々木が殺されたらしいな。お前がリーダーになったら誰か死ぬんじゃないのか?それに、お前のパーティの言霊の精霊使い(B)の森日葵は、そんな無残なパーティメンバーの死を見て、今は城内で療養中と聞く。とんだ暴威の王だな」と菅原を挑発的に詰った。


菅原は春日の挑発にニヤッと笑った。

「そうだな。まぁ足手纏いがいなくなり、俺のパーティもかなりスリム化はしたがな。おかげで総合力が格段に向上したぜ。島森旭に関しては俺が仕込んだ暗殺術で、今は諜報部隊員にスカウトされ大陸中を飛び回っている。勇者で暗殺者で間諜だ。まぁ基本敵なしだな。


それに比べて、お前は中部戦線の後ろの方で兵士団に守られながら戦っているらしいな。まぁあそこは激戦地だからな、お前を護衛する兵士団も大変だよ。俺たちは南部の死の森でずっと訓練をしていたぜ。あそこはいい。常に死と隣合わせだ。俺と千尋でずっとそこで生き残り戦ってきたんだ。姫さんからお達しがあったから帰ってきたが、まぁ守られた人間たちと死に際をずっと生きてきた俺たちでは、経験値が違い過ぎる。お前では俺を使えん。俺がお前を使ってやるよ」


と言いながら赤石そらと三原美幸をそれぞれ舐めるように見た。

「それにそらと美幸か。いいメンバーがいるじゃねえか。なぁお前ら、俺がうまく使ってやるからこっちに来な。お前らの世界を一変させてやるぜ」と隣の千尋の肩を引き寄せ「なぁ」と千尋に同意を求めた。千尋もまんざらじゃない様子で、「菅原君は手が早いからね」となされるがままにされながら、菅原の胸に頭を寄せて料理を口に運んでいた。


「ふざけるな!このパーティは俺のパーティだ!お前の勝手にはならん!!」


「お前まだそらと美幸を食ってないんだろ?お前はこの2年間何していんだ?そいつらに女としての喜びも与えてやらないで。それでそいつらが死んだら人生の最上の喜びを味わうことなく後悔して死ぬんだぞ。だからお前はリーダーとしての資格がねぇって言ってんだよ。俺はパーティメンバーの女は全員組み敷いてきたぜ。要は信頼されてねぇんだよ、お前は」


「関係ない!!俺は彼女たちを女性として大切に扱っているんだ!お前とは違うやり方でこのパーティをリードしている。菅原、お前は所詮森の中で死に際を生きてきたというが、どれぐらいのものか疑わしいがな。俺は中部戦線で魔族とも戦ってきた。60位ぐらいならもう負けん。お前は魔族と戦ったことがあるのか?」


「まぁねぇわな。南部にはいなかったからよ」


春日は鬼の首を取ったかのように喜びここを突破口にして責め立てていった。

「そうだろ!戦略的に重要じゃないんだよ、お前の南部は。俺がいたところは最激戦区だ。そこで生き延びてきたんだ。お前とは格が違う」


菅原は黙ったまま静かに春日を睨め付け、短い言葉で言い放った。

「じゃあ、試してみるか?」


その威圧感は周囲に何百キロかの重りを置いたかのような重圧が感じられた。


三原は思った。


(これは何かのスキルを使っているのかしら。ただの睨むだけでこれほどの殺気と重圧を感じることはないわ。やはり菅原君も相当の修羅場をくぐってきたのね)


春日も同様なことを思ったが、菅原を認めてしまうと今までの自分を否定してしまうような焦燥感を感じて「やってやるよ。今ここでな」と反射的に言葉を返してしまった。


「阿呆が。こんな高級料亭で戦えるか。表に出な。井の中の蛙大海を知らずって言葉を教えてやるぜ」


「バカが。お前の様な奴を遼東の豕と言うんだよ、豚野郎が」


そうお互いを罵り合いながら、二人は個室からズガズガと出て行った。残った8名はあまりの勢いに唖然とした。突然口論が始まりケンカ。しかも二人は勇者同士であり戦えば勇者VS暴威の王。ここらあたりが焦土と化さないか心配だったが、そんなことよりも久しぶりに会った千尋のことに興味津々であった第一パーティの女子たちはそこから三原、赤石、サリア、真木のガールズトークを始めた。柏原と立石はまさかそんな場にいたいとは露も思わず、いたたまれない雰囲気になる前にスルっとその場から抜け出した。「春日と菅原の決闘が、死闘ならないように見守らないとな」呟きながら春日と菅原の後を追って行った。


柏原と立石は街から離れた原っぱに着いた時には、すでに戦闘はスタートしていた。凄まじく苛烈な戦闘が目前には繰り広げられていた。意地と意地のぶつかり合いだ。


春日は無尽蔵の魔力を駆使して全属性を乗せ無数の斬撃を菅原に浴びせ掛けていた。菅原は物理防御無効化・魔法防御無効化を同時展開し、全ての攻撃を無効化していった。


「効かんぞ!どうした春日!こんなものか?!」


「バカが。そんなわけあるか!これでも喰らえ!」


水魔法ウォーターを発現し菅原の周囲半径10メートルを1メートルぐらいの水で浸水させた。そして雷魔法サンダーを放った。


ガガガガガガガガガッ!!!!!


春日の体は雷で痺れていった。「ふん。こんなもの!」と、体全身に力を込めて痺れを取り除いた。そこに春日が突っ込身縦横無尽に剣戟を振るっていった。


あまりの攻撃の猛烈さに菅原も防御一辺倒になってその場に亀のようになって、立ち尽くしていた。真向斬りから、袈裟斬り、一文字斬り、逆袈裟斬りで菅原の体を空中に浮かし、返す剣戟で左袈裟斬り。菅原の体が地面に激突。その後倒れている菅原に左一文字斬り、袈裟斬り、突きと猛烈な攻撃が菅原を襲った。


春日が蹴りを放ち菅原の側頭部にクリーンヒット。菅原は横に吹っ飛んでいたところを、春日の追撃の何百かあるかも数えられないような刃撃が、菅原に着弾していった。


ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!


柏原と立石は二人の理性がまだあったのか、と思ったのは二人の戦闘の場が街外れの何もない原っぱだったからだ。もしこれが街中なら、その街全体はすでに余波で壊滅状態に陥っているだろう。


砂塵が舞い草などがヒラヒラと落ちる中、一つの影が立ち上がるのが目視できる。


「なかなかやるな。確かに中部戦線で戦っていたことだけはあるな」


「お前も今の猛攻で、普通に立っていられるのは賢魔60位レベルは超えているぞ」


菅原はそんなことを言われても何も嬉しくないかのような表情をして、叫んだ。

「これでも喰らいな!!」


菅原は拳を深く構え、超高速の正拳突きをその場で行った。空気砲のように魔力と拳圧が春日を襲う。春日は剣でそれを受け止めるが、それなりの衝撃はあったようで表情が少し歪んだ。


「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!」


正拳突きの連発から発生する魔力を伴う空気砲が、春日の頭部からつま先まで衝撃波のように当たっていく。


ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!


剣で防げるものもあれば躱すものもあった。しかしほとんどが春日の体に着弾。春日が身に纏っている鎧を凹ましダメージを蓄積していく。


拳弾を防いでいる間に菅原が大きく跳躍し上空から春日を強襲した。両手を組み鉄槌のように振り降ろし、春日の頭部の天辺部分に激突。


ドンッ!!!!!!!


春日の頭部が地面に激突。蜘蛛の巣上に地面が割れ春日の頭が地面に突き刺さった。その状態から菅原は春日の片足を持ち上げ、強引にそこから春日を引き抜き、グルグルと春日を片手でコマのように回しその勢いをもって、地面に何度も叩きつけて行った。


(まずい!!死ぬぞ!!)


そう思い、柏原と立石が走り出そうとした。その時。


春日は斬撃を溜めていたようで、強烈な斬撃を菅原の顔面に炸裂させた。


次は菅原が50メートルほど後方へ吹っ飛んでいった。


春日は物理攻撃耐性を強化させて、当たるタイミングで無尽蔵にある魔力を当たる箇所に集中させ、今の激しい攻撃の中でもほとんどダメージが無い状態で切り抜けていたのだ。


首を鳴らしながら菅原が立ち上がり、一足飛びで春日の元に跳んできた。着地のタイミングを狙いすまし、上段からの真っ向切り下ろしを浴びせた。逆利き腕でその斬撃を受け、思い切り空いている春日のボディに右腕のボディブローを突き刺した。


しかし、微動だにしない春日は菅原の攻撃に対して意に介さないように無視し、菅原への猛攻撃を始めた。菅原もダメージが通っているいないに関わらず足を止めてのノーガードで打ち合いを始めた。


ガン!!バキ!!ドン!!ザシュッ!!バガ!!


一瞬春日が大きな振りとなった瞬間を菅原は見逃さず、すかさずゼロ距離にまで間合いを詰め春日の服を掴み、一本背負いをした。それからの首絞め。しかし春日はありったけの魔力を解放し、菅原を空中へと吹き飛ばした。30メートル先の地面に激突した菅原だった。静かに立ち上がり呼吸を整える。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」と菅原は自分の体のダメージを調べる。魔力は目減りしていることは否めない。しかしまだ70%ぐらいは残っている。あとこの戦いは3時間は行けるな。しかし春日の魔力は無尽蔵だ。なるほど。かなり成長はしている。魔力操作がうまい。防御に対して非常にうまく魔力がそこに集中されている。ダメージがなかなか通らないのがその証拠だ。


攻撃力も高い。最近一緒に稽古を付けてやっていたが、魔力無しでの稽古だったから、実際の攻撃力まではわからなかったがこれほど動けるとはな。

そう菅原は春日の戦闘力を解析し驚いていた。



春日も呼吸を整え菅原の力を解析していた。

とにかく身体能力がバカみたいに高い。目で追えないものもあるので、経験則を最大限に生かして攻撃を予測していかないと、魔力での物理防御を突破される。この戦いを続けるとどこかで奴のスピードに追い付かず、致命傷をもらいかねない。しっかりと丁寧に一つひとつの攻撃に対処していけば勝てるが・・・さて、そんな単調な攻撃を繰り返す奴ではないだろう。最近は菅原と一緒に模擬戦をすることがあるが、お互い魔力無しでの稽古であるので、こいつが魔力を使っての攻撃の理不尽さはマジでえぐい。


自然と春日は獰猛な獣のような表情へなっていき、菅原への殺意を増していった。(こいつは、ここで始末する)


菅原も内から沸々と湧く闘争心が、体中を駆け巡りこれほどの強者と出会えたことへの感謝が脳内を満たした。必ず殺す、との思いで構えを取った。


両雄が一気にお互いへ襲い掛かりまさに拳と剣が激突するその瞬間に、柏原は自分の体を中にいれ防御壁を展開した。


ドン!!!!!!!!

ガン!!!!!!!!


二人は驚いた。柏原が真ん中に入り二人の攻撃を同時に受けたこととその攻撃を完璧に受け切ったことにだ。


「二人、もういいでしょ。お互いの力はさっきのやり取りで十分分かったんじゃないかな?これ以上やるのはもう殺し合いだよ。お互い同郷のよしみで一旦矛を下ろさない?」


二人の間に割って入った柏原の胆力と防御力に驚きを隠せない二人は一旦退いた。少し冷静になった二人はそれでも高ぶる感情でなかなか歩み寄れないでいた。


春日は菅原を睨みながら言い放った。「俺がリーダーだ」


「ふん。お前がそれほど上に立ちたいと思っているのが滑稽だな。まぁいい。ヌルい戦いはしていなかったことだけは認めてやるよ。誰かが頭にならないといけないからな。船頭多くして船山に登ると言う。お前がしたいならまずはお前の指示通りにしてやる。しかし腑抜けたことをしていたらすぐに俺が取って変わるぞ」

「俺はリーダーの座は誰にも譲らない」

「まぁいい。どちらにしらお前の力抜きには、エルフ領の奈落の底で竜やら何やらを倒すのも骨が折れそうだ。強い奴は何人いてもいいからな」

「俺はリーダーの座は譲らんぞ!」

(もうこいつのこの執着は異常だな。姫さんもこんな精神状態の奴に頼む仕事ではないと思うけどな、その超高純度魔鉱石捜索は。何か違う意図でもあるのか?)


そう思いながら肩を竦めて、菅原は一歩引いた。




                ◇




おしゃべりも一旦区切りを付けよう、との話になり遠くから最後の様子だけを見ていた女性陣は「まぁ、どちらがリーダーになっても大差ないだろう」との意見でまとまっており、春日と菅原二人がこちらに向かって歩いてくる様子を見て、力比べは終わったことを確信し二人のところに走っていった。


「俺がリーダーだ」と春日は皆に宣言した。皆は一斉に菅原の方を向いた。(あなたはそれで納得しているのか?)という視線を向けた。

「まぁ、そういうことだな」と菅原は肩を竦めて同意を示した。みなホッとした。とにかくケンカは終わったということは間違いないみたいだ。


「まぁこれで一件落着ね。いいチームになるわよ、このメンバーなら」と千尋は明るい調子で二人に声をかけた。


それから皆で今後の戦闘スタイルやスケジュールを話し合い、サリア姫からは1か月後にはエルフ領へ出発してもらいたいとの話を受け、各人が今後の長期間の遠征に迎えるに当たり、関係各所への連携、連絡、引継ぎなどを頭の中で組み立てていた。


そして慌ただしくあった日々を皆送り、遠征に向けて準備を始めたのだった。

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