36 超高純度魔鉱石

サリア姫は、少し口角を上げて、穏やかに話し出した。

「実は、先日、ある信頼のできる筋から報告があり、エルフ領内に『奈落の底』があることが確認されました」


サリア姫の第一声から何を言っているか分からず、春日は質問を挟んだ。


「待ってくれ。色々と分からないことがありすぎる。そのエルフ領というのは何なんだ。この世界にはエルフがいるとは聞いていたが、どこにその領土があるんだ。それに、何だ、その『奈落の底』というのは?それが見つかったから、どうしたんだ?」


「はい、もちろん、皆様には初めての話でありますので、一つひとつ丁寧にご説明いたします。


まず、エルフ領でございますが、ヒト族国ファーダムの最南部に死の森がございます。非常に広大な範囲に広がる森林です。その森を抜け、森の中の聳え立つ山脈を越え、また更に続く死の森を抜けた先に、エルフ領があります。この死の森を越えてのエルフ領への到達、または、海路からのエルフ領への到達は、共に不可能です。死の森を訪れた方なら分かりますが、あそこに棲み付いている森の魔獣はレベルが段違い。何故かはわかりません。もしかしたら、後に説明いたします、エルフ族の『魔葬』に関係しているのかもしれません。


とにかく死の森は、1日でも滞在することは非常に危険な場所であります。その森を通り、更に危険な山脈を抜け、更に森の中を通るは長い年月を必要とすると想定されますので、交易や国交の為に道を切り開き、舗装するために、森に滞在することは不可能です。今までの長い歴史の中でも挑戦する人はいましたが、成功した人は誰一人としていませんでした。絶界の世界です。


また近海に棲む、あまりにも凶悪な海洋魔獣の為、この世界において、航海技術は発展していません。私たちの戦力や技術では、沖合や遠洋に出航することは非常に難しいのです。なので、漁は全て沿岸付近のみ行われております。そして、海上航行における、エルフ領到達は不可能です。


しかし、私たちの国には、実は間諜部隊があります。その部隊は隠蔽魔法技術を使い、少人数ですが間諜として、エルフ国へ渡り、侵入させております。すでに長年、そのようなことを続けているのです。森と海の間の、まだ比較的死亡率が低いルートを確保しております。その者たちから転移魔法技術を使い、報告レポートのみを送る事で、定期的な報告を送らせております。そのおかげで、私たちは長年、エルフ領の研究を行うことができ、エルフ領の情勢も正確に把握することができています。その中で、今まで長年探してきた、あるかないかもわからなかった、ある『魔鉱石』が発見される見込みが非常に高い場所が見つかりました。


まずは、この『魔鉱石』ですが、それは『超高純度魔鉱石』と呼ばれる品物です。」


春日「超高純度魔鉱石・・・。なんだそれは?」


「この魔鉱石の威力は、伝説や古文書の解析と、諜報部隊からの報告を総合的に合わせ、推測すると、以下のように予測できるようです。一体の上位魔族の魔鉱石を1と換算すると、その超高純度魔鉱石は、約1000万とも言われています。」


「「「「「1・・・1000万!!!!!!」」」」」勇者パーティは全員、唖然とした。


「そ・・・それが、あればもしかしたら勇者全員を地球に帰すことは・・・?」


「はい、もちろん可能になり、この魔族との戦争もおそらく終わるでしょう。これほどの魔力があれば、超火力魔法兵器を、無制限に構築することは可能になりますし、この大陸の魔族の領土はもちろんの事、他の大陸の魔族領土も全て灰燼に帰すことも可能となるでしょう。」


春日は、話のスケールのあまりの大きさに茫然としながら、言葉を継いだ。

「そ・・・そ・・・そんなことが可能となるとは・・・。し・・・しかし、そんなものがどうやって見つかったんだ??そんなものがどこに保管されてあるんだ??なぜ誰も、それに手を付けていないんだ?エルフ族はそのことを知らないのか?!」


「一つひとつご説明いたします。実は、この魔鉱石は『奈落の底』というダンジョンの最下層に形成されると伝えられています。


この『奈落の底』というダンジョンは、どうやって形成されるかがですが、長期間に渡り、魔力が溜まり物質化され、その魔力に魅せられ引き寄せられた魔獣が集まり、その魔獣がお互いを捕食し合い、その死骸にある魔鉱石がまた堆積し、という具合に魔力の溜まり場となっていくのです。一番堆積された魔力のコアのようなものが最下層に凝縮されると言い伝えがあります。


実は、小さい奈落の底が、エルフ領で約300年前に見つかったようです。その入り口の大きさは直径約1メートル。深さは、約100メートル。その最下層で見つかった高純度魔鉱石の大きさは直径約10センチ。その魔鉱石を使い、エルフ族は最強兵士を作り上げ、劣勢になっていた戦争をひっくり返したようです。その魔鉱石を手に入れたのが、サニ派と呼ばれる太陽神を信仰する派閥の法王ナーリア37世でありました。元々排他的であったサニ派は、その力を使い、サニ派以外の宗教は、全て邪教徒であるとの強硬的な宣言しました。当時の国王ソーマ5世も熱心なサニ派の信徒であった為、『サニ派以外邪教』を国の方針とし、サニ派中心の国作りをしたようです。今は情勢が全くの逆になっているようですが。それはともかく、当時、その直径10センチの魔鉱石でさえも、劣勢のエルフ族は、魔族を追い払うことができました。その魔力を使用して、サニ派の兵士たちを死兵に変えることができたようです。


そして、今回見つかった奈落の底の入り口の大きさは、直径約10メートル。はるかに巨大です。最終的な魔鉱石の大きさは、入り口とそのダンジョンの深さに高い相関関係があるようですので、見つかる魔鉱石も直径約1メートルと予測されます。威力もおそらく、300年前の魔鉱石の約1000倍の力があると考えられます。この魔鉱石が手に入れば、この大陸の覇者、いえ、この世界の覇者となるでしょう。」


「どうして、それがエルフ族領で見つかるのですか?」


「これは、私たちのただ単なる推論でしかありませんが、おそらくエルフ族が伝統としている、死体処理の仕方に由来されている、のではないかと。エルフ族は死体を『魔葬』と呼ばれる方法で葬ります。ヒト族や獣族では、火葬や埋葬、また海に流すこともあります。『魔葬』では、死体全体を魔素に分解し、それを空気中に放出します。そして、その魔素は、大気の流れの中で、どこか一箇所に溜まったときに、そこが『奈落の底』となり、その中で超純度の魔鉱石が形成されるのではないか、と。私たちがこう推論しているのは、昔よりヒト族に伝わる古文書と、長年にわたるエルフ領における血の滲むような、多くの犠牲を伴う諜報部隊員たちの調査によるものです。もしかすると、この魔素の放出のため、死の森が形成されたかもしれない、と予測もされています。現在のエルフ族が、この奈落の底を調査•活用しないのは、私達ほど、入念な研究調査をしていないからです。」


「それは・・・それは・・・それは、高度に国家機密のような・・・レベルの話ではないのですか?」と、慌てながら、三原は素朴な疑問を言葉にした。


「たしかに高度に国家機密になりますので、是非とも口外しないでいただきたいのですが、これを手に入れたとしても、ヒト族の誰も有効に使えないのです。


まずは、ヒト族にエルフ領に行く方法が現代では確立されてはいませんので、その超高純度魔鉱石を手に入れることはできません。


では、今の形成方法を知り、誰かが人口的にその超高純度魔鉱石を作成しようとしたとしても、不可能です。要は、魔力を溜め込めれば魔鉱石は作れるのでしょうが、それは長年における魔力の堆積と、高圧力・高密度の魔力に露出しないと形成されないのです。決して、現代の魔力技術や魔法師によってできるものではありません。私たちも何度も試しましたが、全て失敗に終わっています。小規模で作ったとしても、魔力が物質化するのに、非常に長い年月を要するようで、ヒト族国ファーダムは生成からは撤退をした経緯がございます。


では、これからその『魔葬』を取り入れればいいではないかという方がおられるかもしれませんが、奈落の底はエルフ領の地形・気流・気候が絶妙に調和してできた、奇跡というべきか、もしくは災害というべき事象なのです。ヒト族国で、これからは魔葬にすべきと変えたとしても、奈落の底ができるのに、何年かかるかもわかりませんし、どこに出来るかもわかりませんし、そもそも、ヒトの死に方を国が決めたとして、それに対する国民達の反応が予測不可能でし、この推論が正しいかどうかも分かりません。もしかしたら、実は全く違う理由で奈落の底ができているのかもしれませんしね。」


この難解にして、あまりに世界の違う事実に、勇者達はただ唖然として話を聞いてるのだった。


三原「そ、それで、サリアさんからのお願いというのは・・・?ま、まさか、その魔鉱石を・・・?」


サリア「その、まさか、でございます。その魔鉱石を、勇者様方に入手していただきたく、エルフ領への極秘潜入をお願いしたいと思っております。」

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