29 変な奴

(変な奴だ)


ダーチのパーティメンバーは怪訝な顔をして、その毛皮を顔に巻いている人物を見た。


ダーチのパーティメンバーの生存率は非常に高い。何故なら常に危険を感じては、すぐに逃げてきたからだ。それが冒険者として最重要事項であるというのが、彼らの信念だ。


強い奴が必ず生き残るのではない。弱い奴が必ず死ぬのでもない。ただ身の程を弁えて居る者が、最後まで生き残るのだ。


その危険察知能力の高いダーチのメンバーたちは、その毛皮の人物を見て戦慄した。全身が粟だった


(待て待て待て待て待て!!!こいつはヤバい!!絶対にヤバい!)


(何が、という説明はつかないが、まずこの魔獣暴走の緊急状況で森から出てきた。この一点でこいつはダメだ)


ダーチのパーティメンバーはその場に5人いたが、ゆっくりと後ずさりをしていく。


(そして、何の問題もないような様子でいること。よく見ると体のそこら中に血が付いている。こいつは絶対に何かこの魔獣暴走に関係している。間違いない。そして魔力で話しかけていること。エルフではない。もしくは、エルフであることを隠しているのか?そんな疑問はどうでもいいとして、こいつは絶対にダメだ)


不審に思ったダーチは、パーティメンバーに声をかけた。「おーい!何かあったか?!」


(聞いていたのは、二人しかエルフはいない、との情報だ。よくよく考えると、あの二人だけでこの森を切り抜けるのはほぼ不可能に近いはずなのだ。それが脱出してきた。何カ月も、この森で生き残るのだ。無理だ。だから、この点に関してもダメだ)


ケンス子爵は後ろで癇癪を起して「何が起こった!?説明しろ!」と喚いている。


(そんな、色んな不可解なことがずっと起こっている、この状況下でこんな謎でしかない奴が森から、陽気に声をかけてきたら、逃げるしかないだろう。即離脱。これしかない!!!)


「〇△%&!!!‘=~“・・・」(野郎ども!!!にげ・・・)


「うるさい」


ノブは水魔法を発動させ、窒息できる適量の水を生成し、目の前の5人のエルフたちの口を塞いだ。


「ぐ・・・ぐが・・・。い・・・いきが・・・。ゴボゴボゴボ。」


まさか草原の中で溺れるとは思いもしなかっただろう。パーティメンバーは藻掻きながら、地面に倒れ伏した。窒息死するまで後少し。


「エマー!!!どうした!!??なぜそんなところに突っ立っているんだ???!!!」


遠くにエマが従順に馬車に乗ろうとしている姿を遠くから視認し、魔力を乗せて大声でエマに状況の説明を求めた。しかしエマは何の反応も示さず、ゆったりと前へ歩みを進めるだけだった。


「しょうがないな。何か交渉でもあったの・・・か・・・?」


地面に横たわっている誰かの体が視界に入った。どこかで見たことのある執事の服。頭はない。


更に遠くを見ると白髪の頭部が無造作に転がっている。


頭の中が真っ白になった。


最悪の想定が頭を過る。





「お嬢様をよろしくお願いいたします。お嬢様はいつも一生懸命で、エルフ国のことの全ての責任を背負っておられます。気丈に振舞っておられますが、実は部屋で一人になった時に、よく泣いておられます。誰かがお嬢様の苦悩を知り、分かち合い、傍にいていただけるだけで、お嬢様は救われるのです。どうか、そのことを分かっていただき、ノブ様にエマ様のお傍にいていただけませんか?」


「何度も言うが、約束できないが、俺の目的と沿う形で、できる限りだ」


「承知いたしました。ありがとうございます」






そんなある日のセバスとのやり取りを思い出す。


「セバス、どこまで俺がエマの傍にいるかは、俺の状況次第だぞ」


と呟き、ノブは大きく跳躍しエマの横に一瞬で降り立った。


兵士たち、またケンスは突然毛皮を蒔いた男がエマの隣に現れたことに、仰天した。


「“#$●%&▲+*◆!!??」(何者!!??)


「エマ、どうした?何かあったのか?」


「・・・」


エマは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、視線をこちらに向け、馬車に歩みを続けていた。


(なんだ。何が起こっている?なぜエマは無言で歩き続けている?どういうことだ?)


周囲では段々と喧騒が大きくなっていくのを感じるが、エマをじっと見ている。そうすると、今まで装着していなかった首飾りをしていることに気付いた。


ノブは植物鑑定を使い続け、ある日そこからあるスキルが進化したことに気付いていた。最近のことだ。その進化したスキルが金属鑑定だ。それを使い首飾りを鑑定した。


『隷属の首輪』


「なるほど隷属の首輪か。それで俺の質問に答えられないんだな?えらく厄介なものを付けられたな」


「な!!!!なぜ知っている!!??」と、横にいたケンスから驚愕の声が聞こえてきた。


「これを取ってもいいのか?」


「な!!!くくく・・・はははは!!!!バカめ!主人となっている者以外が取ると大爆発を起こすのだ!お前が誰か知らんが、お前もろとも爆死するだろう!貴様、何者だ!何が目的だ!?貴様、先ほどからエルフ語を話さんな!誰だ?!」


とギャーギャーうるさいので、エマの足を足払いエマの膝の下に腕を入れ、背中辺りを支え抱き上げた。その姿を見てケンスは、この人物が何をしようとしているかを直ぐに察知して、叫んだ。


「エマ!!!!抵抗しろ!!!」


エマは抵抗をし出し、俺の腕から飛び出るように腕と足をバタつかせ、体を捩らせながら逃げようとする。まぁ、俺の腕力に勝てるような奴が、簡単にいるとは思えないがな。


と思い、再び大きく跳躍しその兵士団と変な蛙のような貴族から200メートルほど離れた。


まるで神隠しにでもあったかのように、毛皮の人物とエマが消えたので、ケンスは周囲を見渡すと遠くに二人を見つけた。


「な、なんだ?!何かのスキルか?!」


俺は暴れるエマを押えながら、エマに優しく話しかけた。


「エマ、たぶん大丈夫と思うが最悪はすまん。お前は死ぬかもしれない。今から隷属の首輪を取るからな。お前を俺の魔力で防護し威力を最小限にする。いいか?」


ジタバタとしながら、エマは目をゆっくりと閉じて、開いた。


(OKということだな)


俺は背中に背負っていた毛皮の袋から万癒の実を俺の口に放り込み、ガキッ!とその実を潰した。自分とエマを魔力で包み、その実と果汁をエマに口移しをした。


「うーーーーー!!!!!」エマは叫びたいが叫べない状態だった。


そして俺は隷属の首輪を握り潰した。


ドガ――――――――ン!!!!!!!!!!


遠く離れた兵士団や貴族をも巻き込む爆発が隷属の首輪から発生した。

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