27 魔獣暴走
「おい、やばいぞ」
「はい、承知しております。異常事態でございますね」
「えっ、どういうこと?」
俺たちは、そこら中にいるエルフの暗殺者を、むしろこちらから襲い殺しながら拠点としている崖にある窪みへと移動し、そこで今後の方針を話し合っていた。
「何故か森の奥の魔獣たちの動きが活発化している。激しく殺し合いが行われているんだ。魔獣も馬鹿じゃない。自分の食い扶持以上の食べ物を狩ろうとしないのが普通なんだが、今俺たちの後方にいるに魔獣たちは、ただただ殺し合いをしている。奴らの数がどんどん数が減っているのは良いのだが、最悪なのは更に後方から新たな魔獣が押し寄せている。だから全体としてもこの辺りの領域にいる魔獣どもは増えている。とにかく異常な状況だ。何が起こっているか分からんが、ここに留まらない方がいい。いつ巻き込まれるか分からん」
「早々にここから退避することを具申いたします」
「で・・・では、すぐに出ましょう。脱出口は、どうだったの?見つかった?」
「境界線上には、警ら隊が待ち構えているようで、逃げ出せる所はありませんでした。どういう理由かこちらの動きを正確に察知されているように思います」
「とにかく、今のうちに動かないと魔物たちの大群と鉢合わせになる可能性が高い。とにかく、移動しながら脱出口を探そうか・・・」
ドンッ!!!
何か爆発音がしかたと思うと、森一帯が一瞬静けさに覆われた。気配で探っていた魔獣たちの動きが一瞬止まった。そして数秒ぐらい経つと、魔獣が一斉に境界線に向かって走り出した。
「なにが起こった??!!」
「我々も境界線の方へ逃げましょう!!!!このままでは魔獣の波に飲まれてしまいます!」
「しかし、そうなると警ら隊に挟み撃ちに合うわ!」
「いえ、お嬢様、もしかするとまだ魔獣の波に乗じて、混乱の中を逃げ切る方がまだマシかもしれません!!」
逃げる
留まる
交戦する
隠れる
俺は、それぞれのメリット・デメリット、今の保有する戦力、体力、数を総合的に勘案した。
今のベストではないがベターな方法は・・・
俺は、頭の中で高速で思考を巡らし、一つの結論に達する。
「よし、俺がここに残り魔獣を食い止める。まだ俺だけなら動きやすいからな。その間に、二人は森から出て警ら隊と相対しろ。エマとセバスの戦力なら、まだこの盤上での最大勢力の魔獣と戦うより、警ら隊と戦って突破して逃げる方が、生き残る可能性は高いだろう」
「し・・・しかし、それではノブ様は・・・」
「駄目よ!ノブだけがここで残れば、生き残れないわ!死ぬなら一緒よ!」
「アホか。俺一人の方がやりやすいんだ。他の人を気にしながら戦うなんていうのは、俺のやり方じゃないんだよ。この1年間、こうやって生きてきた。これが一番、全員の生存率が高い。エマ、死ぬなら一緒じゃない!お前にはやらなければならないことがあるんだろう!とにかく生きろ!さぁ、早くいけ。もう魔物も5分もすれば到着するだろう。早く!!!」
「くっ!!申し訳ございません!!!ノブ様、落ち延びれればガルーシュ伯爵家にて!」
「ノブ、死んだら許さないわよ!!絶対生き延びるのよ!」
「大丈夫だから、早く行け」
二人を急がせ、一人残った。
索敵すると不思議なことに広範囲での魔獣の暴走が起こっているわけではなく、ここに俺たちがいることが分かっているような、そんな不自然な魔獣たちの移動が行われている。
(まるで誰かが人為的に起こしたような。まぁ、考えていてもしょうがない。こんな数の魔物を一気に相手するのは初めてだな。数は、この5キロ圏内であれば、200~300匹ぐらいか。後詰めも来ているのかな。あぁ、どうしてこんな役処に志願するかな。ここから一人逃げるのも正直、選択肢の一つとしては残っている。たぶんあの二人も、そのことも想定して俺を一人ここに残しているんだと思うが。
けども、俺は約束は守る方なんだよ。
復讐するとの自分への誓い、そして2人を助けるという2人との約束。
全部守ってやる!)
一つの毛皮の袋に詰めてある毒草を水魔法のウォーターでふやかし、その毒水と化した凶悪な液体を、魔獣の予想移動経路のところに撒いていった。醜悪な臭いがするが、こんな臭いに、あの魔獣たちはお構いなしに頭から突貫してくるだろう。少しでも魔獣どもの勢いを削れるように、罠もどんどん設置していく。
木をなぎ倒す音。逃げ惑う魔獣の悲鳴。殺しを楽しむかのような享楽した叫び声。だんだんと近づいてくる。結局、俺は逃げることはなかった。この10メートル四方が開けた、森の中の草原に陣取り、魔獣の到来を待った。
「さぁ、来な。全員血祭りにあげてやる」
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