23 ファーダム南部にて ※勇者目線

菅原達のパーティは、現在、冒険者として南部地方の討伐依頼をこなしていた。


ファーダム国内には、魔獣が生息する地点が点在しており、その場所での魔獣の間引きを怠ると、魔獣が溢れかえり、地域住民は多大な被害を被ってしまう。その地域の領主が、その場所の沈静化の責任を負い、自前の兵士団や冒険者ギルドに依頼を発出して、その責務を果たしているのだ。魔獣は魔獣で討伐した時の魔石や素材が日常生活に必須の物もある為、全滅させてしまうと住民たちの生活が破綻することもあり、微妙なバランスを取る必要があるのだ。


現在、魔族との戦線が激化しており、国内の魔獣対策が追いついていないのが現状だ。その為、地域住民への被害が増加しており、冒険者をしている菅原達のような存在への、各地域の安全の依存度はいや増して高まっているのだ。


菅原のパーティは南部の各地を流れながら、その地域地域の魔獣生息場所に赴き、その地点の沈静化の依頼をどんどんとこなしていき、各地での暴威の王パーティの認知が広まっていた。


王国は、勇者の各パーティに、6ヶ月ほど経って後に、それぞれのパーティのスキルと戦闘能力を考慮して、時期を見て以下の選択肢を勇者達に提示していた。


1.北部戦線の任務に従事する

2.南部戦線の任務に従事する

3.冒険者登録をし、国内のダンジョン沈静化の任務に従事する

4.国内の警備任務に従事する

5.魔族領域での諜報任務に従事する

6.要人警護の任務に従事する


中部戦線は最激戦地である為、その地点だけは選択肢から外されていた。王国もまだ勇者を中部戦線に派遣するのは時期尚早と判断していた。


勇者たちは、王都付近での訓練に励み、スキル向上とパーティの戦闘能力向上に集中して取り組んでいた。戦争は団体戦であり、総合力が勝敗を決する。パーティでの戦闘能力のみならず、継戦力向上を勇者たちは求められた。実地訓練との意味合いで、上記6つの中から1つを選ぶように言われていたのだ。そこでの実地訓練が終わり次第、戦力として貢献できるパーティは中部戦線に送られる予定になっている。他の分野で貢献が期待されるパーティや個人はそれ用の任務が用意されることになっている。


菅原は、自身がパーティのリーダーとして「3.冒険者登録をし、国内のダンジョン鎮静化の任務に従事する」を選んだ。


これはパーティで話し合って決めたというより単純に、菅原個人の判断によるものだった。菅原は、自分が誰かの元で働くことが全く性に合わない性格で、戦術のイロハが分からない状態で、戦線に行けば兵団に組み込まれることは、容易に想像がついた。なので、これはあり得ないと判断した。自由に自分の生きたいように生きることこそが、自分の目指している生き方であること日々思っている菅原は、冒険者の生き方が、自分に一番合うと結論を下した。


またSSランクの冒険者ぐらいであれば、王国に対等に物を申すことのできる存在へと成り上がれることを聞き知って、とても魅力を感じたからでもある。


そして、これが一番大きな理由だが、菅原はこの王国に縛られることをとにかく嫌った。信じていない訳ではないが、疑問点をずっと抱えたまま、最初の6ヶ月間の訓練期間を過ごしていた。このファーダム国や、この世界、『ガーデニア』の事を、王国関連の人物から聞くのではなく、市民や王国と利害関係のない市井の者から直接聞いて、それらの実像を知りたいと、ずっと思っていた。冒険者になる事で、王国よりの監視がある程度緩まるので、冒険者になることは、まさに菅原にとって渡りに船であったのだ。


冒険者はランクEから始まり、依頼を丁寧にこなしていくと、ランクを上げることができる。菅原たちは魔物が溢れかえる南部のダンジョンや森、平原、街などを転々としながら、依頼をこなし、順調にランクを上げていった。彼のパーティは冒険者ランクCからスタートしたが、王国からは勇者であることで、これ以降の優遇はしないようにと通達があり、きっちりと依頼をこなして、冒険者になり6ヶ月が経った今ではランクをAまで上げた。異例の昇格だった。


その異常なスピードの昇格の主因は、菅原たちの異常な程、高い戦力だ。


1.菅原光輝 暴威の王(SS)

2.真木千尋 賢者(S)

3.島森旭 逆賊のナイフ(B)

4.佐々木幸次郎 侍(B)

5.森日葵 言霊の精霊使い(B)


彼らの戦力は、まさに冒険者の中では群を抜いていた。菅原単体であっても、賢魔ではない魔族を一体一で屠ることは可能であった。また、その他のパーティメンバーが菅原を中心に連携を取ることで、圧倒的な戦力を発揮していた。今のランクに収まっているのは、単純に、冒険者としての知識•スキルがまだ足りないからだった。それも終わり、後は魔族の討伐1体をすれば、ランクSに昇格することが決まっていた。


「さて、今はどんな討伐依頼があるんだ?」


菅原は南方地域の最南端、死の森から1番近い街の冒険者ギルドで、依頼書の確認をしていた。


巨大狼捜索•討伐 危険度A

5つのBランクパーティで討伐を試みるも、4つが壊滅。討伐は成されたが、他の個体があるかもしれないので、捜索を希望。見つけた場合、発見報告(金貨2枚)、討伐(金貨3枚)

巨大狼•••全長3メートル程の狼

依頼達成基準•••死の森の1キロまでを捜索。三日月草を採取してくること。

報酬•••合計金貨5枚

依頼者•••冒険者ギルド


デス•フィッシュ討伐 危険度A

死の森にあるサザンリバーに、デス•フィッシュの巨大種が発見された。サザンリバーに近づく生物を全て喰らいつくしており、生態系への被害甚大。

デス•フィッシュ巨大種•••全長2メートル程のデス•フィッシュ。凶暴さ、獰猛さは通常種と比べて、突出している。

依頼達成基準•••デス•フィッシュ巨大種を全て討伐。

報酬•••金貨5枚

依頼者•••キル商工会議所


菅原と他のパーティメンバーは、じっくりと依頼書を見て、どれを選ぶかを考えていた。


菅原は、ボードに貼っている、デス•フィッシュ討伐の依頼書の受注紙をちぎり取り、パーティメンバーに伝えた。


「よし、こいつをやろう。魚ぐらいなら、すぐ終わるだろう。ちょうど魚が食べたいと思っていたんだ。」


「しかし、菅原さん、死の森へ行くのは危険かと思いますぜ。巨大種の狼もいるかもしれませんので、他の箇所の討伐の方がいいんじゃないでしょうか?」


と、佐々木幸次郎が懸念点を挙げた。


菅原はうなづいて、佐々木に言った。

「死の森は、俺にとって避けられん場所なんだよ。ここの魔獣は、魔族でさえ手がつけられないと聞いている。ここの魔獣の討伐は、即、魔族の力量を測るためでもあんだよ。その場所で俺の力が通じないなら、まだ魔族に通じないということだ。どうせその内、魔族とはぶつかるんだ。その前にあいつらの力量を知っておきたいだろ。試金石のようなものだ。それとも、俺がここの魔獣に負けるって言いたいのか?」


「佐々木、余計なこと言うんじゃないよ。菅原くんがやるんなら、やるんだよ。グダグダ言うな。」


と、真木千尋が刺すように反論し、


「菅原さんならできる・・・」


と、ボソッと島森旭が呟き、


「わ、私も菅原さんを信じているから、大丈夫かな・・・。」


と森日葵はドギマギしながら、付け加えた。


「いやいや、俺は了解なんだぜ。別に俺もそんなに反対をしている訳じゃないんだって。誤解しないでもらえませんか?ただ懸念点を、と思っただけですよ。」


と佐々木は、自分の本意を伝えようと慌てた。


「意見はいい。しかし、最終的には俺が決める。文句があるなら、このパーティから出ても俺は一向に構わんぞ。」


「いえ、そんなこと言わないで。また今後ともお願いしますよ。」


佐々木は慇懃に答えた。


(こんな勝ち組の所から出られるかよ。)


と佐々木は胸中で呟いた。


佐々木も他のパーティメンバーも理解していたのは、菅原の圧倒的な力と鋭すぎる頭脳、そして、抜群のカリスマ性とリーダーシップだ。この男といると、絶対に大丈夫だとの安心を感じることができる。





1年前、最初の出会いから、菅原は鋭利な刃物のように、尖っていた。この自信は圧倒的な、彼の努力と戦闘能力に裏打ちされていた。


「俺についてくるなら、どこまででも高みに連れていってやる。ついてくる気がないなら、ここで抜けな。」


圧倒的な存在感と威圧感。それでいて、言葉の端々に宿る知性と野性。それに加えてスキルランクはSS。将来性も圧倒的だ。この男についていかない、という選択肢はない。


真木「ついて行くよ。菅原、くんだっけ?私は真木千尋。賢者(S)だよ。よろしくね。」


島森「わたしは、島森旭。逆賊のナイフという称号です。菅原さん、よろしくお願いします。」


佐々木「よろしくー!俺は佐々木幸次郎で、侍(B)だ。ささきこじろうではなく、ささきこうしろうなんで、よろしくな。ハハハ。よく間違えられるんだよなー。なんか、ここは美人さんばかりで嬉しいな。眼福眼福。」


「私は、も、森日葵。言霊の精霊使い(B)です。菅原さん、みなさん、お世話になりますが、よろしくお願いします。」とちょこんと頭を下げた。


菅原はそんなパーティメンバーを睥睨しながら、言い放った。


「全力を尽くせよ、お前ら。俺について来るためには、凡人どもは愚直に全力を尽くすしかない。それと、お前らができること、考えていることは、全部俺に話せ。安心しろ、お前らを一番上手く使ってやるからな。」


と、自信満々の菅原に唖然としながら、この異世界における不安感と将来への不透明感があったため、自然と菅原の言葉が、皆の心に染み込んでいった。


それから怒涛の訓練が始まり、真木、島森、佐々木、森は、菅原の指導の元、ビシバシと鍛えられていった。


真木には魔法の使い方に関して、菅原から指導を受けた。大技を狙うのではなく、小技や搦手の魔法ができるように指示。相手の動きを止めたり、麻痺させたり、眠らせたり。また逆にそれを解除できたり、と細かい指示を出していた。


島森には、佐々木と模擬戦を、森の中や部屋の中、など『そんな場所で戦闘が?』、と思われる場所で行われた。佐々木は、どんな場所でも護衛ができるように、島森は、どんな場所でも諜報活動、また暗殺ができるように。


森は、菅原と一緒にいて、戦術のノウハウを叩き込まれた。どんな情報が今必要なのか、どんな情報が勝負を決するのか、を教えられ、時には、菅原VS他のパーティメンバーで何度も模擬戦が繰り広げられた。


そのおかげで、菅原のパーティメンバーたちは、自分たちの必勝の戦闘スタイルを確立していくことができていった。


それから6ヶ月が経ち、菅原は冒険者を選んだ。


まずはSSSランクの冒険者を目指すぞ、と菅原は独り言ちた。


(SSランク以上に認定をされている冒険者は化け物揃いと聞いている。ファーダム国には、合計50名。SSSランクになると5名、認定されているらしい。Sランクまでは、魔族1体の討伐と、他の依頼をこなしギルドへの貢献、王国への貢献が認められると、上がっていける。しかし、その上のSSランクは数段難易度が上がる。SSランクになるためには、賢魔を100体倒すこと。SSSランクは、高位魔族10体。高位魔族は、賢魔と呼ばれる、超強力な魔族たちの中でも上位の50位以内の階位を殺すことだ。50位より上位の賢魔は、どいつもこいつも自然災害級の化け物揃いらしいが、この50位以内の賢魔を十数体殺して、体内の魔鉱石を集めれば、元の世界に戻れる。まぁ、こんな好き勝手できる世界を去るなんて、俺には考えられないがな。)


菅原は、今の彼はどれほどのものか、試してみたいと思っていた。


(賢魔ぐらい、俺ならぶっ殺せると思うがな。この世界で全てを統べる王になってやる。ここの王国も、魔族も全て俺の踏み台にしてやる。俺から見て、今一緒にパーティをやっている連中は、なかなか有用だ。従順なのが良いし、またさすが高ランクのスキルホルダーだ。)


菅原は、自分のパーティをどう育成していくかに常に心を砕いていた。


(真木千尋は『賢者』(S)で、魔法で攻守共に、役に立っている。俺のハーレム要員となっている。俺が王国を築いたら、側室の1人にでもしてやろう。女としては、結構高身長で170センチぐらいか。結構美人だが、強気な女だ。強気なのは俺の好みではある。ベッドの上でもこいつは、強気だ。こいつはかなりの野心を持っている女だがな。俺についてくるのも、打算の一つだろうが、女の打算ぐらいまぁ、気にすることもない。とにかくよく喋るやつだ。


島森旭は、『逆賊のナイフ』(B)なんて物騒な称号を持っていやがる。まぁ、暴威の王の俺が言えた義理ではないがな。ボブカットの小さな女だ。逆賊なんて言うが、要はコイツの特技は、忍者みたいなもんだな。忍び込んで、相手を暗殺してしきたり、情報を収集してきたり、罠を解除・設置してきたりする。諜報員としてはかなり有能だ。闘技場や平原なんかでの、タイマンだったら全く何の役にも立たないが、搦手での攻防戦では、それなりに役に立つ。俺も同じようなことはできるが、俺ぐらいのレベルでできるんだから、大した奴だ。あんまり話をする奴じゃないから、何を考えているか、正直分からなかったりするが、周りをよく見ている。夜も愛でてやるが、夜の喘ぎ声はかなりうるさい。まぁ、これから躾けてやる。


佐々木幸次郎の称号は、『侍』(B)で前衛での壁役もできるし、突貫要員としても役に立つ。いつも死ぬ気で魔物の中に放り込んでやっているが、よく生き延びてると思うな。よく冗談を言う奴で、俺の舎弟として、可愛がってやっている。俺の夜の営み中は、しっかりと護衛もできているから、空気を読んで、世渡り上手な奴だと思う。背は中肉中背で、サル顔の面白い奴だ。元の世界での夢はお笑い芸人だとか。こいつと千尋の掛け合いがあって、このパーティのムードを決めているな。


森日葵は言霊の精霊使い(B)で、伝令係としていい動きをしている。自分のスキルで攻撃も防御もできるが、それは自衛目的のみでやらせている。そんなことより、日葵のスキルで特筆すべきは、パーティメンバーの頭で考えていることを聞けて、それをパーティメンバーで共有できるところだ。戦闘能力はほぼゼロだが、日葵がいるだけでパーティの戦闘能力は格段に上がる。それを俺が上手く使ってやって、そのまま褒めてやったら、俺に惚れたのか、体を許す関係まで発展していった。基本、俺が日葵の護衛をやっているから、それもあるんだろうと思う。もしくは、俺の称号の暴威の王には、ハーレムを作るスキルでもあるんだろうか。


もう異世界に来て1年が経った。長いものだ。この6ヶ月間の冒険者の経験のおかげで、この世界、ガーデニアのこともよく分かるようになった。この国のこと、国民の生活のこと。


今の俺のパーティのランクが示すのは、戦力というより冒険者として知識•スキルを積み上げていく作業のように思うな。俺たちの戦力だけで見たら、ランクSSぐらい行きそうなものだが。このパーティで中部戦線にでも殴り込みに行って、魔族ども何体も討伐してランクSSSになってやるか。)


そう思い、俺たちはギルド職員に案内役を見繕わせ、死の森へ入っていった。


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