15 巨大鳩
グチャグチャグチャ
「「「ぎゃーーー!!!!」」」
7人程の黒装束の集団が全長10メートルはあろうかという、巨大な鳥のような生き物が空から突如として舞い降り暗殺者たちを咀嚼し出した。
一気に飲み込みそして何人かは口から吐き出された。ドロドロの液体に体が溶解され、暗殺者たちは絶命していた。中には瀕死の暗殺者たちがいたが、その者たちはグチャグチャとついばまれ、一人一人は確実に殺されていった。
「た・・・たすけて・・・」
「グフッ・・・」
「や・・やめ・・・て・・・く・・・・」
巨大な鳥は、クチバシで暗殺者たちの頭蓋骨を簡単に貫き、中身を啄んでいる。1人ひとりが餌のようであり彼らの内臓が地面に散乱していた。
エマは凄惨な光景を目の当たりにして、(助かった・・・)とは正直思わなかった。確実に次にやられるのは彼女たちだ。
明らかにこの鳥は、私とセバスを視界の中に入れている。頭の両側についた目の一つがこちらをじっと見て離れないのだ。この鳥。まるで鳩を10メートルぐらいの大きくしたかのような形態だ。ニヤリと笑ったように見える。
(遊んでる・・・)
100%絶望的な状況から、200%絶望的状況に変わったようなものだった。絶望であることは変わらない。こんな巨大な生物に狙われては、逃げることさえできないだろう。しかも、かなりの嗜虐志向もあるようだ。あの暗殺者を吐き出したのも、苦しんでいる表情を見たかったのかもしれない。そのまま飲み込んでもよかったはずだ。
なんて悍ましい生物だ。
エマとセバスはジリジリと後退していたが、巨大鳩の咀嚼がそろそろ終わったのか、彼女たちに向けて飛び立つ姿勢を取った。あのスピードでは、避けることはできなかろう。せめて一思いに殺してほしい。嬲られるのだけは嫌だ・・・・。
鳩の巨体がグッと足に力が入り、飛び立つか?!と思った、その時だった。
突然上空から何かの物体が、超高速で鳩の首筋に落ちてきた。私ぐらいの大きさの何かが。
ズドオオオォォォォオンンン!!!!
その物体の勢いのまま鳩の首が地面に激突し、地面が恐ろしい程揺れた。鳩は意識があるようだが痙攣して動かないでいた。その物体は腕を振り上げ、鳩の首に思い切り腕を叩き込んだ。その手が鳩の首の表皮をぶち破り、赤い鮮血が飛び出していた。
グチャッ!!!!!
鳩は、キュルルル、キュルルルル・・・と体が麻痺しているに小刻みに震えながら、絶命していった。
「●▲%¥&-/¥?!¥(:&”/¥(◉」
私ぐらいの大きさの『人』は立ち上がり、こちらを見て何の言語かわからないが、私たちに語りかけてきているようだった。体は動物の毛皮で覆われ黒髪で黒い瞳をしていた。耳はエルフのように大きくないので、おそらくヒト族なのだろう。こんな所にヒト族がいるなんて、信じられない。遥か彼方の国に住み着いている存在のはずだ。
「⬜︎△◁◉◯○×%€→÷>\〆:\。」
そのヒト族は頭を傾げ、もう一度話しかけてきた。
「あ、そうだ。魔力を込めて伝えるだったな。この森では知性のある生物と言語で意思疎通しないから分からなかったな」
突然言葉になって聞こえてきた。その子供のヒト族は魔力を用いて、イメージをこちらに送ってきたのだ。
私はもう魔力が無いので、言語で相手に返答することができずに、だんだんと霞む視界の中でそのヒト族を見ることしかできなかった。
「お主は何者だ・・・?」
セバスは力を振り絞り声を出した。
「俺は誰か・・・?なんと伝えたらいいのか。この森の住民みたいなもんかな?約1年前ぐらいに、ここに転移させられたんだ。あんたらは何者なんだ?ここであんたたちのような、言葉を交わすことできる人に会えたのは、初めてだ」
「我々は・・・」
と言い終わるか終わらない内に、話し始めたセバスは地面に倒れ込んだ。よく見ると、体から血が流れるように血溜まりを作っていた。
私も限界となり、意識を手放し、地面に前のめりに倒れ込んだ。
◇
俺は2人が倒れるのを見たが、老人の下にできている血溜まりを見て瞬時に思った。
(あの失血量はヤバい)
近寄っていったが、女の方も反応することなく倒れていた。まさかここから攻撃してくることはないだろう。老人の方も、もう話ができないぐらい衰弱していた。意識を失っているようだ。
(さて、どうしたものか・・・)
もちろん助けた方がいいに決まっている。ここに万癒の果実はある。助けるのは可能だ。けども、こいつらはあの凶悪なヒト族の王国と関わりのない者たちがどうかの判断がつかない。俺を追ってきた?
(いや。おそらく違うだろうな)
この耳を見る限り、エルフ族という種族ということが分かる。ヒト族よりも遥かに大きな耳をしている。ヒト族は獣の二本足もヒト族の範疇に入るようだが、エルフ族は全く別の種族に分類されているはずだ。本橋は、1年も前に聞いた話を記憶の奥から呼び覚まそうと、必死で探ったが正確に覚えていない事だけが分かった。
(あのヒト族の国、確かファーダムだったな。そこから来ているとは思えない。手先かもしれないが・・・同盟関係かも・・・まぁ、ヒト族でなければ、大丈夫か・・・もしこちらに敵意を持っていたとしても、今の俺なら制圧は可能だろう。助けるか。事情を聞いてみないとわからないしな)
そう決断し、2人を仰向けに置き直し背負っていた草の葉の包みから、何個かの万癒の果実を取り出し、搾って果汁をそれぞれ2人の口の中に入れてやった。液体なので喉を通っていった。二人とも何とか飲み干せたようだ。ゴクッと喉辺りで音が鳴った。飲み干す体力がなければもう死んでいただろうが、無理やり救うまでの義理はない。
見る見る内に2人の傷は消えていき、苦しそうに息をしていた老人もスースーと安定した呼吸に変わっていった。
女の方はもともと怪我はなかったようだが、全身が小さい切り傷でボロボロだった。傷や疲労が回復していったのだろう、熟睡しているかのような寝息を立て始めた。
(ここにいるのは危ないな)
この開けた場所に何故、この人たちがいるのか分からないが、さっきの巨大鳩(名前は知らないが、形状はまさに鳩の巨大版だから、俺はそう呼んでいる)の狩場だったたりする。この人たちを救助するなら、早々にここから出ないといけない。
早速2人を両脇に抱え移動しようとしたが。
「ピーーーーヒョロヒョロヒョロ」
気の抜けたような音が遥か上空から微かに聞こえきた。普通の人間なら聞き取れないような音だが、さすがに俺はここにいて長いので、どんな音に気をつけなければならないか分かっている。この微かな音にも敏感に反応できるようになっているが、この音が聞こえるということは、もうあの巨大鳩の間合いの中だ。数瞬後に、飛びかかってきてもおかしく無い。
と思っていると、横から巨大なクチバシが襲ってきた。俺は【硬質化】を使い、クチバシを体で受けたが、かなりの衝撃だったので思わず二人を両脇から離してしまった。
ズザザザザザザザ!!!!!!!!
20メートルほど、鳩の突撃を体で受けて持っていかれた。地面を滑るようにふっと飛ばされていく。俺の踏ん張った2本の足が地面に轍のような痕をつけていった。
貫けないと判断し巨大鳩は頭を横にして俺を咥えようとしてくる。そうはさせるかと、硬質化した腕で、思い切り上からクチバシに鉄槌打ちを叩きつけた。
ドンッ!!!!!!
強烈な衝撃がクチバシに与えられ、鳩の頭が地面に激突した。勢いは止まっていないので、頭は地面を刺ささり頭を支点として、巨大鳩の体が後方から空中へと浮かび上がり、俺の方に向かって落ちてくる。ボキッ!!!と体がこちらに落ちていく時に、首が折れたようだ。巨大鳩がこちらをクチバシで押してきていたので、俺もさっきの勢いのままさらに先に進んでいく。足につけていた獣の毛皮で作った靴もどきは、もうボロボロになり、原型を留めていない。
(まずい!!)
巨大鳩の初撃のインパクト前に2人を両脇から離したので、彼らは地面に今横たわっている。30メートル程先に2人の地面に倒れている影が見える。このまま気を失ったままだと、あの2人は他の巨大鳩に喰われる。俺は【軽量化】を使い一気に2人の元に戻ろうとした。死に絶えた巨大鳩の横を一瞬で走り抜いた。が、上空を見るともう一体の巨大鳩の個体が、上空から一直線で2人に迫ろうとしているのに気が付いた。こちらが超高速で近づいているのに、その鳩も気付きこのまま2人を咥えるか、それとも俺を迎え撃つかで悩んだのだろう、こちらを一瞬視認したのが見えた。2人を咥えた時には俺が到着するだろうと、脳内で計算したのか、クチバシの方向を無理矢理こちらに向けて、全身で俺に体当たりをしようとしてきた。
(バカが!!真っ向からお前のクチバシを迎え撃つか!!当たるかよ!)
と心の中で叫び、スライディングをしながら地面スレスレを低空飛行で移動にした。巨大鳩の真下をやり過ごしたが、軽量化のスキルを使っていたので、巨大鳩の鉄のように硬い羽毛に頬が掠め少し切られた。
グズグズしていると他の個体もどんどん襲ってきてしまうので、2人を急いで両脇で掴まえて、急いで森の中へと逃げていった。長居は無用だ。
後ろを見ると死んでいる巨大鳩を何十羽という巨大鳩がついばんでいる光景が見えた。そっちが身代わりになってくれて、こちらは助かった。
(いやー、あの群れだけは、本当に相手にしたく無いな)
最初は一羽がゆったりと休憩でもしているのかと思い、隙をついて強襲して上手くいった。相対して事を構えるのは一対一なら問題ないが、直ぐに群れくるので一瞬で一体多数となり分が悪くなるのだ。その為この巨大鳩が縄張りにしているこの草原は、多くの生物にとってのデッドゾーンと化している。
俺は森の中2人を抱えながら疾走した。ここ辺りの魔物は凶悪なものが多く、こちらが無闇に縄張りに近付くとすぐに襲ってくる。周囲の樹木の繁茂具合、糞や湿った場所、水たまりを注意深く見ながら、周囲の魔物を刺激しないように走っていく。
よくこの2人はこの森の中を通り抜けてきたな。
明るい日差しがそこここに差し、パッと見るだけなら静かで小鳥囀る、のどかな風景が広がる平穏な場所だが、実際のところは地獄の底のような死が溢れかえる世界だ。
ようやく自分の拠点となる寝ぐらの洞窟へと戻ってこれた。2人を動物の毛皮の上に静かに置き焚き火を起こして肉や植物を焼き始めた。
焚き火を見て火に照らされる2人の顔を見ながら、今後のこの2人の扱いをどうするかに頭を悩ましながら不安に思う、元橋だった。
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