13 戦闘訓練開始

太陽が昇り、窓から陽光が差してきた。今の季節がどうか分からないが、過ごしやすい気温であることは確かだ。幸いなことに、全く寝苦しくない夜だった。


目が覚めた三原は、昨日のサリア姫の話の内容を反芻しながら、ベッドの上で身じろぎせずに考えていた。


伸城君が国からの支援に不満を抱き、錯乱した。


その後、兵士を殺害してしまった。


転移魔法陣で、流罪地へと転移してしまった。


その転移魔法陣は、行った先が流罪地とは限らないが、信憑性の高い情報ソースでは、その行き先は正しい。


毒草に満ちた場所に転移され、伸城くんの死亡は間違いない。


色々と思考の糸を探りながら、三原は自分の中で一つの結論に達した。


「私は諦めない。」


(もしかしたら、億分の一の確率でも、生きているかもしれないのだから、私が諦めてしまったら、もう誰も伸城君を探す人はいなくなってしまう。だから、今は、生きていることを信じて、私はここで生き抜いていかないといけない。)


そう結論を下し、三原はベッドから勢いよく飛び出し、身支度を始めたのだった。


凜先生のカウンセラーのスキルで、多くの生徒が昨日の衝撃的な出来事を乗り越えることができていた。自分の近親者の死を思い出した者。自分のペットが死んだことを思い出した者。自分の友達が亡くなったことを思い出した者。それが元橋の死の報告を受けて、みなフラッシュバックのようにして思い出し、精神状態が不安定になっていた。凜先生は、一人ひとりの話を聞きながら、適切な言葉がけと指導を行い、ほとんどの生徒たちは、平静を取り戻していた。


三原も朝に凜先生のところに赴き、先ほどの自分の中の結論の事を話した。


「三原さんは、自分のことをよく理解していて素晴らしいですね。よく昨日の内容を噛み砕いて理解され、前に進もうとしている。あなたの聡明さ、心の強さが良く分かります。」


「あ、ありがとうございます。」


以前に元の世界で知っていた、新任教員の凛先生の言葉とは思えず、まるで多くの人々のあらゆる苦悩を聞き救ってきたかのような、心に染みる慈愛の言葉が、凜先生から発せられていた。


誰かが自分のことを分かってくれている。その感覚だけで、人は前に進んでいけるものだ。凜先生が、三原の思いを全て受け止め、三原の強さを信じてくれている、と確信できた。そのおかげで三原は、自分に対する自信が更に増し、自分の決断が正しかったと思えた。


三原は凜先生に、感謝の言葉を伝え、部屋を辞した。


朝食の時間であったので、案内係のメイドの女性が、朝食の部屋に三原を案内してくれた。そこには、もう既に思い思いに食事をしている生徒たちがいた。それぞれに魔法師や兵士が各生徒たちの質問を受けながら、朝食を摂っていた。


三原も席を勧められ、給仕により朝食が運ばれてきた。


その朝食の内容も見事なもので、お粥のような柔らかく、味も薄めで、温かい食事が提供された。一口ごとに心と体の隅々に温かみが行き渡るようであった。


「お体はいかがでしょうか?」


サリア姫が一人ひとりに声をかけているようで、三原のところに足を運んできて、声をかけた。


「はい、昨日よりはとてもいい感じです。少しまだ不安は残っています。けども、別世界の人が苦しんでいるとのことですので、王国の方々のためにも、全力を尽くして助けたい、との思いはあります。微力ながらお手伝いいたします。


それと、これだけはお伝えしておきます。私はこれからも元橋君のことは探していきたいと思っています。」


「承知いたしました。ご理解とご協力を賜り、大変ありがとうございます。ご尽力感謝いたします。」


サリア姫の言葉は、心の奥底にすっと入ってきて、「本当にそうだな」と思える確信と慈悲に溢れていた。凜先生の言葉に似たような、温かみを感じる。これは何かのスキルでも使っているのだろうか、との一瞬脳裏を掠めるが、どうであろうと、自分自身の信念のままに進んでいくことに変わらないと、決意した。サリア姫も三原の回答を聞き満足したのか、その場を辞去したので、三原は再び食事に戻った。元橋のことに関しては、お互いの認識は違うことだけは、伝えられて良かった、と三原は心の中で思った。


昨晩に行われた説明が、途中退出した勇者たちに個別に行われ、皆今後の方針に関して理解した。皆、どうやら、ある程度の納得はしているかのような雰囲気であった。今日から訓練が行われることに心の準備をしている表情が多くの勇者たちに見られた。


勇者たち一人ひとりのスキルと今後の任務が考慮され、パーティ編成が発表された。小さな紙片に書かれた表が配られたので、三原は自分の名前を探す。


三原は自分のパーティを見て、おそらくこのパーティを国の主戦力にしたいのだろうと、思った。


第1パーティ

1.春日翼 勇者(SS)

2.柏原樹(かしはら いつき)不動の壁(A)

3.三原美幸 聖女の癒し(SS)

4.赤石そら 詩歌の姫君(SS)

5.立石悠真(たていし ゆうま) 狩人の牙(S)


なるほど、と三原は思う。


パーティには、前衛、後衛、回復、索敵、支援がバランスよく当てがわれているように思う。このパーティで、各人が連携を学んでいくのだろう。


他のグループはどうなんだろうか、と思い、第2グループに目を移す。


第2パーティ

1.菅原光輝 暴威の王(SS)

2.真木千尋(まき ちひろ) 賢者(S)

3.島森旭(とうもり あさひ) 逆賊のナイフ(B)

4.佐々木幸次郎(ささき こうしろう) 侍(B)

5.森日葵(もり ひまり) 言霊の精霊使い(B)


(ここでも前衛、後衛、支援、回復、デバフなどがしっかりとバランスよく組まれている。ひまりちゃんは、このグループか・・・菅原君とうまくやっていけるのかな。。。千尋ちゃんと旭ちゃんもいるから、大丈夫かな。また声をかけてみよう)


と三原は心のメモに書き留めておいた。


合計7グループが作られ、各グループに約5人が配置されている。このグループで一つのユニットとして連携を学びながら、スキル向上を目指すようだ。


自然とグループ員が集まり、お互いの挨拶がそこかしこで始まっていた。


三原たちも集まり、お互いの挨拶を始めた。


春日「このグループになれて、とても嬉しいよ。俺は前衛のアタッカーの役割かな。」


柏原「一緒に頑張っていこう!僕は不動の壁(A)で、みんなの盾になるよ。」


三原「頑張ろうね。私は聖女の癒し(SS)で、後衛からの回復に務めるから、柏原君をどんどん回復させていく役割かな。」


赤石「やっほー!いい感じのバランスだね!私は、どんどん歌を歌って、みんなをバフしていくよー!」


立石「よろしく・・・。」


グループでの挨拶が終わるぐらいを見計らい、帯同兵士が三原のグループに近づいてきた。


その兵士はネコの顔をした、身長2メートルはあるだろう、屈強な兵士だった。


「おはようございます。お初目にお目にかかります。私の名前は、アダム・パリィと申します。アダムとお呼びください。このグループの護衛兼育成担当をさせていただきます。私自身は光速の飛礫(つぶて)(A)の称号を持っております。兵士として、かれこれ20年間、国防に務めております。この度は、勇者様方をお世話をさせていただきますので、よろしくお願いいたします。」


「こちらこそ、よろしく。俺たちは、まだ何も知らないヒヨッコのようなものだから、お世話になると思う。頼りにしてるぜ。」


と春日は明るい挨拶で返した。


それぞれが自己紹介と挨拶を済ませ、早速訓練場へ移動し始め、移動しながら説明が始まる。


「では、まずは訓練場に行き、皆様との模擬戦をしたいと思います。全力で来ていただいて結構です。武器はそれぞれ木製で行いたいと思います。スキルレベルを上げるの第一義ですので、大いに使っていきましょう。ご案内いたします。こちらへどうぞ。」


昨日訪れた円形闘技場ではなく、誰もいないであろう、大きな外の広場へと案内されるようだ。他のグループに意識を向けると、それぞれがそれぞれの訓練場所へと案内されている様子が見受けられる。菅原のグループは、転移魔法陣を使い、どこかへ移動するようだ。


15分ほど歩くと、広い草原に着いた。ここも城壁の中のようだ。


「さて、まずは肩慣らしといきましょうか。スキル向上と連携が目的ですので、どんどんスキルを使っていきましょう。また戦闘の中で、何をどのようにすればいいかも、振り返りをしながら、確認していきます。では、みなさん一斉に掛かってきてください。」


春日は与えられた、100センチほどの木刀を持ちながら、少し不安気な様子であった。


「どうかされましたか?」


「いや、訓練の為だが、1対5では、あまりに一方的になり過ぎて、訓練になんのかなー、と思って。怪我させても後味悪いしな。」


「なるほど。お気遣いありがとうございます。しかし、おそらく無用のお気遣いになると思います。おそらく、どなたも私に触れる事もできませんので」


かなり煽った表現だ。


春日も少しイラッとした表情をして、「怪我しても文句言うなよ」と吐き捨てるように言って、アダムに向けて駆け出した。


「オラッ!!」


大きくジャンプをして、一気に5メートルある距離を詰めて上段から一閃する。アダムは軽く半歩横に動き、剣閃を避けた。そして・・・


「裏拳!」


と叫び、春日はハッとして、アダムの裏拳を木刀で受けたが、明後日の方向に吹き飛んでいった。地面に受け身を取れず思い切り頭をぶつけて、春日は気を失った。


そこへ、立石は必中攻撃を発動させ弓矢がアダムに向かっていた。春日の攻撃に合わせて既に弓矢を射っていた。


「いい狙いですね」


と言いながら、上半身を屈んで矢を避けた。そして、屈んだ状態がちょうどタメを作る態勢になっており一気に柏原の元へ走り寄って行った。


柏原は絶対防御で自身を強化して、アダムを迎えようとしたがアダムは足を踏ん張り、攻撃に耐えようとする柏原を冷静に見て取ると、柏原の腕を掴み一本背負いをして、柏原を地面に投げ飛ばした。空中に投げ出され、受け身を取ろうしたが、受け身に意識が向かい絶対防御が解けてしまった。その瞬間を見逃さずに一塊の氷が、地面に体が接触した瞬間に体の側面に当たり、柏原はそのまま横に吹っ飛んでいった。


「痛っ!!」


ゴロゴロと転がりながら、柏原は立ち上がろうとしが、半身が凍っていて動けない。


第二射目が立石より放たれていたが、それも簡単にアダムはすんでの所で避けていた。


「必中のはずなのに、どうして?」


距離を取っての弓射であったが、一瞬で立石のところまでアダムは移動し、「ボディーブロー!」と叫び、立石の腹部への強烈な打撃を放った。必死で腹部を弓でカバーしたが、衝撃が強過ぎて、後方へ吹っ飛んでしまった。


一瞬の出来事であった。


横で、呆然としながら赤石と三原は、今の一連のやり取りを見ているだけだった。


「まずは、三原様は3人の回復をお願いします。赤石様は三原様の魔力増強のために歌をお歌いください」


そう言って3名を回収して、三原の前に連れてきた。


三原は頭に浮かぶ魔法名を言って、回復魔法を発動させた。


「キュア」


3人はだんだんと体の痛みが無くなっていくのを感じた。


「これが回復魔法か」

「これは凄いな」


意識を取り戻した春日は、単純に驚いていた。

しかし、まだ柏原の氷が溶けずにいるので、どうしたものかと、皆アダムを見た。


「氷を溶くのは、炎で溶かすか、割るか、状態異常回復で溶かすかの3つ方法があります。しかし、割る場合は氷と体が一体化するほどの冷凍化していた場合は、体も一緒に割れてしまうので、気をつけなければなりません。今回はそれほどの冷凍化ではありませんので大丈夫です。柏原様が魔力を放出して割るのも可能です。割る方向で試してみましょうか」


そういうと、春日が木刀で氷に剣撃を与えると、氷の一部が欠けたが、まだ柏原が動ける程、氷が割れたわけではなかった。


加減が難しいな、と春日は独りごちた。


柏原も体全身から魔力を放出しようと試みたが、放出量が少ないようで、破壊できずに動けないでいた。


「あぁぁ・・・冷たい・・・痛い・・・早くなんとかしてくれ・・・・。」


だんだんと泣きそう声になってきたので、三原が、氷を溶かすイメージをし、体内で魔力を練ると、言葉が自然と出てきた。


「ディゾルブ」


すー、と氷が消えていった。ホッとして、三原は腰を地面に下ろした。柏原も体が凍傷で半身を痛そうにしていたので、三原は再びキュアをかけて、凍傷を回復させた。


三原「なるほど。攻撃も色々あるんですね。」


アダム「そうです。ディゾルブもキャアも驚くほど精度が高いですね。さすが、回復魔法SSの実力です。


さて、先程の戦いのおさらいをしましょう。何をすれば良かったのでしょうか?何が悪かったのでしょうか?」


春日は悔しそうに唇を噛みながら、「攻撃の予備動作が大きかったから、攻撃を読まれた、と思う」と答えた。


アダムは微笑みながら、「その通りです。普通の敵であれば、春日様の最初の一撃で終わっていたでしょう。なので自信は失わなくて大丈夫です。先程の一撃はヒト族の中で40%ぐらいの人間した躱わせないと思います。しかし、私レベルの者には通用致しません。身体能力に頼らない攻撃をしていきましょう」


立石は、納得できない様子で発言をした。「僕の攻撃は必中のはず。どうして、避けられる?」


アダムは、頷きながら口を開いた。「必中攻撃VS絶対回避の時は、そのスキルレベルの勝負になります。私は絶対回避のスキルではなく回避ですが、そのスキルレベルが高いため避けられます。私が避けられたのは、立石様の必中攻撃のスキルレベルの単純な不足のためです」


「なるほど」


立石「ぼ、僕は防御してカウンターを狙ったんだけど・・・」


「その判断が早すぎたためでしょう。攻撃をしてこないと分かれば、攻撃のバリエーションは多くなります。もっと相手に意図を読ませない動きをしていきましょう」


赤石「私、今回、何もできなかったんですけどー」


アダム「まずは、赤石様は他の勇者様の基本的な戦闘スタイルを把握していただき、そのバフをしていただきます。他のパーティメンバーが走力増加をしてほしいのか、防御増加をしてほしいのか、はたまた魔力増加をしてほしいのか、それを見極めることが大切です。とにかく色々と試していくことが要諦ですね。まだまだ最初ですので、焦らなくても全く問題ございません。


そして、三原様は回復に関してはさすがです。素晴らしいです。あとは三原様がお持ちの聖属性攻撃を私に向かってせめて放っていれば、またパーティとしての攻撃の幅が広がります。その攻撃のバリエーションもまたご教授いたします。」


「あ、ありがとうございます」


「さて、私の育成スタイルは、このような感じです。実践、振り返り、実践、振り返りの繰り返しをしていきたいと思います。勇者様方内での討議も、もちろん推奨されます。よろしいでしょうか?では、今日は、あと100回ぐらいは模擬戦をしましょうか」


春日は獰猛に笑うように、口端を歪めた。


(絶対倒してみせるぜ)


と心の中で呟き、再び攻撃に移るのだった。


各グループの訓練の日々は、苛烈を極めていた。いくら、勇者として身体能力を増した所で、今まではただの非戦闘員の高校生であったのだ。プロの兵士たちの訓練を受けて、スポンジが水を吸い取るように勇者たちはスキルレベルを上げ、戦闘技能、連携力を高めていった。



そして、1年が経った。

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