11 勇者たちの今後
勇者たちは各々の部屋を当てがわれ、思い思いに時間を過ごしていた。勇者たちは部屋に入ると一番最初に驚いたのは、置き時計が設置されていたことだ。
この世界には時計がある。つまり時間を測る単位が存在しているのだ。
おそらく昔の『ハーデニア』から来た人々が紹介した方法なのだろう、地球と同じ時間の数え方であった。勇者たちはこの事実にとても驚いた。
「1時間ほどしたら夕食の時間になりますので食堂に御集合ください。またお着換えのお召し物もご用意しておりますのでご利用ください」
案内してもらったメイドたちに促され、勇者たちは部屋で1時間ほど過ごすこととした。夕食までには服を着替え、ゆったりとリラックスすることにした。自分の部屋でゆっくりする者もいれば、友人の部屋に行き話をし、それぞれの不安を吐露しながらお互いを励まし合っている者もいた。
春日翼は一人部屋に閉じ籠り、今後の自分たちの行く末に思いを馳せた。
(これから俺たちは、世界を救う為に戦っていく。生徒たちの中には将来的に死ぬこともあるかもしれない。たとえ今まで1名しか死んでいないと言っても、それがそのまま俺たちに当てはまるかは分からない。俺も何かの間違いで死んでしまうかもしれない。しかし、俺は『勇者』の称号を得た。今までの地球人の中で、この200年間で90名しか召喚されなかったわけだ。200年間で一体何人の人が地球上に存在したか考えれば、約100億人ぐらいであると仮定した場合、100億分の90の確率で、俺たちはいる。奇跡のようなチャンスだ。そして、その中においても王国の奴らの話だと、『勇者』はランクSSの超レアな称号のようだ。この世界において、俺は世界に君臨できるような力を得られた、と言っていいだろう。日本の生活も楽しかったが、所詮は日本国内の小さな地方都市の範囲。井の中の蛙であることは否めない。しかし、これからのここでの世界は格別の楽しさが絶対に待っているに違いない。世界トップクラスの力だぞ、これは。女も金も権力も、望みのままだろう。俺はこの世界で生きていく。俺の望むように生きていく。さぁ、世界よ、俺の踏み台となってその場に跪け!!)
春日の顔には自然と薄暗い笑みが浮かんだ。
春日の父親は国際企業の重役として働き、常人の何倍もの多忙な生活を送っている。世界を股にかけてビジネスをしていた。その責務の重圧の為か彼は訪れた世界の各地域に現地妻を作った。その妻たちとの関係維持のために、更にプライベートが忙しくなり、日本の春日家にはほとんど帰ることはなかったのだ。日本に帰国してきたとしても、数年間に1回しかなかった。しかしその帰ってきた時の父親の姿に、翼は反発を覚えるというよりも、実はむしろ憧れと羨望の思いをもって、自分の理想を重ね合わせていた。
仕事のできる、力のある男。多くの女を組み敷いている。まさに理想だ。
母親は父親を支える内助の功の手本のような存在だった。心身ともに疲れた男性を癒し支える。浮気の一つを許すのも、妻の役目であり女性とはそうあるべきだ、と幼心に翼は思った。
翼が幼少期の頃より、母親は何も言わなかった。愚痴も言わなかった。家事をこなし、育児をこなし、近所付き合いも無難にこなしていたが、翼が高校生になった時、買い物に出かけてから帰ってこなかった。
何時になっても帰ってこないことを不審に思い、近所を回ったがどこにもいない。誰かに話しかけることもできずにいたので、翼はとにかく警察署を訪れ状況を伝えた。「お父さんは?」などと聞かれたが、長年父親とはほとんど電話も何もしていないので、「父は出張で外出中ですので連絡が取れません」とだけ返答した。
警察からは「捜索願を出されますか?」と聞かれた。
正直面倒であったが、世間の体面もあり何もしないでいるのもおかしいと思ったので「お願いします」と淡々と返事をした。
街の隅々まで、街の人々総出で探したが街中では母親を見つけることはできなかった。それから1週間後、裏山の奥で首を吊って死んでいるところが発見された。足元には一通の遺書があり、一行「疲れた」と書かれていた。葬儀には父親は参加しなかった。
翼は、母親の死に対して特段深い思いをすることはなかった。むしろ、嫌悪感を抱き「どうして母親はこれほど追い込まれる前に何もしなかったのか?離婚したければしたらいいのに。見栄か?プライドか?意地か?本当に死ぬ決断しかできない弱い人間は本当に嫌いだ」と母親の自殺に対して、ただただ唾棄すべき事柄として認識し、母親を心の底から軽蔑した。
翼は、父親譲りの類まれな容姿と抜群の頭脳の冴え、圧倒的な身体能力で昔より女性からのアプローチが絶えず、彼女のいない日がないほど、女性との関係には事欠かなかった。一度は、7人の女性と同時に付き合うこともあったが、最終的に翼が感じたのは、女性たちが見ているのは、ただ彼の外見と財力だけだ、ということだ。どれだけ女性と付き合ったとしても、心が満たされることはなかった。つまらない日々だと思い、勉学とアメフトに時間を費やしながら、次の女性は違うかも、次の女性は違うかも、と願いながら理想の女性を探し求めた。
高校に入った時に、翼の人生に大きな転機が訪れた。それは、三原美幸との出会いだった。彼女は、今まで出会った女性の中でも一際異彩を放っていた。明るい人柄と人のプライべートにどんどん踏み込み、声をかけていく神経の図太さ。完璧に何でもこなすようでいて、どこか抜けている天然さと愛らしさ。最初に彼女に会った時、彼女から言われたのは「あなた笑顔が素敵だけど、あんまり笑わないのが玉に瑕ね」だった。
何を勝手にそんなことを、と心の中では反発したが、次の瞬間には、本当にその通りだな、とも思った。次の瞬間、春日は気付いた。
俺はこの三原という女に惚れた。
もっと彼女と一緒にいたい。とにかくそう思い、彼女と一緒にいる時間を何とか作るようにしていった。
何故か分からないが、三原はモブで根暗でボッチの元橋とかいう男子生徒に、頻繁によく声をかけていた。おそらく一人でいるのが可哀想だから声をかけているのだろうと思ったが、美幸がアイツだけには少し特別な関わりをしていると思うと、心がざわついた。元橋には何度も嫌味を言ったり、近付かないように伝えた。アイツはいつもヘコヘコとこちらの言うことを聞いて、去っていく。こんな男のどこがいいのか、俺にはさっぱり分からない。
転移の間で、元橋が消え去ってからの美幸の錯乱ぶりは異常だった。俺には心の優しさからくる心の動揺だと思ったが、昔からの彼女の振る舞いを見ているとそれだけじゃないかもしれない、と思う心も少し自分の脳裏に浮かんでくる。アイツは本当に邪魔な奴だ。死んでしまえばいい。
俺は勇者で、美幸は聖女の癒し。まさに運命的な関係じゃないだろうか。神もそのように思っているのだろうか。俺たちの称号からしても、俺たちが運命の糸で結ばれるカップルのように感じる。
(美幸、俺はお前を手に入れる。必ずな)
◇
菅原光輝は、自分の部屋で日課の筋トレをしながら思考の整理をしていた。
菅原は強い人間が好きだ。そして、一番の喜びは、その強い人間を叩き潰し、自分が最強であることを証明することに無上の喜びを感じている。
彼は小学生にして、天賦の体躯を持っていた。小学校4年生時には170センチに85キロという、超人的な体であった。彼の伝説は多くあり、彼の地元で囁かれる伝説の一つは、「暴走族が一夜で県内から消えた」というものだ。
菅原は小学校5年生のある夜、夜中に暴走族が騒音を出して、バイクで爆走しているのに苛立ち、先頭に走っているバイクがちょうど道を曲がってきたところで、その暴走族の男に飛び掛かり、その男の頭の側面をバットで殴打しバイクから吹き飛ばして、半殺しにしたことがある。その半殺しにされた男は、県内の一、二を争う暴走族の族長であり、300人ほどの暴走族員が、復讐のために菅原の小学校に乗り込み、近くの河川敷に菅原を連れ出し、取り囲み、リンチにしようとした。しかし、格闘も何も学んでいない数頼りの一般人が、野獣のような菅原に敵うことはなく、1時間後に警察が止めるために介入した時には、約半数の族員が地面に伏していた。菅原も無傷ということはなく、全身打撲と無数の切り傷であったが、まだ戦闘継続は可能だと主張し、目は血走り、息を荒立て、大声で残りの暴走族員に罵声を浴びせていた。「これで終わったと思うなよ!!!」「ぶっ殺す!!」「全員血祭りに上げてやる!!!」「俺は全員の顔を覚えているぞ!!街中であったら覚悟しな!!」と、小学生とは思えない罵声の内容だった。次の日からは、他の暴走族も一緒くたになり、菅原の地元からはいなくなった。
このような、菅原の凶暴性や暴力性にまつわる武勇伝が多く語られているのだ。
暴走族との乱闘を経て、菅原はありとあらゆる格闘術を学ぶことに決めた。たしかにあのまま喧嘩を続けていても、全員を戦闘不能にする自信はあったが、もっと大きな集団とぶつかった時には負けるかもしれないとの一抹の不安が脳裏をかすめたのだ。もっと効率的に敵を無力化する方法を、人類の歴史の中で培われた戦闘術から学びたいと、思うようになった。
乱闘の時は、バットなどの武器も使うことも多かったので、より武器の使い方を学びたいと思い、剣道を学んだ。
超近距離の相手との喧嘩では、もつれあいになる事が多かったので、相手をより効率的に締めあげたり、防御態勢をさせない投げ技を学びたかったので、柔道を始めた。
一対多でも通用する力が必要と思い、合気道にその方途を求めた。
近距離戦ではまず打撃から始まるので、効率的に衝撃をどこにどの角度でどれぐらいの力で与えると人体を効率的に破壊できるのかを学ぶために空手、極真、シュート、少林寺拳法、ボクシングなどを学んだ。
蹴りをうまく使うことも重要と思い、ムエタイも学んだ。
だいたいの格闘術をマスターした後、一番世界で広く、合法的な方法で、力を競っているのが柔道だなと判断し、最近は柔道のみの稽古に励んでいる。世界は広く、無差別級では、オリンピックで金メダルを何度も取る、ブラジルの210センチ、150キロの超巨体の柔道選手に、掴まれたときは、何か巨大な岩と取っ組み合いになっているかと思うほど、ビクともせず、中学生にして初めて敗北を知る。この敗北を知るまでは世界のどこにも敵がおらず、人類に対して素手か竹刀での戦いに飽きていたころだった。その敗北以降、菅原は更に真摯に訓練に打ち込んでいった。
そんな時の、この世界への転移。これは彼にとって幸運な出来事以外の何ものでもなかった。どうやらこの世界には魔力があるらしい。あの転移の間にいた兵士たちの戦闘能力もかなり高いと思ったが、そのヒト族が押されている魔族の存在。もちろん元の世界でも戦争が行われており、銃や大砲、戦車、爆撃機もあり、全ての戦闘は武器ありきの戦いになっている。肉体の限界を人類が感じて、武器開発に戦闘能力の向上を探求していったのだ。肉体をどれだけ鍛え上げようが、銃弾1発には負ける。このどうしようもない現実を非常に残念な思いをしていたが、この世界に来て、自分の奥底の潜在能力を引き出してもらった。
暴威の王。
菅原にとっては破格の能力だ。この力をどこまでも引き出し、世界の全ての強者をぶちのめしていきたい。菅原の心はワクワク感でいっぱいだったのだ。
このワクワク感が、菅原の体を十全に満たしていた。ただただ楽しみでしょうがない。どんな奴らと戦うことができるのか、どこまで自分の力が通用するのか。早く国防ラインに行ってみたいとの思いでいた。
しかし、きな臭いことも正直感じる。何かが正しくないと、頭の片隅に残る違和感。
勇者たちの力は破格だ。しかし、だからと言って、この世界にも勇者以外で同じようにぶっちぎりの力を持つ者もいるだろう。しかし、別世界の人間を召喚し、この王国は自国の防衛を頼る。
(なぜだ?)
菅原には正直よく分からないでいた。
(十分あの兵士たちも強いと思う。この王国の魔法師は、召喚に必要な魔力を保有している。しかし、俺たちを元の世界に戻すためには、上位魔族が保有している魔鉱石が数百個必要と言ってくる。俺には元の世界に戻る気はさらさらないが、それほどの魔力を有している石が必要なこともどうしてわかっている?まだ勇者帰還の召喚はやったことない、と言っていたのに。世界の仕組みから戦争の状況、発端、展開など、全ての基本的な事がわからないから、サリア姫の説明は一旦鵜呑みにするしかない。今よく分からないことを考えてもしょうがない。今はただ、このままこの世界で強者を叩きのめしく楽しみで、心を塗りつぶしていくとするか。今は鍛錬を続け、誰をもがひれ伏す正真正銘の暴威の王になってやるよ)
その中で一瞬、元橋のことが脳裏に浮かぶ。
(どうやら、あいつはあの場から消えたな。兵士や魔法師は事情を分かっているのか動揺はなかったな。何のことかは知らないが、あとで報告があるらしいから放っておけばいいだろう。あいつが別室で兵士ともみ合いになって殺した、か。たしかにな・・・)
その時、菅原は一度元橋を完膚なきまでに暴力を持って制圧したことを思い出した。
(あの時のアイツの目は、不思議だったな。こちらの殴打が全て見えているようで、全てに反応しているようで、全ての急所を避けていたようだった。しかし、全てのこちらの拳打はアイツの体に全てヒットした。もしかしたら、あいつが見えていたなんていうのは、俺のただの思い違いだったんだろう?しかし、あいつがもしこちらに戦闘の意志を持ち攻撃してきたら、実はマシな喧嘩になっていたかもしれない気がするんだよなー。けども、あいつのあの臆病な態度。戦意ゼロ。常に逃げ腰。へつらう作り笑い。あいつには戦いは無理だ。しかし、もしかしたら、ヒョロヒョロの雑兵ぐらいならあいつがキレて、殺しました、と言われたら、俺は半分驚くが、半分納得だがな。あいつならもしかして、と思うところもある。まぁ、分からないことをあれこれ考えたところで栓無き事か・・・)
それから、菅原は心を落ち着かせるために、また更にこれからの訓練方針を考える為にも、元橋のことは思考の外は追い出した。そして自分の当てがわれた豪華な部屋の中で、筋トレに没頭していくのだった。
◇
「うううううぅぅぅ。。。。」三原美幸は、自分の部屋の中でさめざめと泣いていた。その横には、いつも一緒にいたグループの女子3名である赤石そらと、森日葵(もり ひまり)と、中井春奈(なかい はるな)、と教員の凜先生が横で一緒に心配そうに、三原を守っていた。
三原は何がどうなっているのか、衝撃的な出来事の連続に頭も心もついていっていなかったのだ。心配だった女子たちと凜先生は、三原の背中をさすりながら、話し合っていた。
赤石そらは、称号は『詩歌の姫君』(ランクSS)に覚醒した、支援職の人間だ。森日葵(もり ひまり)は、『言霊の精霊使い』(ランクB)に覚醒。言葉に思いを乗せて、攻撃や防御、回復や状態異常などができるスキルだった。中井春奈(なかい はるな)は、ランクAの『正直者』で、相手の嘘を喝破できる力を有している。凜先生は『カウンセラー』(ランクB)の称号を得ていて、相手の話を聞き、相手の精神状態を的確に把握でき、その状態から脱しする為の助言を与えることができる特殊スキルを使えるのだ。
「聖女の癒し(SS)」の三原と「言霊の精霊使い(B)」の森以外では、自分たちのスキルには攻撃系が無いため、単体での戦闘が行うことができない。中井も凜先生も後方支援系の職種であったが、戦争は総合力の戦いなので、国王や王女からも重宝すると言われていた。精神的な治療の必要な兵士たちは多くいるので、凜先生のカウンセリングのスキルは非常に助かるとも言われていた。また、中井の嘘を喝破する力は、間諜などにはとても友好的なので、王宮で保護する、とも言われている。
「大丈夫、美幸ちゃん?」
凜先生は、心配そうに声をかけた。
林凜は、新任教員ということもあり、生徒の扱いには慣れてはいなかったものの、元来の楽天的と明るい人柄と年齢が近いということもあり、生徒の中に入って、生徒たちと心を通わす繋がりを作れる、優しい教員だった。しかし、臆病な所があり先ほどの転移の間での話し合いは気が動転しており、クラスの意思決定に全く口をはさむことができず、「情けない大人だな・・・」と自分を責めていた。しかし「この事案は、私のキャパオーダーだからしょうがない」と割り切って、心の平静を保てるという、鋼のメンタルも持っていた。
「私たち、これからどうなっていくのかしら・・・」
隣にいた言霊の精霊使い(B)の森日葵(もり ひまり)も、不安な思いをいっぱいに声を震わしていた。その不安な心がそのまま言葉に乗り、周囲の不安感を実は煽っているとは、森は気付いていなかった。
森日葵は、背が少し低めの目鼻のパッチリとした、可愛らしい女の子である。中学時代はバスケ部に所属していたが、高校に入って、勉強が大切と思い、勉強とクラブの両立ができるようにと華道部に入った。高校生活はとても楽しく、友人もそれなりに多かった。少しわがままで空気の読めない、子供気質のある女の子であったため、周囲に流されることなく、自分のやりたいことを貫く強さを持っているが、相手に合わせることが少し苦手なところがあった。
森は、生来の相手の事を気にしない思いが悪い風に出てしまい、不満を周囲にぶちまけていたのだ。
中井春奈はギャル系女子で、流行をいち早く掴み、おしゃれが好きで背も165センチと少し高く、サバサバした女の子だった。パパ活をしながら、クラスの誰よりも男性経験が多く、周囲の学校の男子生徒が子供のようにしか見えず、学校生活を飽き飽きして過ごしていた。片手にスマホを持ち、常に友達とアプリでショート動画を撮るのが趣味で、携帯電話でネットに繋がらないかと、今まで奮闘したが諦めた。
中井「この状況は、もうしょうがないよね。これからのことを考えるしかないしー。とにかく、ひーちゃんは、少し落ち着こうよ。こっちまで不安になっちゃうよ」
林先生「そうね、森さん。おそらくあなたのスキルが発動していると思うわ。言霊の精霊使いのスキルかしら。あなたの思いが増幅して、周囲に影響していると思うわ。森さん、少し落ち着いて」
赤石「じゃあ、私が歌でも歌ってあげようかな?」
と言って、赤石は子守唄を歌い始めた。
これが赤石のスキルで、感情を落ち着かせる歌を歌うことができるのだ。
その歌を聞き、三原と森は少し落ち着いた。
林先生「どう、森さん、三原さん、少し落ち着いたかしら?赤石さんの音色は落ち着くわね。あなたはプロの歌手になったらいいと思うわ」
赤石「てへへへへ。ありがとー、凜ちゃん」
森は、自分のせいで皆が不安にさせていると思うと申し訳なく思い、心を平静に保とうとした。
森の言霊のスキルが無くなり、また赤石の歌のおかげで、4人の女子たちの雰囲気が落ち着いたものになった。皆はそれぞれの生来の明るさを取り戻していき、冷静に今の状況を考えられるようになっていた。
林先生「三原さん、大丈夫?」
三原「凛ちゃん、ありがとう。そらも、はるかも、また、ひまりも、一緒にいてくれてありがとうね。少し落ち着いたわ・・・。ただ、私は伸城君が消えていなくなって、それで気が動転してしまったの。それに、伸城君があんな扱いを受けてしまったということは、他の生徒も同じような扱いを受けるかもしれないと思うと、みんなのことが心配になって、不安で不安でしょうがなくなったわ」
中井は、その言葉を受けて慰めるように声をかけた。
「たしかに、美幸の言うことはもっともかもしれないね。本当に心配だわ。兵士を殺してしまった、元橋君にも問題があるけど・・・。元橋君も本当に何がどうなったのかしら。気弱そうな彼がね。信じられないわ」
赤石「正直私も信じられないなー」
三原「私は、伸城くんが絶対にそんなことしていないと思うの。じゃあ、何故サリアさんが嘘をつくのか、と言われても分からないけど・・・。これは何か不幸な事故が、あまりにも偶然に重なり合う中で起きた出来事だと思うわ。誰も悪くないはずよ」
中井「そうね。とにかく私たちはこの状況下で生き抜いていかないと、元橋君の事を心配することもできないからね。私の称号は、正直者(B)だから戦闘要員じゃないけど、後方支援系としては強力な力だって、サリア姫も言ってくれていたから、これから王宮で住むことになるわ。そこで私になり頑張ろうと思う。まだ、私このスキルの使い方が分からなくて、まだ使ってないんだけどスキルってどう使うの?」
赤石「簡単だよ~。自分がやりたいことを、そのまま頭で念じればいいんだよ。私なんて、『みんな頑張れ!』って思って歌うと、勝手にスキルが発動しているって言われたよ☆」
三原「そうね、私の場合も、だいたい同じかな~。けども、確かに分からないところはまだまだあるから、まずは私も自分の『聖女の癒し』のスキルを使いこなして、この国でみんなの事が守れるような力をつけていきたいわ。これからどうなるか分からないけど、必ずみんなで元の世界に戻れるように全力を尽くすわ!」
中井「むむむむ・・・。難しいわね。なかなか発動しなさそう。使い勝手の悪いスキルなのかも・・・。またサリア姫にでも聞いてみるわ」
その後は、あそこの兵士はイケメンだったとか、サリア姫がきれいすぎて、自分を卑下してしまうとか、春日君がめっちゃ格好いいけど、クラスの女子の中で、ほとんどの子が付き合ったことがあるとか、ガールズトークで会話が盛り上がり、気付けば夕食の時間となっていた。
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