8 逃亡の後に
「残念ながらモトハシ様は、転移の魔法陣を使いどこかに飛ばされてしまったようです。先ほど部屋を確認しましたら、一人の兵士が殺されているのが、判明いたしました。目撃をした一人のメイドは重傷を負っていますが、彼女の証言ではモトハシ様は、今後の生活のお金をどうするかを気にされていた様子でした。説明後、モトハシ様は護身用にお渡しした剣を使い、背後から兵士を貫いてしまったようです」
「な!!!なんてことだ?!それでは、まるで強盗じゃないか!」
春日は驚いたように声を上げた。
「ちょっと待って!!!!伸城君はそんなことをする人ではないわ。気が弱くて、自分でどうするかを決めるのに時間がかかり、人を傷つけるようなことが一番嫌いな人だったわ。お金のことで揉めるとか、私には納得できないわ!!」
赤石さんも同様に「それは彼らしくないと思うな」と意見を言った。
「けども、現に人は死んでいるわけだろ?何で、その兵士は死んでいるんだ、この状況下で?」
菅原はもっともな疑問を呈した。サリア姫は勇者たちを見渡し伝えた。
「仰られることはよくわかります。事の真偽は早急に究明いたします。この殺人案件を調査させていただきます。勇者様方は、一旦向こうの部屋で待機をしていただいてもよろしいでしょうか?調査の内容はまた、詳しく後ほど報告させていただきます」
「そんな!?何かおかしいわ!」
三原は依然として納得いかない様子で、サリア姫に詰め寄ろうとした。周囲の女子生徒たちは、憤懣方やる無しな三原を抑えて、別の部屋に連れて行くのだった。
(伸城君、どこにいったの?何があったの?ほんとに人を殺してしまったの?どこへ行ったの?答えてよ・・・)
三原は穴の開いた壁の向こう側にある、暗い空間を見つめながら、答えのない質問を繰り返した。
◇
勇者たちを別室に移動させた後、サリア姫はモトハシがいなくなった部屋で調査の陣頭指揮を執っていた。サリア姫は苛立ちを周囲の兵士たちにぶちまけていた。
「くそ!!!なんで、兵士が無力化されているのよ?!確実に殺しなさいと、命じたはずよ!?」
「も、申し訳ございません。映像を見る限りでは、モトハシは予想以上の動きをしていたようです。ま、また、兵士も油断をしていたようで、一刀下ろしたものが避けられ、バランスを崩したところを、圧倒・・・された模様です」
「何をやっているの!!???このゴミ屑がーーーーーー!!!!!!!!!!!」
イライラ感を爆発させて、サリアは報告している魔法師を風魔法で吹き飛ばした。
サリア
称号:リーダー(Aランク)
カリスマ
扇動
意識誘導
威圧
説得
雄弁
傾聴
風魔法・耐性
魔力50倍
(まぁ、覚醒したばかりの勇者たちをこちら側に引き込むのは問題なかったから、いいんだが、あの消えた、なんだったかな?あー、モトハシか。アイツだけには、何故か効き目が悪かったようだな。意識誘導させて、勇者の奴らにはこちらの言うことを信じさせたのにな。黙って馬鹿みたいに座ってろって)
サリアは意識誘導、雄弁、説得、威圧、カリスマ、扇動のスキルを総動員して、異世界の勇者たちをサリアの説明に納得するようにさせていたのだ。兵士は殺していないが、あの場で勇者たちには『殺害された』と伝えたので、あのモトハシをこれから指名手配することは可能だ。しかし、何故モトハシが、あれが転移魔法陣だとわかったのかは、不可解な事柄としてサリアを悩ました。
「おい。そこの兵士」
「はっ!サリア様」
サリアは倉庫の調査をしている兵士の一人を呼び掛けた。
「お前は、たしかモトハシが消える時に一番近くにいたな。あいつは転移前に何か口にしていなかったか?」
「いえ、明確に、何かを口にしたことはないと思うのですが・・・。いえ、たしか、『魔法が入っている』『九死に一生』などという言葉が聞こえてきたと思います」
(と、いう事は、モトハシはもしかしたら、九死に一生というぐらいだから助かるかもしれない、と思ったわけだ。不思議だ。事前情報で魔法陣の話なんてしてないしな。けども、あいつは分かっているのか?あの魔法陣に書かれていたのは、『流罪地への転移』。移動後、致死率100%だ。あいつはもう、その流罪地で死んでいる頃だろう。この事実を勇者たちに伝えると、ややこしいだろうな・・・。もし伝えると『こらちもそこに乗り込んで救出してほしい』とか言われても困る。絶対に向こうに行けない。行った者が死んでしまう。そんな人員は存在しない。転移魔法陣は基本一度しか起動しないし、行く方法がないことを説明すればいいが、あの三原と赤石の様子を見ると、説明だけでは納得しないだろう。では、その場所を教えろ、と言われても、私でもその流罪地の場所は知らない。そこへ救助隊など派遣するなど不可能だ)
ふと魔法陣のことが気になり、サリアは兵士たちに問うた。
「誰か、相談タイムの時にモトハシと話した者はいるか?」
「はい、私が相談に乗りました」
一人の兵士が手を止めてサリアの元に駆け寄った。
「何を話した?」
「はい、街にはどんな仕事があるかや、17歳で仕事はできるのかや、魔力は全ての人に備わっているのか、ぐらいだったと思います。すぐに城から出ることを想定しての質問であったと思います」
「魔法陣の話は出したか?」
「いえ、そんな話は出ておりません」
「わかった。言っていい」
兵士は頭を下げ、現場へと戻って行った。
(じゃあ、なんであの紙が魔法陣とわかる?もしかして、アイツの植物鑑定で分かったのか?いや、それは無理だ。資料によると、あれは植物の名前しか分からない、全くのカススキルだ。以前の植物鑑定の勇者も、すぐに処分したらしいな。紙を見ても、紙が何の植物でできているかを見るものだから、あれが転移魔法陣とは分からないはずだ。アイツは元々こちらの世界の人間だった?有り得ないな。最後の自暴自棄な行為だったと考えるしかないか。しかし、謎だ。あの時になぜ魔法を注入することを思い付いたのか・・・)
元橋は、普段より自分の内面を深く見る訓練を古武術の修行の中で、自然と行っていたことであり、『スキル解放』で植物鑑定を得てから、深くこのスキルを解析していたのだった。そして、何度もスキルを発動することで、植物鑑定のスキルレベルをあの短時間で上げていたのだ。レベルを上げたスキルは、より精度の高いものになると分かっていたサリア姫であったが、この短時間でそこまで上げているとは露ほども思わず、元橋の力を正確に把握することを仕損じていた。この失敗こそが後々になって自身を破滅に追いやる事になろうとは、サリア姫は分かっていなかったのだった。
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