6 今後の方針

そんな中、一人、所在なげに周囲を見渡している男がいた。


元橋伸城。


(さて、今周囲を鑑定しているが、人の鑑定は全くできない。けども驚いたことに、やはりと言っていいのか、植物由来のものは全て鑑定が可能だ。)


学生服

ー⚫▲◇◎⬜▷

ー綿(摩滅率50%)


(⚫▲◇◎⬜▷は、おそらくポリエステルかな。服の材料で植物の素材は分かるんだよな。)


王族の装束

ーサーサリア

ーナルミ


(凄いな。この鑑定で素材が分かるんだ。たしかに、植物由来のものしか鑑定できないのが残念だけど、相手が着用している服装とその名前も分かるのはかなり有能じゃないのかな?これがGランク。以前の勇者は、この情報を共有しなかったのか?いや、共有したところで、全く価値を見出されなかったのだろう。今、その植物鑑定の勇者はどうしているのだろうか?戦争の中で無為に死んでしまったのか?市井に下ったと言ったが、そこで寿命を迎えたのか?それとも何か起こったのか?分からない事だらけだな。


けども、赤石さんの歌声はすごいな。僕の中にも何かやる気のようなものが込み上げてくる。自分を信じることの素晴らしさというのかな、自分は本来は凄い人間なんだと思わせてくれる。たしかにこの歌声を、万の軍隊に聞かせたら、それぞれの戦闘員は十全に自分達の力を発揮することができるんだろうな。本当に凄い力を持っていたんだな。


他の生徒たちも、自分たちのスキルを試しているが、どれも元の世界で言えば、超人的な動きや超常現象を起こしている。昔の『魔女』と呼ばれている人たちや『陰陽師』なんかも、もしかしたら、このように『スキル解放』ができて、その力を行使していたのかもしれないな。不思議な力だ。)


(元の世界に戻る為には、魔鉱石が数百個ぐらい必要との話だけど、上位魔族一体から一つ得られるんだ。一体、上位魔族はどれほどの力を持っているのだろうか?上位じゃなくても、普通の魔族ではどれほどの力を持っているのかな?今、この世界は本当はどのような状況なのだろうか?本当に全てが謎だらけだ。僕たちはこんな状況下で、決断を下すしかないのか。本当に危うい状況だな。)


「皆さま、いかがでしたでしょうか?勇者様方の力は、今後、今以上に強力になられます。勇者様方は、今、この世界でトップクラスにつながる力を有されましたことはご理解いただけたと思います。しかし、魔族はまだまだ強大です。是非、このまま力を鍛え、強化していただき、魔族に対抗する力を付けていただきたいと思います。」

サリア姫は、深々とお辞儀をして、勇者たちの理解を求めた。


サリア姫とならぶ、年配の魔法師然とした青年がハキハキと話をし出した。

「それでは、勇者様方に今後の方針をお伝えいたします。


まずは、衣食住を保証させていただきます。


その後は、城内において、鍛錬できる場を用意させていただき、スキルに馴染んでいただければと思います。


そして、ある程度スキルに慣れていただいた後は、皆様には城外に出ていただき、王都内にある森や山、平野に散在する魔獣との戦闘を体験していただき、戦闘能力向上、魔獣を殺すことへの忌避感の克服、チームとしての連携、この世界で生き延びる上で必要な知識、技能の伝達をさせていただきます。


将来は、そのまま戦闘地域である、国防ラインでの任務をしていただくか、国内の未開発の地域の発展に寄与していただくか、要人警護に従事していただくか、国内の治安向上に貢献していただくか、皆様のスキルの特性に合わせた場所でご活躍をしていただこうと思っております。」


一気にここまで流れるような説明が続き、数秒の間が空いた。


再びサリア姫は、ゆっくりと皆の様子を見渡した。

「何かご質問があれば、お受けいたしますし、ご相談が必要な方々は、周囲の方、また兵士や魔法師、またら私たち王族にもお気軽にご質問などしてください。」


その言葉を聞き、生徒たちは思い思いに、近くの兵士や魔法師、また王族に話をしていった。


「僕の称号は、冒険者です。Aランクと言われましたが、この世界では生きていけますか?今までもこの冒険者という称号の方がいましたら、一体何をされていますか?」


「はい、冒険者の勇者様は、各地の未開発地域を探検され、未発見の生物や鉱物、植物を見つけられたようです。また各地の様々なトラブルの解決に寄与されたとお伺いしております。」


「私は、風を読む人で、Bランクと言われました。この称号はどうでしょうか?」


「はい、非常に有能でございます。未開拓地域の探索に出る際には、必須となるスキルが得られますので、是非この国の経済発展にご尽力いただければと思います。」


「国防ラインでの勇者の致死率はどれぐらいなんだ?」


「一番最初の勇者召喚は、200年前に行われました。その時で、30名。100年前に30名。計60名の勇者様を召喚されました。当時の勇者様のご活躍で、戦局を大きく変えられたとの記録があります。その60名の中で、40名ほどの勇者様が国防ラインで戦闘に参加され、死亡が確認されたのは、1名となっております。他の勇者様方は怪我などの理由で国内で療養されたり、違う赴任地で違う任務に携わっておられたようで、みな、それぞれの場所で天寿を全うされました。その為、各地に勇者様方の名残が残っております。」


「怪我をしたりして、戦闘に参加できなくなったら、私たちはどうなるんですか?」


「皆様のスキルは国家としても、国民にとっても非常に有益でありますので、それぞれの地域でご活躍していただければと思います。戦闘だけが、戦争の勝敗を決することはございませんので。」


「以前に召喚をされた勇者の方々と会って話すことは可能でしょうか?」


「もう勇者召喚はこの100年行っておりませんので、勇者様と直接話をすることはできません。しかし、その子孫の方々でありましたら、お話をしていただくことは可能です。実は、この国の王族もその勇者様の末裔に連なるものになります。トーマス王は、英雄となった勇者様のお子様であります。」


「「「「「えぇ!!!!!」」」」」


その話を横で聞いていた生徒たちも一堂に驚いて、声を上げてしまった。


「はい、その通りです。私の母は、サクラバ・サヤカと申します。二ホンのキョウトという場所で生まれ育ったそうです。もちろん私はその場所に行ったこともありませんし、その場所の言語も話せるわけではありません。二ホンの言語は聞いたら分かりますが。みなさんは、二ホンの方でしょうか?二ホンの言語を話せる勇者様はおられますか?」


その発言に驚きながら、春日はサリア姫の質問に答えた。

「いや、多分この中の全員が話せます。凄いな。けども、なるほど、今の発言で思ったのは、決して日本人だけが召喚される対象ではないのですね。」


「はい。そうです。『ハーデニア』の方々が、召喚対象となります。転移に関しては、お話ができればと思います。


それでは、皆様方、これからの方針をお決めになられたでしょうか?皆様の方針にできるだけ沿う形でこちらも、ご支援をさせていただきたいと思っております。もし、この中で、市井に下る、という方がおられましたら、まずは戦闘訓練は受けていただき、魔契約を持って、勇者様であったことを口外しないようにしていただくことになっております。何故なら、このまま国に残り、元勇者様であることが分かると、犯罪相識や他種族からの誘拐や拉致される可能性があるからでございます。もちろん、勇者様として活動される際も、護衛を付けながら、安全を確保して、生活していただきます。ご自身の身はご自身で守っていただくことが必要でありますので、どちらにしても、戦闘訓練は受けていただければと思います。


では、まずは、勇者様として活動をご希望される方は、手を挙げていただいてもよろしいでしょうか?」


その呼び声に、躊躇なく手を挙げた生徒たちが20名ほどいたが、その勢いに飲まれて、周囲の勢いに呑まれて、後10名も手を挙げた。残りの5名は、少し考え、4名が手を挙げた。1名を残して、全員が勇者としての活動をすることを了承した。凛先生も生徒たちと一緒と思ってか、ほぼ全員の生徒たちが手を挙げているのを見て、手を挙げていた。残りの1名は、元橋伸城であった。


「それでは、手を挙げていただいた方々は、今後のスケジュールに関してご説明させていただきますので、ご移動お願いいたします。」


「ちょっと待って!」


一堂が立ち、移動していく中で1人だけが起立しないことに驚き、またそれが僕であることに驚き、三原さんが声をあげた。


「伸城君は、一緒に行かないの?1人で何をしようとしているの?」


「僕は、みんなも分かった通り、植物鑑定しかできないから、戦闘職でも生産職でも、支援職でもないんだ。残念ながら、研究職もない、との話だったから、僕は市井に下って、生きていくよ。まずは戦闘の手解きは受けてからだね。国防ラインでの戦闘を前提としない場合は、違うメニューが用意されていると、さっき教えてもらったんだ。逆に、僕がみんなと一緒に戦争に行ったりするのは、考えられない。」


「そ、そうだよね。私、バカだな。分かっていたようで、全然分かっていなかった。これからもずっと一緒かなあ、と思ってたから。」


「一緒だよ。だって、僕がこの国で生活をしていくんだから、また会いに来てくれればいいと思うよ。三原さんの活躍を期待しているよ。死なないでね。1人は死んだって話だったし。」


「分かったわ。実は私ね・・・」


「美幸、もういいから行くぞ。こんな奴のことを構っている暇があったら、この国の事を考えてやれよ。」


菅原は三原さんの後ろから荒々しく声をかけてきた。


「三原さん、また会いに来たらいいんだよ。この国にいることは間違いないんだから。俺たちの手で、世界を平和にしていこう。元橋君は、この国に残って、安全な場所で、安心して暮らしていればいいよ。」


春日が三原さんに優しく声をかけながら、先に進むように促していく。


僕にとっては、それでいいし、何か言うこともない。ここで、みんなとの袂を分かったわけじゃないし。


僕は僕で、別の部屋へと案内された。


僕の後ろから、三原さんはじっと僕の行く後ろ姿を見ていた。

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