3 暗転

ある日の昼休み、僕は1人で運動場の隅で学食のパンを食べていた。運動場では男女入り乱れて、ドッチボールやサッカーをしながら、昼休みを楽しむ高校生が多くいた。


いいなー、青春だなー。


僕は何とかいじめを回避するべく、低姿勢で存在感を消しながら過ごす日々であったりする。常にボッチの僕には大学デビューでしか、自分の人生をリセットすることはできないよな、とそんな希望が胸の内に膨らんでくる。


早くこの高校生活が終わってほしいと、心の底から思う。


「あー、伸城君!こんなところで、ご飯食べているだー」


ふと振り返ると、三原さんと取り巻きの男子たちと女子たちがブラブラと立ち寄ってきた。


「なんか用かな?」


三原さんに目が行ったが、それと同時にニヤニヤしている後ろの連中がイラつく。


「1人だったから、ちょっと声かけてみたの」


「そっか。ありがとうね。けども僕は今から教室に戻るところだから、じゃあね」


後ろの男子や女子たちの視線を気にしながら、そそくさとその場から立ち去ろうとする。そこに菅原や春日もいるから、ややこしい。


いやだねー、リア充の連中は。


「美幸、こんなやつ放っておいて、向こうに行こうぜ。おい、もとキチ、早く教室に戻ってろ」


菅原はイライラした感じで、こちらに言い放ってくる。


「もう、やめてよね!伸城君は、私の友達なんだから、そんな言葉遣いはやめて!」


三原さんは幼稚園時代からずっと僕のことを下の名前で呼ぶ。もう一緒に遊んだりするような感じの関係でもないんだから、正直やめてほしい気持ちもあるが、三原さんが僕に対して、身近に感じてくれている感覚がするので、嬉しい気持ちも半分ある。


「まぁ、美幸は優しから、どんな生徒にも声をかけるからな。元橋くんだったかな?勘違いしちゃダメだよ」


春日が笑顔でいて、辛らつな言葉でこちらに釘を刺すように言ってくる。


「はいはい、分かっている。勘違いもない。優しいね。じゃあね」


春日は目元を細めて「はいはいって、子供じゃあるし。言葉遣いがなっていないのは、精神年齢が低い証拠だよ。もう少し、言い方に気をつけようか」


凄んでくる圧に、どうしようもなく僕は謝るばかりだった。


「ごめん。気をつけるよ。じゃあ、またね」


「あっ」


三原さんは何かを言いかけたが、周りの生徒たちが先を促しているようで、たわいもない話題で談笑をしながら歩き始めていった。


僕の後姿を、心配そうに見ている三原さんの視線に気まずく感じながらも、僕は何も感じずにいようと努めながら、「僕はここにいない。僕はここにいない」と心に何度もつぶやきながら教室に戻ってきた。


あー、何というか、イライラする自分を切り離して、自分はここにいないと、自分に言い聞かせる。何とか平常心を保ちながら、教室での時間を逃げ切った。


昼休みの終了のチャイムが鳴り、5限目の国語が始まる時間だ。ダラダラと帰ってくる生徒たち。国語の林凜先生が教室に入ってきた。


林凜先生は新人の若い女の先生で、まさに名前の如く白百合の如く凛とした清楚な感じで、生徒たちに絶大な人気があった。柔らかい印象を持たせる顔立ちと小柄ながらも、女性的な流線型がよく分かる体型とそれが良く分かる服装をいつもしていて、彼女のファンは学校内に多くいるのだ。国語の時間だけは、頑張ろうとしている男子高校生は多数いる。


僕も実はその一人だったりする。凜先生!!


凜先生が教卓の前に立ち、挨拶をしようとした瞬間、何か耳鳴りみたいな振動が鼓膜を震わせる。地震の前の予兆に似ている。


まさか地震の予兆か??!!


周囲も一瞬の動揺が走る。


この地震は大きいかもしれない!?


みなが一瞬怪訝な顔をしたが、僕らの目の前が一気に暗転する。


停電!?と思ったが、巨大な穴の中を落ちていく浮遊感を一瞬感じた。


落ちる!!??床が、抜けた?!落ちる!!!!


ブンッ!


視界が暗転し、意識が落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る