第4話 真実の鏡

 宿泊客が僕達しかいなかったこともあり、魔央の部屋は二つ隣だった。

「魔央、いる!?」

「どうしたんですか? 悠さん?」

 魔央も既に露天風呂に入っていたらしく浴衣姿だ。

 破壊神らしからぬ、蛍と花柄のかわいらしい浴衣を身に着けている。

「君の部屋にはスマートフォンが落ちていなかった?」

「スマホですか? 特になかったようですけれど」

「そうなのか」


 僕は、自分の部屋にスマートフォンが落ちていて、そこには持ち主らしい者が閉じ込められていることを説明した。

 魔央はさして動じない様子だ。

「あ、それは恐らく黒冥家がやっている『呪い屋本舗』の呪術道具で『真実の鏡』だと思います」

「『真実の鏡』?」

 魔央の実家が呪いグッズを多数売っているとは聞いていたが、具体的なアイテム名を聞くのは初めてだ。


『そこから先は私が説明するわ』

「千瑛ちゃん!?」

 まさかAIの彼女が最果村に!?

 でも、彼女は半分幽霊だから、幽霊成分として漂うことはできるのか。

 超絶除霊師がいればAI化してネットの世界を逃れ、電磁パルス攻撃が来れば幽霊化してやりすごす。

 新居千瑛を倒すことはほぼ不可能だということだ。

『真実の鏡というのは、その人間の本質を映し出し、人間をその姿に替えてしまう恐ろしいアイテムなのよ』

 むむむ、オカルトの話に出て来そうだな。

 というか、実際に見た記憶もあるかもしれない。

『この旅館の鏡は全部それよ』

「何だって!?」

『昨今の若者はスマートフォンから離れられないわ。SNSを見たり、動画サービスを見たりで半日以上見ているし、何かにつけて映えを求めて自分の写真を撮ったりするわ。つまり、昨今の若者の少なくない数の者が、スマートフォン化しているわけよ』

「つ、つまり、生活がほぼスマホと一体……人間ではなくスマートフォンが本体状態になっている。だから、真実の鏡に映した途端、人間部分が本体であるスマートフォンに吸収されてしまうということ?」

『その通りよ。元々が人間だから廃棄するわけにもいかず、そのまま残していたということね』

 何ということだ。


 しかし、魔央の部屋にはなくて、僕の部屋に何枚も転がっているのは何故?


『それは可愛くもないし、特別でもない連中は、一番安い部屋に泊めるということよ』

「くっ!」

 確かに、魔央や優依と比べたら、僕は「どうでもいい枠」であるのは間違いない。

 よそ者の一般人と同じ、どうでもいい部屋に入れられていたというわけか。

 座敷童があの部屋にいたのも、大抵はあの部屋しか遊び相手が来なかったからというわけか。


「彼らを元に戻す方法はあるのだろうか?」

『うーん、彼らが心からスマートフォンから脱却できれば、叶うかもしれないけど』

「それは、中々難しいかもしれないな」

 しかし、エビフライカレー決戦が開催される時期には、こんなところに世界の要人が泊まることになるのか。果たして何が起こるのだろう。真実の鏡は、彼らのどんな姿を映し出すのだろうか?

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