第3話 最果村のスマートフォンは危険がいっぱい
そう、ここは最果村。
部屋にある人形の髪は伸びているし、人のいない部屋からは笑い声がする。
しかし、ここの部屋の座敷童は中々人懐こいようだ。
暗闇からポンと鞠が飛んできた。
本来なら鞠を返すべきなのだろうが、露天風呂に入っているからすぐに返す気にはならない。
何の気なく奥を見ていると、座敷童のいる方向に向かって何枚かスマートフォンが転がっている。
一体どういうことだろうか?
そもそも最果村にスマートフォンがあること自体が変である。
入口の看板に書かれていたように、最果村ではまだ携帯電話自体が不通だ。
今や販売もされていないガラケーすら、ここでは通じない。
最果村で生産されるものは基本的には昭和20年代くらいと考えてしかるべきだ。そう、固定電話ですら、ここでは貴重品である。
ということは、あれは以前ここで泊まった客が持っていたものと考えるのが妥当だろう。
わざわざ最果村まで旅行に来る者はほとんどいないと思うが、何かのきっかけでやってくる者はいるはずだ。
そうした彼らが忘れていったものだろうか。
「そのスマートフォンは君のかい?」
座敷童に尋ねてみたが無視された。
「もう少ししたら風呂から出て、遊んであげるよ」
『クスクスクス、待っているよ』
遊んであげると言ったら、かなり上機嫌になった。
風呂から出て、僕は鞠を空間に向かって投げ返した。
すぐに投げ返されてくるので、それをもう一回投げ返す。
鞠を投げ合う、よく言えば純朴な、悪く言えばひたすら単調な遊びである。
僕はすぐに面白くなくなったが、彼は面白いのだろうか?
「ねえ、面白い?」
どうしても転がっているスマートフォンが気になってしまうが、遊んでいる最中に拾うと怒りそうだ。終わったら確認しよう。
20分も続けると相手も飽きたようだ。ボールが返ってこなくなった。
僕はスマートフォンに近づいた。
一枚拾ってみて、入るはずもないと思いつつ電源を入れてみた。
そうしたら、いきなり作動しはじめたじゃないか!
びっくりしたけれど、この先はパスワード入力なり何なりでダメになるかなと思った。
そんなことはなかった。
最果村のスマートフォンに常識を求めたらいけない。
しばらくすると、20歳前後の女性の顔が現れた。
『だ、出して……。ここから出して……』
思わず叫びそうになってしまった。
何ということだ!
ここにあるスマートフォンはやはり以前の客のものだ。
そして、その客たちは全員、自らのスマートフォンの中に閉じ込められてしまったのだ!
何だかマジもののホラーになってきた。
「こら、座敷童。君がこんな悪いことをしたのか?」
『クスクスクス、僕は悪くないよ!』
座敷童が楽しそうに笑っている。
これは何かしていそうだ。
しかし、どうやって座敷童から聞きだせばいいのだ?
いや、その前にここに泊まっているのは僕だけではない。
魔央と優依も別の部屋に泊まっているのだ。
2人にもこのことを伝えなければならない。
僕は浴衣を着ると、部屋を出てフロントに向かった。
クスクスクスという座敷童の声がなおも聞こえてきた。
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