第2話 最果村のホテルに泊まろう
最果村は公式には人口895人だが、村のGDPは980億円。
1人あたりの計算では圧倒的にナンバーワンである。
そのせいか、各自治体から研究に来る人が多いらしいけれど……。
「そんな奴は1人も見たことがないわい」
村の中心部ではすげない言葉が返ってくる。
まあ、ここ最果村は今時WiFiも通じないし、意外と山道が厳しい。途中で遭難する人もいるだろうし、地味に日本国憲法が通じないのも痛い。少なくない人が帰らぬ人になっているらしい。
そんな最果村の主要産業は呪術。
特に魔央の実家である黒冥家が営む『呪い屋本舗』は東京、大阪、名古屋、福岡と主要都市に店舗を出している。系列店の「ミザリー」、「イワザリー」、「キカザリー」も大人気らしい。
これだけ科学技術が発展した現代日本でも、呪術は力を持っているのだ。
僕は実家である時方家に泊まろうかと思ったけれども、両親は僕を捨ててしまったし、少し前に不貞ものが家に押し込んで色々破壊していったらしい。
「そんな危険なところに泊まることはないんじゃないですか?」
と魔央は、実家の黒冥家が経営する旅館に泊まることを提案してきた。
黒冥家の経営する旅館は、火山のふもとにある。
火山のふもとにあるということは、つまり、良い温泉があるということだ。全ての部屋に大きな庭があり、風流を味わうことができる。
その全てに源泉かけ流しの露天風呂がついていることを想像してほしい。夢のような旅館である。
ただし、呪術で知られた黒冥家だ。
部屋ではありえないことが毎夜のように起こるとも言われている。
つまり、部屋に飾られている鞠は夜中に勝手にポンポンと弾んでいるし、日本人形は髪が長くなって部屋中を移動している。
日本的なものだけではない。和洋折衷で人魂も飛ぶし、ゾンビのうめき声も聞こえている。
「最近、アンブレラ・パラソル社が村の外れに工場を作って、怪しい薬を作っているみたいですね」
バイオハザードも普通に起きているかもしれないということだ。
よそ者はこんな最果村をとんでもないところと評するが、都心だってロクでもないところだ。ン十万ン百万という人間の欲望がギラギラとうごめいていることと比較すると、たかだか幽霊やポルターガイスト、バイオハザード程度が何だと言うのだろう。
僕は魔央の誘いに応じて、旅館に泊まることにした。
ここの旅館の良いところは最果村が過疎地域なので20室ある旅館はほぼガラガラなのだ。だから、自動的に優依も魔央も違う部屋になる。
ここには自由があるのだ。
「はぁ~、気持ちいいなぁ」
誰の視線も気にすることなく、僕は庭の露天風呂を堪能していた。
一体、日本のどこで和室三室庭に露天風呂付で一泊三万で泊まれるところがあるというのだ。
しかも、1人で泊まっても暇になることもない。
部屋の奥からポーンと鞠が投げられてきた。
「クスクスクス、ねえ、遊ぼうよ!」
甲高い子供の声が奥の暗闇から聞こえてきた。
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