第7話 開催を巡る暗闘

 ニューヨークの国連総会。

 今、ここでは天下分け目のエビフライカレー決戦をどこで開催するかを巡って紛糾している。


 まず、僕達は面倒臭いから日本を希望したが、過半数を取れなかった。

 アメリカに反発している国は思ったより多いらしい。

 次に上海での開催が審議されたが、これも過半数に行かない。中国も嫌われているらしい。

 最後に第三勢力を代表してインドがムンバイでの開催を希望したが、アメリカはじめ常任理事国が一斉に拒否権を行使した。


 場所が決まらない。

 面倒くさいので僕は挙手して主張した。


「そもそも、魔央がわざわざ付き合うというのだから、近い場所で開催するのが当然ではないでしょうか?」


 破壊神たる魔央のための儀式である。

 恐れる人間共に決定権などない。

 決定権をもつのは魔央なのだ。


「とはいえ、東京でやると不公平かもしれないというのは分かります。ですので、ここにしましょう」


 と、僕が提示したのは魔央の故郷でもある土居中県どいなかけん彼方郡かなたぐん最果村さいはてむらだ。

 ここは人里から離れた古き良き? 呪術と霊魂漂う村だ。


「ここ以外の場所でやる人達のみ、来てもらえば結構です」


 と宣言すると、さすがに全員が折れた。


 それで終わりではない。今度はどうやってエビフライカレーを作るか、どういう順番で提供するかを巡って争い始めた。

「調理人のアルファベット順ではないか?」

「いや、国連への寄付金が多いところに優先権がある」


 これまた収拾がつきそうにない。

 しかし、これはどちらが有利なのだろう。


 順番を後にすれば、相手の出方を伺えるという点では有利だ。

 しかし、食べる魔央の側からすると、後から食べるものには満腹感があり、味が分からないのではないだろうか。


『その点に関しては心配ないわ。魔央ちゃんは好きなものは別腹だから』


 確かに、魔央はエビフライカレーやハンバーグカレーに関してはいつも完食しているか。


『というより、全員一斉に作って、一気に提供して食べたいものから食べてもらえば良いんじゃないの?』


 それだ。

 もう食材についても良い物を奪い合うのではなく、最果村にキッチンスタジアムを作り、同じエビやスパイス、米を用意すればいいのではないか?

 そして僕がパプリカを丸かじりしてニヤッと笑った後、「アレ、キュイジーヌ!」と叫んでみんなに作らせることにしよう。


 この方法を提案したところ、全会一致で可決された。

 一部の国家がヒソヒソと「まだ存命の鉄人に頼んだ方が良いのではないか?」とささやいているのが聞こえ出した。

 確かに鉄人はこのスタイルに慣れているから有利かもしれない。


 しかし、今度は並べ方で揉め始めた。中央に置いてあるのが有利だということでポジションを争いだす。

 いい加減にしろよ。


 かくして、この日の国連は他の議題をそっちのけでエビフライカレー大会の規則づくりに終始した。


 もっとも、破壊神の動向に関わることだから、他の国も紛争している余裕はない。

 ここ数日、各地の軍事行動は小さくなっているらしいから、悪いことばかりではないのかもしれない。

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