第6話 宣伝ビデオがやってきた
その後、雑談などをしつつ、ご飯を食べた後、山田さんと別れて部屋に戻ってきた。
ひとまず、昼ごはんを食べて浚われた女の子達も解放されそうな様子なので良かった。今後事件になるかどうかは分からないけど、物理攻撃が効かない山田狂恋を怒らせても何もいいことはないから警察も事件にはしないだろう。
「むっ?」
部屋の入り口に、カーネルサンダースみたいなイケオジ? がいた。スーツは黒だけど。
「お待ちしておりましたぞ! とうっ!」
彼は突然飛び上がり、自転車の後部バックから二つの商品を取り出して、空中で大きく一回転をし、スピンをかけて魔央の前に降り立つ。
「黒冥様、配達物でございます」
魔央に二つの商品、ブルーレイディスクを差し出した。
この男は、ワーバー一筋40年、凄腕中の凄腕と言われる
彼が運ぶ商品は全て考えられる限り最短時間で到着するという。
ゆえに、日本の頂点に君臨する者しか彼に頼むことはできなかったと言われる。
つまり、皇室御用達である以外だと
しかし、今の日本に待たせてはいけない者は存在しない。
もっとも待たせてはならない者、それは当然、破壊神たる黒冥魔央だ。彼女に余分な待ち時間を与えてイライラさせてはいけない。だからここ数か月は魔央の食事を運んでいる。
「私、何か注文していましたっけ?」
しかし、今日の魔央は外で食べたから、ワーバーを頼む必要性はない。
「ハハッ、今日は黒冥様宛ての配送物を持ってきました」
「配送物?」
魔央がブレーレイディスクを見比べる。
片方の差出人はアメリカ大統領ジョーク・ブイデンだ。もう一方は中国国家主席の周遠平だ。揃って「超最速配達」の札が貼られてある。
対立する超大国同士が揃って超最速で運ばなければならなくなった結果、世界最速ワーバーの吉利さんが両方持ってくることになったらしい。
まさに呉越同舟ということか。
「ちなみに何を送ってきたの?」
世界を代表する超大国とはいえ、破壊神は恐ろしい。というより、世界を代表するくらい強いから尚の事破壊神が恐ろしいとも言える。
魔央はいかにも破壊神らしく、包み紙を破って開封した。物腰は低いのだが、根底は破壊神である。物には荒い。
「……『世界で最も偉大な珠玉のエビフライカレー』の制作過程を収めたビデオらしいです」
「なるほど、来るべき対戦に備えて、あらかじめビデオを見せて優位に立とうということか。とすると、中国からのものも?」
予想通り、こちらには「中国四千年、伝統ある美食が奏でるエビフライカレー」とある。
配達時期も同じならば、考えることも一緒ということか。
『まあ、今日日、両国の政策は似たようなAIが打ち立てているのだし』
千瑛ちゃんが冷然と言う。
ひょっとしたら、レシピまで一緒なんていうことはないだろうか。
『それはさすがにないでしょ。両国の調理師は発想その他が全く違うわ。もっとも、アメリカ人に作らせたら負けが確実だから、フランス人を立てているけど』
アメリカ、可哀相に。
ともあれ、プロモーションビデオを見ることにしよう。
まずはアメリカからだ。
出て来たのはいかにもアメリカ人が好きそうで、日本人は引きそうなマッチョなアニメキャラクターだ。世界の平和を目指して、最高のエビを釣り上げると、悪の組織をキックで倒しながら釣りをしている。
そうすると、おぉぉ、5メートルもある巨大なエビを釣り上げたぞ。場面が変わって、これを西洋風シェフが見事な包丁さばきで刻んでゆく。更に場面が変わって、シンプルに煮込み続けているカレー鍋の中に映るカレールーだ。
「最初のスーパーマン、何のためにいたのでしょうか?」
魔央が痛烈なツッコミを入れてきた。
正直、僕にも分からないよ。
続いて、中国版だ。
こちらは中国風のシェフが、何故か嵐の中、必死に崖を登っている。登り切ったところに光り輝くエビがあり、それを持つと一気に崖を飛び降りた。次の場面で、何故か滝に打たれて瞑想している。良い発想が思いついたのか、調理場に駆け込み、ものすごい勢いでカレーを作り始めた。
「何で崖の上にエビがいるんでしょう?」
「市場がそこにしかないんじゃない?」
総じて、よく分からんプロモーションだった。
世界の動向はまだ予断を許さない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます