第5話 A.O.Hの正体

「A.O.H。すなわち、Anti Oxygen Humanよ」

「アンチ・オキシゲン・ヒューマン?  酸素無しの人類達というわけ?」

「そうらしいわ。最近、途上国を中心に彼らの活動が増えているわ。例えばオセアニアにある近々沈没すると言われている国とか」


 なるほど、陸地が沈むということは空気がないと生きていけない人間には辛い。酸素がない方が良い人間にとっては良いということなのだろうか。

 いや、水没すると生活そのものに支障を来すような気もするのだけど。


「そういう理解で良いの? 千瑛ちゃん?」

『一般的な人類は大気中の酸素が16パーセントを切ると活動能力が一気に低下すると言われているわ。だけど、A.O.Hは逆に16パーセントを超えると低下していくから、人類とは相反するわね。日常生活のどこかで酸素を断つ必要があるのよ』


 うーむ、ダーウィンは種の選択において変化に適応できる種が生き残ったと言っている。

 人類の中にも酸素が多い方が良い人間とか、酸素が少ない方が良い人間とかがいて、将来的に酸素が少ない世界が来たりすると、A.O.Hのような人間が良いのだろうか。

 しかし、彼らが組織を組むとなると問題だなぁ。


 環境問題への提唱なんかは、人類が基本的に共通しているという認識に立っている。環境を守れに対するアンチテーゼは大体が「利益や生活がどうなっても良いのか?」である。

 しかし、中には「環境破壊してくれた方が、自分達の種には良くなる」という面々がいるのかもしれない。そうなると非常に危ういなぁ。


『そういうこと。人類の中で疑心暗鬼が生まれるわ。この先、もう少し温暖化が進むことでジェノサイドが起こる可能性もあるのよ』


 やばい。環境問題が「異なる人種間戦争」という方に捻じ曲げられる恐れもあるのか。それは大変だ。

 でも、ここにしれっとA.O.Hの要請を受けて魔央の食生活をチェックしているなんていう人がいるんですけれど……


「……山田さんはA.O.Hじゃないよね?」

「私に必要なのは時方君だけ。窒素も酸素も関係ないわ」

 それはそれで怖いんだけど……

「僕がいない場所では、酸素があった方がいいんだよね?」

「もちろんよ」

「だけど、A.O.Hの依頼を受けたのはどうしてなの?」


 山田狂恋ほどの世界的テロリストが引き受ける以上、何かとんでもない理由があるのだろうか?


「特にないわよ。私はもう少し楽な仕事が良いのだけど、非就業者が増えたせいでそういう仕事は他所に取られがちになったからね」

「非就業者ねぇ……」


 確かに、客観的に見れば、正規の仕事をしない人間が増えれば、その分犯罪のプロフェッショナルが増えるということなのかもしれない。


「最近は殺人も二次請け、三次請けとかやったりする世界よ。それで全員逮捕されているなんて、ヤクザもビックリだわ」

「悲しいね……」

「高額な案件は最大手のバルゴ14が持っていくから、二番手以降はどうしても辛いのよ」


 確かに、価格破壊が起きた際に、業界トップや二番手なんかはイノベーションを起こしてやろうという気概を持つらしいけど、中堅どころなんかはそんな意欲もないからどんどん楽して稼ごうとしてコストカットやら賃金カットに頭が行くらしい。

 とはいえ、山田狂恋ほどの者がそうなると、かなり暗い世の中にしかならない。


 いや、彼女がイノベーション起こそうとしている世の中なら明るい世の中、ということでもないけどね!

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