第4話 情報を知りたがるもの

 エビフライカレーがやってきた。

「いただきま~す」

 と魔央はスプーンを手に取り、一口すくって口に運ぶ。

「美味しいです~♪」

 ご満悦のようだ。


 僕と山田狂恋の注文はカツレツだ。

 何故かエビフライにこだわる店にはカツレツも多いような気がする。

「そういえば、この次に何か依頼を受けているの?」

 世界最高クラスの工作員……というか物理攻撃で死なないから最強の工作員といっていい山田狂恋だ。その動向に世界が注目するだろうし、彼女がどちらかの陣営についてエビフライカレーに関与してくるかもしれない。

「何も受けていないわよ。誰か消してほしい人でもいるの?」

「いや、いないよ……」

 僕が何か依頼したいと勘違いしたらしい。


「確かに依頼は殺到しているわね。バルゴ14とかマンバを消してくれとか」

「マンバってSFの工作員じゃないの?」

「知らないわ。とにかく、彼らも今回の件では動いているようね。そもそも」

 山田狂恋は魔央をチラッと見た。

「両陣営のエビフライカレーで魔央さんを納得させられるのかしら?」


 言われてみれば、そういう盲点はある。

 魔央の好みは基本的にキッズだ。カレーもあまり辛くない、むしろ甘い部類の方が好きそうだし、エビも見た目はともかく味的にはちょっと細めのプリッとした感じの方が好きそうだ。

 インド料理の粋を極めた人間がカレーを作ったら、それは多分美味しいのだろうが、魔央の舌に合うかはまた別問題である。


「案外、時方君が作るエビフライカレーが一番魔央さんには合うかもしれないわよ」

「僕が作るカレーが?」

 それはさすがにないんじゃないかなぁ。

 僕がカレーを作るとなると、スーパーで水に溶かせばできるようなカレー粉を買ってきて、ただ煮込むだけになってしまう。

 エビフライを美味しく揚げる技術も持ち合わせていないし。

「そんな悠長な構えでいると、エビフライカレーを美味しく作るライバルキャラに寝取られるかもしれないわよ」

「そんな無謀なライバルキャラがいるとは思えないけど、工作員ならいるかもしれないね」


 その時、ふと思いつくことがあった。

「山田さん、もしかして僕に嘘をついていない?」

「どうして私が時方君に嘘をつくというの?」

「いや、ひょっとしたら、しばらく魔央の食生活を調べているんじゃないかと?」

 僕達の住処のすぐ近くで女子生徒達を監禁して自己批判を強要させていれば、僕が止めに来るのは誰にだって分かるところだ。そのノリで何となくくっついて、魔央の好みを教えようとしていたのではないか?

「……いつのまにそんなに鋭くなったのかしら? 侮れないわね」

 やっぱり……


「アメリカから頼まれていたの? それとも中国?」

「どちらでもないわ。第三勢力よ」

「あぁ、インドか……」

 元々、この話を持ってきたのはインドの聖者ナーンナンダー・コノハナシワーだったからね。彼の依頼を受けていたわけか。

「違うわ」

「あれ、ということはワリドアラビアあたり?」

「まさか」

「……ということはどこなの?」

「A.O.Hよ」

「A.O.H?」

 また変な組織が出てきたのか?

「組織というより、人類の次に地球を支配する者達と言っていいかしらね?」

 予想以上に斜め上な答えがかえってきた。

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