第3話 エビフライカレーを食べに行こう

 1は僕の人生が恒久的に終結することを意味する。


 しかし、2を選ぶと僕の人生が今すぐ終結するかもしれない。


 となると、3しかない。


「や、山田さん、美味しいエビフライカレーでも食べに行こうよ。今、世界で一番ホットなキーワードだし」


 間違ってはいないはずだ。


 世界の覇権を狙わんとする国がエビフライカレーを競っているというのだから。



 しかし、さすがに山田狂恋。


 バルゴ14と並ぶ世界的テロリストだ。


「いくら時方君の頼みといえども、それはお断りするわ。私はエビフライカレーが好きではないの」


 安易には乗ってこない。


「そうか、じゃあ仕方ない。川神先輩でも誘って魔央と3人で食べるとするか」


 僕が言うと、彼女はピクリと反応した。


「ワインと共に食べるカレーも意外とオツだったりするんだけどなぁ」

「……貴女」


 山田狂恋は部下らしい工作員の女性を呼んだ。


「この面々に自己批判をさせておきなさい」


 と、指示を出して出かける準備をはじめた。


 どうやら、エビフライカレーで誘い出す作戦は成功したようだ。


 自己批判をさせること自体は続くようだけど、山田の部下であるヒル・フリーザーは人が良いらしいから多分酷いことはしないだろう。



 ということで、山田狂恋を連れ出して3人でカレー店へと向かう。


 その間は雑談に興じることになるのだけど。


「……世界の強国とその工作員達が軒並み3か所(インド洋周辺、スパイス諸島周辺、日本のコメどころ)に集まっているから、他の隠密組織が行動を活発しているようね」


 世界的テロリストがいるから、まともな会話などは期待できない。


「ジャーブルソンとかアル・ナスィアルとか?」

「その辺の有名どころは覇権国に合わせて行動をしているわね。例えばミニマムQとか」

「ミニマムQ?」


 初耳の組織だ。


「人類を精密機械に喩えるような面々よ」


 どういうこと?


「携帯電話やパソコンといった電子機器は技術が進めば進むほど小型化するでしょ。それと同じで人類も進化すればするほど小型化するはずだから、大型の人間から優先して抹殺していくべきという組織なのよ」

「お、おぉぉ」


 小型化すべきだし、資源が不足していく未来を考えれば、人類自体が小型化して少ない資源で生き残れるように体質改善すべきなのだという。


 理屈として全く分からないわけではないけれども、またトンデモな組織が出てきたわけだなぁ。



『確かに行動を活発化させているわね』


 千瑛ちゃんからも返事がある。


『目標としては、3世代後の平均身長120センチ、体重30キロらしいわ』

「そこまで行くと既にホモ・サピエンスじゃない種別になっているよ」



 というか、どうやったら三世代でそこまで小さくなるんだ?


 遺伝子情報とか改ざんするつもりなんじゃないか?


 ……って、やりようによってはできるかもしれないのが恐ろしい。



 山田狂恋が話を続ける。


「だから私のところにも彼らからの仕事の依頼が複数舞い込んできているわ。バスケットチームを丸々ぶっつぶしてくれ、とか」

「や、やらないよね?」

「報酬と内容によるわね」


 そうだ、この人はそういう人だった。



「あ、ここのカレーは美味しいんですよ」


 暗澹となりそうな雰囲気を魔央の言葉が振り払ってくれた。


 ここのカレーは美味しいと言っても、そこは昔ながらのファミレスである。


 僕も(作者も)正直、よく知らないのだけど、昭和の一時代、エビフライが随分と高かった時代があったようで、今でもエビフライがステーキと同じくらいの値段をつけている店がある。


 そんな古風なレストランがここだ。


 エビフライカレーが3000円、高い。


 しかし、古代の人間達はいるかいないか分からない神様の怒りを鎮めるために、自分達の大切な子供すら差し出してきたという歴史がある。


 そこからすれば、たかだか3000円のエビフライカレーで、真の破壊神が満足するのだ。


 安いものだろう。

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