Chapter4 A.O.Hがやってくる
①エビフライカレーを巡って
第1話 エビフライ戦争と自己批判
ドタバタの中東での騒動が終わり、僕達は日本に戻ってきた。
『ニュースです。本日、東欧と中東で和平が成立しました』
ニュースを見ると、中東や東欧で大規模な和平が成立したらしい。
「良いことですね」
魔央の言う通り、争うよりは仲良くした方が良い。
ただ、千瑛ちゃんが言うには。
『これからの二か月、世界中の陣営は威信をかけて最高のエビフライカレーを作らなければならないわ。当然ながら中東や東欧で争っているようなヒマはないわけよ。インド洋で珠玉のエビの奪い合いをしなければいけないのだからね……』
何ということだ。
確かに少し前に、「三か月後、美味しいエビフライカレーを出してくれれば協力をする」とインドの聖人ナーンナンダー・コノハナシワーと約束をした。
だから、世界中の陣営が、他のつまらない戦いをとりやめて、最高のエビ、米、香辛料を巡って争いを始めるというわけか。
『世界中の工作員が北海道、インド洋、スパイスの産地に集まっているというわけね。1人を除いて』
「1人を除いて?」
千瑛ちゃんが別のニュースを見せてきた。
「……この1か月で行方不明になっている女子高生、中学生が14人?」
穏やかではない話だ。
場所も日本全国に散っている。
連続殺人事件などは大体ある地域に限定されることが多い。こうも散らばっているということは、ネットなどを利用した集合型犯罪だろうか?
『その通りよ。で、ニュースでは明らかにされていないけれど、彼女達はあるキーワードに群がっていたことが分かっているわ』
さすがは千瑛ちゃん、最強AIだけのことはある。そうした情報もゲットしている。
その情報が、先程言っていた1人の工作員にあてはまるということなのだろうな。
「どんなキーワード?」
『時方悠よ』
……。
魔央がチラッとこちらを見た。
「……ごめん、今、何て?」
「キーワードは悠ちゃんよ。彼女達は悠ちゃんに興味を持っていたみたいなの」
「ど、どういうことなの?」
僕は慌てた。
何故、僕が見ず知らずの女の子達に関心をもたれるのだろうか。
原因は、国連総会での演説だったらしい。
僕が割とカッコよく? 演説したことで、一部には「時方悠っていいんじゃない?」という声があがっていたという。
「……ということは、彼女達の失踪にはMAO王国に絡んだ陰謀があるの?」
エビフライカレーとは異なるところで活動する工作員が、僕に興味をもつ少女をさらっていたということだろうか。
『そこまで大層なことではないわ。物事を大袈裟に捉えるのは良くないわよ、悠ちゃん』
「どういうことなの?」
『山田狂恋が動いただけよ』
「山田さんが?」
なるほど……。
山田さんは、勝手に僕との婚姻届を抱えているほど、僕との関係について妄想を有している。
そんな彼女にとって、僕のファンは厄介な存在ということか。
『そういうことよ。さらわれた少女たちは山田狂恋の抱える収容所で再教育され、徹底的な自己批判をするまで許されないわ』
何、その物騒な言葉は……
「悠さんのせいで、MAO王国の人が日本の女の子をさらっているのは良くないんじゃないでしょうか?」
「魔央、悠さんのせいって、僕のせいじゃないから」
『何を言っているの。悠ちゃんのせいでしょ。悠ちゃんのファンなんかなったがために、彼女達は自己批判を迫られているのよ』
千瑛ちゃんにまで怒られたけど、物凄く理不尽な気がするんだけど……
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