第7話 まだカードはあった
紆余曲折はあったが、向こう数年の間に金に物を言わせるスポーツ世界は滅ぶだろうということは分かった。
これから先は命を捨てるという覚悟に聖なる力が支配していくのだ。
まあ、これらもそのうち金に換価されることになるのだろうけれど、従来のスポーツは間違いなく滅びる。
だから、僕はアル・ナスィアルに強気に出られそうだ。
そう思ったのだが、世の中はそれほど甘くなかった。
ドバイのホテルに滞在していると、突然国際電話が鳴った。
相手は、節制の使徒・堂仏都香恵だ。
『大変だよ、時方悠』
「どうしたの? 君がいきなり大変だ、なんて言い出すなんて?」
本当に滅多にないことだ。
野生動物を使いこなすという、常識を遥かに超えた存在である堂仏はそれ自体が大変どころか大異常な存在だ。
多少の天変地異も、「おまえには言われたくないよ」と反論するだろう。それくらい堂仏は異常な存在である。
『ちょっと動画を送るから見てちょうだい』
説明が難しいようで、動画を送るようだ。
早速送られた動画を見た。
「こ、これは!」
それは驚くべき光景だった。
変形トレッドミルの上をダックスフントが走っていて、その隣でコントローラを持って飼い主らしい女性が「はい! ジャンプ!」と叫ぶとダックスフントが飛び上がる。それに応じて、モニターの主人公キャラも飛び上がって危険を回避した。
『ワリドアラビアの企業が、飼い主とペットが融合できるゲームを開発したんだ。日本からは既に予約が殺到しているって』
飼い主とペットが共同作業をするというゲームだと?
確かに世界の先進国では少子化が進んでいる。子供のいない家庭ではペットを飼うことも多いし、子供のためにもペットを飼うことは良い。
親子で何かをするのが楽しいのと同様、ペットと何かを共同作業できれば楽しいに決まっている。しかし、それは中々難しい。コミュニケーションが取れないからだ。
そんな中でペットと共にプレーするゲームとは……
明天堂もビックリな商品を出してくるようだ。
『元々中東は日本のゲームコンテンツにも多大な興味を有していて、買収された企業も存在するわ』
千瑛ちゃんの言葉を待つまでもない。
スポーツ、アイドルだけでなくゲームも重要なエンタメ産業だ。
そこにも侵入してこようというわけか。
「ゲームで対抗措置はない?」
『完全にハッキングしてしまえばOKだけど、かなりお金がかかるし、全面戦争になってしまう可能性があるわね』
「確かにワリドアラビアほどの資金力があれば、サーバーにもセキュリティにも物凄いお金をかけていそうだね」
対抗するにはあまりにリスクが大きい。
それに落ち着いて考えてみると、人間とペットが楽しくプレーできるのなら、それは悪いことではない。スポーツやエンタメで敵対するからといって、ゲーム産業まで潰す必要はないんじゃないかな。
『ただ、ペットへの愛は手段を問わないわ。出す人はとことんまで出す。課金メニュー如何によっては、とてつもない資金源になるわね』
「止めた方がいいのかな?」
MAO王国は世界最強アイドル天見優依を有している。だからアイドル系の問題について僕達が悩む必要はない。優依に頼めば済むからだ。
スポーツの問題も自分達が最強カードを持つだろうことが分かった今、焦る必要はない。
だけどゲームとペットはどうだろう? 僕達はカードがないのではないか?
その状況では、ペット好きの人達の幸せを阻むことは難しいし、ひとまず好きにさせるしかないんじゃないか?
『考えてみて頂戴。動物のことを人間より愛している節制(堂仏都香恵)が悠ちゃんに相談に来たということを』
なるほど。
確かに堂仏都香恵は人間社会より動物のことを愛している。
動物が満足しているなら、人間がどれだけ悲惨な目に遭っても、堂仏は動かない。
その彼女が、動物のことについて僕に注意喚起をしてきた。
ということは、動物にとって、良くないことが起こると見て良いのだろう。それは由々しき問題だ。
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