第6話 新リーグは子供の模範?
「でも、千瑛さん」
魔央が何かに気づいたようだ。
「さっきのスポーツの話に戻りますけど、ドーピングし放題になると、依存症の問題や、青少年への薬物汚染が深刻になるのではないでしょうか?」
おお! 魔央、いいところに気が付いた。
確かにグラウンドレベルでは川神先輩や、川神財閥のシスター達が最悪死んでも治してくれるだろう。
しかし、そうした選手に憧れる青少年たちはどうなるのか。
彼らが「あんな選手のようになりたい」と3倍ドーピング、4倍ドーピングをやりだしたら世界は大変なことになる。
薬物汚染は恐ろしい。
日本では大学スポーツ界で薬物使用者が続々と摘発されている。
アメリカでは違法薬物はもちろん、ステロイドの使用も広がっているという。
これを推奨しかねない行為だ。□シアとアメリカは敵対しているから問題ないのかもしれないけど、中立国でも薬物の問題が出て来る。
『薬物問題は、解決させる気がないだけよ。本気になればすぐにできるのよ』
「と言うと?」
『これよ』
千瑛ちゃんがまたモニターを映し出した。
そこには青い錠剤が置かれている。
『毒をもって毒を制するという言葉があるけれど、薬物をもって薬物を制する、ということね』
「意味が分からないよ」
『考えてもらえる? どうして、人は薬物に依存するのかしら?』
「どうしてって……」
『いわゆる、脳内の快楽物質……例えばドーパミンなんかを大量に放出するからよ。一年間努力して頑張った結果よりも、覚せい剤を打つ方がドーパミンの放出量が多いと聞くわ。だから、人は薬物から抜け出せないのよ』
「ふむふむ」
『この青い錠剤はそれを一変させるの。一言で言うと、平常時のドーパミン放出で苦痛を感じるようになるのよ』
おお、確かにプロモ映像では薬物を打っている男が、鼻をおさえて苦しみだしたぞ。のたうち回っている。
『彼は今、ものすごい悪臭を感じているわ。もちろん、実際の臭いがあるわけではないの。脳がそういう刺激を出しているのよ』
なるほど、薬物が罰になってしまうわけか。
これは効果てきめんだ。彼はその瞬間に、薬物を完全に断ち切り、密売人を警察に密告しはじめた。
「これは一体?」
薬物で苦痛を感じるようになったから、売人に憎悪して、警察に売ってしまったのだろうか?
『今度は、他人から感謝されることで快楽物質的なものを得ることができるのよ。つまり、この薬は廃人を一夜にしてボランティアに変えるわけね』
何という極端な薬なのだ。
『これがあれば、誰も売人になんかなりたいと思わないわ。薬物ビジネスは崩壊よ』
確かになぁ。
相手が依存症から簡単に脱することができるなら、金にならない。しかも、感謝目当てに密告してくるかもしれないとなると、リスクばかり増える。
これはもう薬なんか売らない方がいいだろうな。
でも、ステロイド的な部分はどうなるんだ?
アンリミテッドリーグの強い選手を見て、危険を承知でドーピングをする人間に関しては依存とは関係ないのでは?
依存は解決しても、危険は解決しないのではないか?
『確実ではないけど、この薬はそうした面でも効果があるわ。結局のところ、ステロイド的な効用を求めるのも、そこから得るものを期待して楽しい思いを得る。つまりはドーパミンを得ることなのよ』
「なるほど……、ということはそういう人達がドーピングをする際にも苦痛を感じるわけなのか」
『大抵の人については、ね。ただ、中には確信犯的に、あるいは義務感的に使い続ける者が出るかもしれないわ。例えば、自分は神に選ばれて、世界のスポーツ界を変えるために生まれたのだと思い込んでいるような人は快楽ではなく、義務のためにステロイドを使っているのだから、こういう人には効果がないわね』
いや、ちょっと待て。
スポーツ界を変えるために薬物を使い続けるっておかしくない?
『ま、とにかく、世界が変貌を遂げるために、最低限の犠牲は仕方のないことよ』
最終的には悪の大ボスみたいな結論を出されてしまった。
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