第5話 グーチンとジャーブルソン
何でもありのアンリミテッド・スポーツが物凄いということは分かった。
これを打ち出せば、確かに今の常識的なスポーツの概念を打ち破るだろう。
『ところでミス・チエ。私にジャーブルソンの状況について教えてもらえないだろうか?』
グーチン大統領が千瑛ちゃんにジャーブルソンのことを聞き出したぞ。
□シアとしてみると、北欧は近い。
脅威ということなのだろうか。
ジャーブルソンもテクノロジーで何でもありの連中だから、そういう意味ではアンリミテッド・スポーツとの相性は良いように思える。
ただ、おそらくそういうことではないのだろう。
『ジャーブルソンの全容を掴むのは私でも難しいわ。彼らは自分達でしか使わない特別なネット網を持っているものね』
『私が……ではなく、□シアが気にしているのは、彼らは神の摂理を無視しすぎているのではないかということだ』
……おまえが言うな感もあるけれど、確かに神の摂理を無視しているのは間違いない。
『確かにジャーブルソンの考え方をスウェーデンやフィンランドが受け入れたら、大統領にとっては大変なことになるでしょうね。ならば』
ならば?
『□シアも同じことをすれば良いだけよ』
あ、グーチンが頭をテーブルにぶつけてしまった。
『そんなことをしたら、私は本気で□シア市民に殺されてしまう。□シアにおいて、信仰の持つ意味合いはとても大きいのだ』
そうなんだ。
まあ、地味にロシア正教の影響は強いみたいだものね。
しかし、スウェーデンやフィンランドは福祉も盛んで学力も高いという評判だけど、国力や人口自体に限界がある。単独では□シアの脅威にはならないはずだけど、グーチンがここまで恐れるのはどういう理由があるのだろうか?
『以前に私が説明したところと重なるけれど、ジャーブルソンは完全なる新世界の秩序を作り上げたのよ』
「完全なる新世界の秩序!?」
『あ、とりあえず大統領はわざわざありがとう。また近いうちに連絡するわ』
『ダスビダーニャ、ミス・チエ』
大統領とのモニター連絡は途絶えた。
『さて、ジャーブルソンの新世界秩序だけど、これは中々のものよ。まず、全ての男は薬物によって科学去勢をされてしまうのよ』
「全ての男を科学去勢?」
『以前にも言ったでしょ? これからの世界に男女自体が無用だって。体外受精すらいらなくなる時代には、全く苦労せずに人を増やせるの』
「な、なるほど……」
それならスウェーデンやフィンランドもたちまち人口が増えるな。人口くらいしか勝ってない□シアが危機感を覚えるのは仕方ない。
『そうした時代にはセックスそのものが無駄なのよ。放置しておいて犯罪に走られても困るから、全員科学去勢するわけよ。そのうえで完全なる同意、すなわち裁判所による同意判決を貰った時のみ、解除をするわけよ』
何ということだ。
性行為の同意云々が言われるようになって数年、ついに男女の性行為は同意判決をもって行われるようになってしまうのか。
『何度も言うけど、そもそもいらない行為だもの』
「でも、人類は少なくとも数万年はそれで生き延びてきたんだけど……」
『人類は変わるのよ。新しい時代には古い概念は不要だわ。ただ、ある種の幻想やら芸術に昇華されることもあるから、完全に否定するわけにもいかないわね。それ以外の人類は種の存続を本能から除外して、その時間を自己進化にあてるのよ。スウェーデンやフィンランドがこうなったら、□シアは次の世代には圧倒されるでしょうね』
かくして少子化社会やらLGBTといった現代の問題は科学技術と新しい概念によって乗り越えられる。
人は生きたいように生き、他人からあれこれ言われなくなる。
人類万歳。
……ということで、良いのだろうか?
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