第5話 世界のための損得勘定

 堂仏都香恵は柴山柴郎のポスターを大量に置いて、ヤスオに乗ったまま帰って行った。



 魔央が起きてくるのを待つ間、僕はニュースを見ることにした。


 テレビでも、都知事選に柴山柴郎が立候補したことが触れられている。


『柴山柴郎氏は府中市出身の柴犬で五歳。徘徊老人を救出したことから社会問題に興味をもち、昨年、日本国籍を取得して、今回の出馬表明となりました』


 どうやら、柴山氏が立候補することは何の問題もないこととして思われているらしい。


 裸の王様を見ても、皆が何も言えない、そういう状況なのかもしれない。



 クロス(旧称:シイッター)を見ても、概ね好意的だ。


「話題性目当てだ」という批判もないことはないけど、柴山柴郎の具体的な公約が掲載されているから、タレントが立候補するよりはマシと思われているらしい。


 続いて、映像は東京都庁内での大池千賀子都知事へのインタビューに変わった。


『都知事、柴山氏が立候補を表明いたしましたが?』

『犬が東京都政を預かるなどあってはなりません。排除いたします』



 おおぉっ!?


 都知事、これはちょっと言い過ぎではないだろうか?


 シイッターが発言を受けて荒れ始めてきている。



 確かに意図的に敵を作って身内の結束を図るというのは一つの作戦だ。


 ただ、柴山柴郎は全国の犬好きの期待を一身に集めそうな存在だ。野党第一党とは比較にならない支持率のはずだ。


 都知事は敵の大きさを見誤っているのではないだろうか?




 しばらくシイッターを眺めていると、魔央が起きてきた。


「おはようございますぅ、悠さん」

「おはよう」

「さっき、何か物音がしましたけど、何かありましたか?」

「朝から堂仏さんが来ていてね。柴山柴郎のポスターを置いていった」

「……柴山? 『ワンだふるな都政を』? 何ですか、これは」


 魔央の言うことは全くもっともだ。柴犬がキラキラした目を輝かせている横に、

「ワンだふるな都政を」なんていきなり見ても分かるはずがない。いや、隅には小さく彼の提示していた5つの公約が掲載されてはいるけれど、ね。



 僕は、いつの間にか日本では柴犬が日本国籍を取れるようになったこと、更に柴犬の柴山柴郎が東京都知事に立候補し、大池都知事も神経をとがらせていることを説明した。



 魔央はしばらくぽかんとした様子で聞いていたが、小さく頷いた。


「……そうなんですね。びっくりしましたが、ジャーブルソンや魔道士が本格的に活動をするとなると、動物さん達が協力してくれる方が良さそうですね」

「なるほど。確かに」


 ジャーブルソンには先端技術がある。


 どういう形で使ってくるかは分からないけれど、例えばネットインフラを破壊してくる可能性は否定できない。


 千瑛ちゃんには彼らに対抗する力があるけれど、彼女には「世界のために頑張る」なんて発想はないから、「私達が平気なら、他人は別にどうでもいいんじゃない?」と放置する可能性が高い。


 そうなると、ネットインフラが破壊されて、人間は何もできなくなってしまう可能性がある。そんな時には動物達の方が頼りになるかもしれない。


 つまり、動物層に影響の強い柴山柴郎が都知事になった方がいいということだ。



「魔道士さんも魔法が使える以外は、基本的にはダメな人達ですから、動物に偵察されたら全く気付かないでしょうからね」

「……あまり魔道士を悪く言うと可哀相だよ」


 世界魔道士協会という組織の活動は認められないけれど、魔道士の中には単純に報われなくてDT・SJでいる人達だっているかもしれないのだし。


「でも、魔道士教会の会長さんと副会長さんには絶対近寄りたくないです」


 破壊神にここまで嫌悪感を示される人間、何という存在だ。


 でも、確かにあの二人は人間としての慎みとかそういうものを全部放棄してしまっていたからな。あの二人には容赦する必要はないだろう。




 いずれにしても、柴山柴郎が都知事になった方が世界にとっては得なのか。



 となると、選挙応援のため、あの二人に協力を求めるべきなのだろうか?

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