第4話 応援すべきか、せざるべきか
堂仏都香恵が連れてきた柴犬・柴山柴郎は、東京都の抜本的な改革を訴える。
『空き家問題は、僕達のような犬、猫が住むことで容易に解決します』
むむ。空き家の最大の問題は手入れをする者がいなくなることで犯罪の温床となることにある。
犬や猫だと家賃が入らない問題はあるけれども、犯罪抑止という点なら効果はあるだろう。
『犬や猫に警察官としての権限を与えれば、彼らはより活躍します。治安が良くなります』
これもそうかもしれない。
昨今のチンピラじみた犯罪者は人間には威張り散らかすかもしれないけど、シェパードやひっかいてくる猫にはビビるはずだ。
『空き家に犬や猫を集めて、周辺に配らせれば、配送負担も軽減します』
これもその通りかもしれない。煩雑な再配達も、地域の犬と猫が管理するのならば、苦にならないだろう。というか、本人が取りに来いという話だ。
『当然、高齢化の孤立や見廻についても僕達が解決できます』
地域のペットが共同体を組むのならば、老人が気兼ねなくペットを飼えるから寂しさも解消される。
しかし、地域の電線を地下敷設するのは犬と猫には無理なのでは?
『都内のモグラに活動してもらえば、すぐ解決します。彼らは安全に小さく電線用の穴を掘れます。地価工事に建設業者などいりません』
何ということだ。
本当に解決するじゃないか。
『日本人はもう少し、日本の動物達に頼るべきです』
むむう、そうかもしれない。
そういう観点からは、国籍法や公職選挙法を書き換えたのは、日本の政治家たちのナイスアイデアかもしれない。
『そんなわけないでしょ』
千瑛ちゃんが呆れたような声をあげる。
『一か月前に、私が記録や法制度を全部塗り替えたのよ』
「塗り替えた?」
『そうよ。国会のやりとりから省庁の議事録、新聞の記録まで全部塗り替えておいたわ。あと柴山柴郎の国籍の件もね』
恐るべき幽霊兼AI。
記録を塗り替えるなんてとんでもないことをさらっとやってのけたらしい。
「いや、そんなのおかしいよ。勝手に塗り替えたらおかしいと思う人がいるでしょ?」
『いるわけないわよ。国会議員に聞いてみなさい。「一年前のこの使途不明金のことを覚えていますか?」って。みんな「記憶にございません」と言うに違いないわ。一年前のことを覚えていないのに、二年前の議事のことなんか覚えているはずがないでしょ。そもそも議員は国会で寝ているんだから覚えることすらないわよ』
返す言葉がない。日本中のどの芸人のツッコミよりも厳しい。
実際、毎年かなりの数の法令が改正されたり成立したりしているしね。全部把握している議員なんて一人もいないだろう。
「でも、省庁は気づくでしょ?」
『役人はことなかれ主義よ。気づいたとしても、完全に乗っ取られていたなんて認めたらトップは辞任しなければならないわ。そんなことを素直に認めると思う? あらん限りの力を使って、そんな問題はなかったことにするのよ』
「……千瑛ちゃんの言う通りだとすると、日本の法令って変えたい放題なの?」
『日本だけじゃないわ。世界中の法令が変えたい放題よ。悠ちゃんの身の回りに、どこかの国の法律を全部知っているなんて奇特な人はいる?』
「いないと思うよ」
『知っていないことを管理しているわけだけど、管理している側に謙虚な姿勢はないわ。何を管理しているのか知ろうともせずに、楽しようとばかり考えるの。だから、安いところとか大手に無造作に任せるから、私が塗り替えるのも簡単ね』
その結果として、国籍法とか公職選挙法がさらっと変えられて、犬が立候補しても問題ない世界になってしまったのか。
破壊神がいなくても、世界の危機はすぐそこにある。
改めてこの現代社会が薄氷の上を危うく歩いているのだと痛感させられる。
だけど、過程はどうあれ、柴山柴郎は結構良い政治家になれそうだ。
僕達は協力すべきなのだろうか?
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