Chapter 2 北欧の地下組織

第1話 MAO王国、いきなり宣戦布告される

 国連での演説が終わると、すぐさまジョン・F・ケネディ空港へと向かい、日本の政府専用機で帰国の途につく。



「かっこよかったです! 悠さん!」


「最後の締めは痺れたよ~♪ 今度、私の主演映画にも出ようよ、悠ちゃん」


 魔央と優依、二人に労をねぎらわれながら、疲れ切った僕は座席に横たわっていた。



 と、急に閃くものがある。


「そういえば、世界魔道士協会の記者会見は?」


 僕は飛行機の中を見渡し、千瑛ちゃんの反応を待つ。


 千瑛ちゃんは幽霊兼AIだから、どこにいるのかは分からない。ただ、大抵は僕か優依のそばにいるはずだ。そのあたりの事情も後々話ができれば、とは思う。


『ちょうど今から始まるわ』


 千瑛ちゃんの声がして、機内のモニターが記者会見場に変わった。




 冴えないうえにものすごく肥満している中年男女の姿が座っていた。似合わない眼鏡に吹き出物の凄い顔が一際印象的だ。悪夢に出て来そうである。


 あと、記者会見なんだからビシッとスーツにしてほしいところ、どちらもダボダボのローブ姿である。


『世界魔道士協会会長の宇塚井真帆うづかい まほと副会長の剣持屋大けんもちや だいね』


 二人の名前を教えてくれた。剣持屋って、歌舞伎一家みたいな苗字だな。



 早速、宇塚井が下にある原稿に目を落として読み始める。


『ぶふー、本日、MAO王国の創設が認められたようですが、ぶふー。我々、世界魔道士協会は、ぶふー、この国の存在を決して認めません。ぶふー、かの国の代表時方悠ときかた ゆうのようなリア充極まりない生き方は、魔道士からすると決して認められないものです。ぶふー』



 激しい取り組みが終わった後にインタビューを受けている関取のように頻繁に息切れしながら話をしている。


 もうちょっと痩せた方がいいのではないだろうか?


 あと、僕はリア充じゃないから。


 一見、ハーレムっぽいところにいるけど、魔央以外は全員滅茶苦茶だし、唯一まともな魔央は破壊神なんだから。



『ぶふー、我々はここにMAO王国に宣戦布告をするとともに、同盟国を確保したことを、ぶふー、報告します』



 同盟国!?



 僕も驚いたけど、記者達も同じようだ。


 コミュ障で、30までDT・SJだった世界魔道士協会が、同盟国をゲットしただって?


週刊憤激しゅうかんふんげき四里泰子よんり やすこです。一体、どの国と同盟を締結したのですか?』


『ぶふー、それについては、お答えできません。ぶふー』



 何人かの記者が質問をしたが、宇塚井は回答を拒否している。



 答えるつもりは一切なさそうだ。



 恐らく国ではないだろう。別の違法組織のはずだ。


 しかし、どこだろう。



『ジャーブルソンよ』


 千瑛ちゃんが答えた。


「ジャーブルソン!?」


『そうよ。ジャーブルソンの新しいボス・アンデシュ・ブロットと宇塚井は手を組んだのよ』



 ジャーブルソン。


 北欧・スウェーデンの都市ウプサラにあるという地下組織である。


 スウェーデン語で悪魔を意味する『djävulens』に人名によくある「~の子」を意味する『son』をくっつけたものだ。すなわち悪魔の子だ。



 地下組織と言っても、ジャーブルソンは犯罪組織とは少し違う。


 北欧は教育レベルの高い地域だ。この地域は多くの天才やヲタクを輩出している。


 そして、ジャーブルソンには北欧を中心に多くの天才達が集まっている。


 そんな彼らが何故地下組織なのか? それは彼らの主張による。


 彼らは最先端の科学や技術を使うことに制約を加えるべきではない、という立場だ。


 例えば、不妊治療のための体外受精に制限なんか設けるべきではないし、クローン技術だって構わない。倫理規定など無駄だという立場だ。



 彼らは聖書やクルアーンに、科学理論や数式などを書き込むような連中だ。


 時にそれは爽快ではあるのだが、基本的には厄介極まりない存在だ。



 しかし。



「一体、どういう理由でジャーブルソンと世界魔道士協会は手を組んだんだ?」


 それが分からない。


 世界魔道士協会のような偏屈ものの集団が、誰かと組むということ自体、既におかしい。


 でも、天才集団ジャーブルソンにしても、浮浪者スレスレの魔道士協会となんか組みたくないだろう。



『知りたいの?』



 うわ、千瑛ちゃんは滅茶苦茶思わせぶりな聞き方をしてきた。


 きっと凄く、嫌な理由なんだろうなぁ。




※世界魔道士協会の二人の名前がさっぱりわからんという方は、名前、苗字の順にしてください。

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