第6話 最強の"あぬ"天見優依
飛行機は12時間をかけてニューヨーク・ジョン・F・ケネディ空港に到着した。
飛行機が着くとすぐにタラップが下ろされて、地上へと向かった。下にはこれまた日本国の専用車が待機している。
のだが、その前に。
「悠ちゃーん!」
高い声が響いて、一瞬影が差す。
「うわっ!」
白いフリルの服をきた天見優依が僕に飛びついてきていた。
ミス・ディオールの香水の爽やかでちょっと神聖な感じがする香りが鼻孔を突く。
「寂しかったよ~、悠ちゃんがいなくて」
「いなくてって、四日前のことじゃない……」
世界的アイドル天見優依が、僕に抱き着いた!
なんてなると、大スキャンダルかと思いきや、実はそうではない。
優依は僕の双子の”あぬ”だからだ。ちなみに”あぬ”というのは千瑛ちゃん考案で僕のネタではない。
“あぬ”というのは、兄と姉の中間を意味する。
天見優依はいわゆる無性別なのだ。
無性別?
何だ、それは?
と思うかもしれないが、天使と同じで極めてすごいことなのだ。
考えてみてほしい。
男や女のアイドルとなると、中には性欲交じりで推す人間もいるかもしれない。ununに上半身裸体をさらす男性俳優や、週刊誌によくいるグラドルを見たら分かるだろう。
しかし、真に尊い存在は性別など関係ないはずなのだ。
いや、真に推されるべき存在に性別などあってはならないのだ。
だから、性別という概念を取っ払った天見優依は究極のアイドルなのであり、その圧倒的な歌唱力やら表現力、ダンス力、演奏力も加えて、新曲が一日で百億回再生されてしまう存在になれたわけだ。
ということで、兄でも姉でもないので、”あぬ”なのだ。
仮に家族的に呼ぶとなれば、兄さんと姉さんの間をとって”ぬうさん”ということになるのだろう。
「サバンナにいる草食獣ですか?」
「それは動物のヌー」
「WBCで日本代表になっていたラース……」
「それはヌーことヌートバー」
「鬼の手をもって地獄先生とも呼ばれる人ですか?」
「それは”ぬーべー”。彼は”ぬー”と省略しないよ」
と、魔央とつまらないやりとりをやっている間、優依はスマホを弄っている。
すぐにスケジュール欄を開いて見せてくれた。
「これからの予定を説明するね。まず、みんなで日本大使館に行って、スーツを試着してもらうの。イードアンドレイヴェンスクロフトのデザイナーに作ってもらったから、カッコいい&可愛いと思うわよ」
「了解」
そう。僕達は明日の国連総会に参加することになる。
新しい国の代表として国連総会に行くのに、まさか普段着で行くわけにもいかない。バシッとしなければいけない。
そこで、有力ブランドのモデルも多数こなしている優依の紹介で、明日のスーツとドレスを作ってもらうことになったのだ。
イードアンドレイヴェンスクロフトというのは、スーツの最上級ブランドらしい。らしいというのは僕も聞いただけでよく知るわけではないからだ。
1697年創業で、イギリス王室御用達ということらしい。
「その後は、悠ちゃんが馬鹿にされないように、演説の専門家も連れてきているからちょっと特訓ね。明日はバチッと決めなきゃ♪」
「あぁ、ありがとう」
「えへへ~、悠ちゃんに褒められた~♪」
優依がまたぎゅっと抱き着いてくる。
いくら双子とはいえ、こうまで馴れ馴れしいと許婚の魔央はどう思うのか、って?
あまり心配はいらない。
何故なら、魔央自身、優依推しなので、こういう姿を見て「優依ちゃんが双子の弟にデレデレなの、最高に尊いです」と思っているからだ。
関係ないけど、兄と姉の中間が"あぬ"なのは分かりやすい。
では、弟と妹の中間はどう呼べばいいのだろうか?
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