第4話 破壊神にも敵はいる

『悠ちゃん』


 唐突に機内に女性の声が響いた。


「どうしたの? 千瑛ちゃん?」


 知恵の7使徒。新居千瑛だ。


 彼女は僕の幼馴染で、実は初恋の相手でもあった。


 4年前に白血病で病死したのだけど(話し出すと長くなるから、今回は省略ね。そのうち語ると思う)、その後幽霊としてこの世に残った。


 幽霊として漂っているうちに色々自分を改造して、遂にはAIを取り込むことにも成功したらしい。


 結果として、今では幽霊とAIという非人間のハイブリッドとなっている。彼女はネット回線に乗って一瞬で世界のどこへでも行くことができる一方、幽霊なのでネットが通じない壁などの物理的障害も難なく通過できるのだ。


 AIの計算能力も取り込んでいるから、常人では考えられない知識を保有している。

 色々チートな存在だ。


『総会でMAO王国の独立に反対する国はいないわ。国連194カ国目の国家、日本が承認する198カ国目の国になるのは確実よ』


 どうやら、国連のサーバーに侵入して情報をゲットしてきたらしい。




 反対する国がないことは想定通りだ。


 一瞬で世界を破壊する相手に、わざわざ反対しても意味がない。隣の国と戦争していようが、地域紛争を起こしていようが、そんなもの関係なしに全員ぶっ飛ばしてしまうからだ。


 真の破壊神を前にしたら、国益なんていうものは通用しない。変に反対して限定的に破壊されるのもまずいから、従うに越したことはない。




 とはいえ、破壊神が無敵かというと、そうでもない。



「非政府組織はどうなんだろう?」


 どんな政治体制や宗教・文化があろうと、国家に所属する以上、ごく当たり前の人間ではあるはずだ。自分や家族の命は惜しいから、破壊神に歯向かおうなんて気概はない。



 しかし、世の中には常識が通用しない人間もいる。



 いわゆる”無敵の人”ではないけど、絶望しすぎて世界もろとも壊してしまいたい人や、とにかく成功者が大嫌いだという者たちもいる。


 そういう連中は、自分のことを気にしない。魔央の力を利用して世界を破壊しようと考える。




世界魔道師協会せかいまどうしきょうかいがきな臭いわ』


「世界魔道師協会?」


 もちろん、文字通り、魔道の使い手達の協会だ。


 ただし、魔道といってもファンタジーゲームのように勉強や才能によって得られるものではないらしい。


 僕達が得た情報によると、男女が30歳まで童貞・処女のままでいた場合に、何%かの確率で魔道師として覚醒するのだ、という。



 彼らは基本的に困った存在だ。


 男女問わず30歳まで童貞・処女だった人達なので、大抵は社会に何らかの恨みをもっている。更に魔道師になっても、歪みや性癖が治るわけではないので、童貞・処女を卒業できない人がほとんどらしい。


 結果、魔道師達はこの世界に対する憎悪をどんどん膨らませている。


 その統括組織である世界魔道師協会も世界でも有数の危険な組織となってしまった。



 僕も以前、関わり合いになったことがあるけど、彼らはリア充が許せないという理由でヂィズニーランドに飛行機を墜落させようとした。常識というものは魔道師には通用しないと思った方がいい。


 そんな魔道師協会なら、魔央に危害を加えて世界ごと滅ぼそうと考える可能性がある。



「国連総会にまで押し寄せてくるのかな?」


『それはないわ。魔道師は100%陰キャよ。ニューヨークなんか来られるはずがないわ。考えてごらんなさい。世界の中心、人種の坩堝たるニューヨークに行く度胸のある人間が30まで童貞・処女のわけがないでしょ?』


 ものすごい偏見のような気がするけれど、全くのデタラメとも言えないかもしれない。


 でも、ニューヨークで育ったDT・SJはいるような……




 話をしている間、魔央はずっとブルーレイでドキュメンタリーを見ている。


「魔央、それ、もしかして飛行機が墜落したシリーズじゃない?」


 僕が声をかけると、彼女は「よく分かりましたね」と嬉しそうだ。


「私、飛行機に乗る前は、墜落事故の話を見て、戒めにしたいんです」


「......もう乗っているし、何の戒めにするの?」


 魔央はいい子なんだけど、こういうところが変わっている。


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