第3話 ニューヨークへ

 次の朝、僕と魔央は早起きして成田空港に向かった。


 と言って、主体的に向かうわけではない。用意されたリムジンに乗って、高速をひた走り向かう。僕達はただ後部座席で景色を眺めているだけだ。




 僕と魔央は明日、ニューヨークにある国連本部の総会に出席することになっていた。


 何のために?



 新しい国・MAO王国の成立のためである。


 人類が考え付いたいかなる破壊兵器をも超える破壊神・黒冥魔央。


 それを日本国が持っていることは世界秩序という点から適切ではない。


 そういう先進国の都合で、僕たちの住む建物だけ独立国となるわけだ。



 国名は何でもいいのだが、魔央がいなければ新しい国なんてできるはずがないからMAO王国である。


 人名がそのまま国名になる、世界最高の独裁者でもなかなかできないと思うけど、魔央はさらっとやってのけるわけだ。


 ちなみに中国を建国した毛沢東の主義主張を唱える人間をマオイストと呼ぶこともあるけれど、それとは全く別だ。



 MAO王国の国民は8人で、ヴァチカンを下回り世界最小だ。


 ちなみに僕、魔央、それに一人を除く7使徒だ。



 うん、7使徒とは何ぞやだって?



 今回、純正破壊神として魔央が生まれたことにより、それに対するカウンター勢力、要は正しい徳目をもつ7人の使徒が登場したのだ。


 彼女たちは僕のサポート役として、破壊神の横暴を防ぐためにいる。


 いずれ出てくると思うけど、名前だけ列挙すると、



 希望の天見優依あまみ ゆい


 知恵の新居千瑛にいい ちえ


 節制の堂仏都香恵どうぶつ つかえ


 信仰の川神聖良かわかみ せいら


 堅固の山田狂恋やまだ きょうこ


 博愛の木房奈詩きぶさ なうた


 正義の四里泰子よんり やすこ



 の7人である。


 ただし、このうち新居千瑛は幽霊だ。現在の制度では国民として数えられない。


 だから6人と僕、魔央という8人が国民となる。



 えっ、男一人、女七人のハーレムでうらやましい?


 正直、そんなことはないのが実態だ。


 そもそも国なんて言っても、建物一個だけで、そこには国民には入らないけど、警護役の服部武羅夫、佐々木武蔵、研究者の須田院阿胤という三人の男もいる。


 それに魔央はともかく7使徒は色々やばいので羨ましいということはないと思う。


 おっと、これはみんなには内緒でお願いね。




 成田空港からニューヨーク・ジョン・F・ケネディ空港へと出発した。


 ちなみに僕の乗っている機は、日本国政府の専用機だ。


 何せ乗るのが破壊神である。


 魔王は倒せば世界平和だが、破壊神は倒しても世界を道連れに破壊するから、少なくともまともな人間にとっては自分の次に死んだら困る存在である。もっとも安全な飛行機で運ばなければならない。



「時方様、国際電話です」


 政府専用機なのでエコノミーもビジネスもない。


 機内でくつろいでいると、CAが電話機を持ってきた。



 何だろう?


「もしもし」


「Hello,Mr.Yuu. I’m Joek」


 どうやらジョーク・ブイデン・アメリカ大統領からの電話のようだ。


「I’m glad to meet you at New York. Please have a nice trip」


 ニューヨークで君たちと会えるのは嬉しい。良い旅を、と祝福してもらった。


 もちろん、彼がここまで丁寧なのは僕をリスペクトしているからではなくて、魔央が怖いからだ。


 いかにアメリカが強いといえども、魔央が怒ったら何もできない。



「時方様、お電話です」


「また?」


 こんな調子で世界中の国からご機嫌取りをされたら、溜まったものではないのだが。


「こんにちは。時方さん」


 韓国人の話す日本語のようなイントネーションだ。韓国大統領イン・ソンヒョルだろうか?


「インさんですか?」


「いいえ。私はキムです」



 あなたはインさんですか?


 いいえ、私はキムです。


 初めて習う英語授業のような間抜けなやりとりだ。



「キムさん?」


「北朝鮮のキムです。こんにちは。マオさんによろしく」


 ふうむ、日本の敵対国もご機嫌を伺いに来る。それだけ恐れられているということか。


 というか、政府専用機に敵対国が簡単に電話できていいのだろうか?

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