第10話

「なるわよ。誰ともお付き合いしたことないもの。異性だったらタイプであろうがなかろうが赤面しちゃうの!」


 もうヤケクソだ。開き直るに限る。

 とりあえずリメルだけに赤面しているわけではないという方向で誤魔化そう!


「何それ可愛すぎますよヴィナ様……でもそうか……やはり男性経験はなし、と……」

「な、何よ! 何ボソボソ言ってるの!?」


 やばい、冷静になれ自分。

 どんどんリメルのペースになってるぞ。リメルってばいつの間にか泣き止んで平然としてるし。

 それどころか、口元に手を当てて私のことをジッ……と観察している。

 奴隷だった時は一度だってそんな無礼な態度取らなかったのに、刻印外した途端コレ!? こんなことなら外さなきゃ良かった!!


「それより嘘はいけませんよ、ヴィナ様」

「嘘って何がよ?」

「若い男の使用人と廊下でぶつかった時、完全に無表情でしたよね。赤面のせの字もありませんでしたよ」


 当たり前じゃん。タイプじゃないんだから。

タイプじゃない男相手にいちいち赤面してたら身が持たないわよ。

 なんて、先程自分で言った発言と全く違うことが頭をよぎる。


 ……ダメだ、この話題から離れないと。

 このまま続けていてもこちらの分が悪すぎる。


「いいわ。あなたがタイプじゃないといった発言は取り消しましょう」

「だったら……!」

「ただ、あなたがタイプだとは認めていないわ」

「……往生際の悪い……」


 ちょっと、今度は聞こえたわよ。

 元主人に向かって何という言い草だ。

 事実だから咎められないのが悔しい。


「まあいいです。これで僕の同行を拒否する理由はなくなりましたよね?」

「いいえ。最大の問題は、あなたがいると足手纏いになるのよ」


 こんなことなら最初からこれを言うんだった。

 リメルがどんなに魔法の腕を上げたと言っても、風魔法は第5段階止まり。

 奴隷にしては強いけど、私と行動するにはお荷物だ。

 まあ本当は万能な回復魔法があるからお荷物どころか強力な助っ人なのだが、ここでは伏せておく。

 これはさすがに諦めるでしょう。


「私より弱い人間とは行動できな──」

「ああ、それでしたら。僕、ヴィナ様より強いですよ?」

「……え?」


 自信満々にキッパリ言い放とうと思ったら、あっけらかんとしたリメルに遮られた。

 はい? この男は何を言っているの?

 私より強いって、ま、まさか風魔法が──


「あなた、風魔法は第5段階までって嘘だったの?」

「いえ、風魔法“は”そこまで適性がなかったので第5段階までしか極められませんでした」


 なんだ。やっぱり第5段階までしか使えないんじゃない。

 それなのに何が私より強いよ。


 ──いや、待って。

 リメルの言い方はどこか引っ掛かる。

 風魔法“は”適性がなかった?

 そもそも一人一属性しか使えないのにそんな言い方する?

 なんかそれって、風魔法より適性のある属性があるみたいじゃ──


「ずっと黙っていましたけど、光属性を第7段階まで使えるんです」

「……は?」

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