第9話

「前からあなたのことタイプじゃないって言っていたでしょう? 正直、この家を出てまでタイプじゃない男と行動を共にしたくないの」


 ごめんリメル。

 私から見てもあなたの外見は極上だと思うけど、こうでも言わなきゃ諦めがつかないでしょう。

 外見はどうすることもできないし、さすがに生理的に無理発言されているのに一緒にいたいなんて言えるほどメンタル鍛え上げていないだろう。


 ……だけど、私の思惑は見事に砕け散る。


「ヴィナ様、何言ってるんですか? それは本音じゃないですよね?」

「……え?」

「僕がこの家に来て3ヶ月ほど経った頃、高熱を出してしまった僕をヴィナ様が看病してくれたじゃないですか。その頃には言葉とは裏腹にどこまでも行動が優しいヴィナ様を既に信用していましたけど、偶然聞いてしまったんです。寝ている僕を前に容姿を褒めちぎるヴィナ様の声を」


 ……な、なんだと?

 そんなことした覚えは……いや、あれか、あの時か。

 確かに初めて奴隷虐めのパフォーマンスをした際、上手く加減ができなくてリメルに文字通りの重傷を負わせてしまった。

 まだリメルも幼かったし、怪我が治っても熱は長引いたんだっけ。

 不可抗力ながら私のせいでリメルを苦しめた罪悪感に耐えきれず、使用人の制止する言葉を無視して私自ら看病したんだよね。

 それで、ようやく熱が下がって穏やかに眠っているリメルの寝顔を見て……言った。確かに言っちゃった気がする。


「『なんて美しいのかしら……』『まるで宝石みたい……』『出会い方が違ったらお友達になりたかったわ……』『そうしたら美しい顔を見て思う存分ニヤけられるのに……』って仰っていましたよね?」


 いや、うん。

 さすがにそこまで正確には覚えてないけどそのようなことは言ったかもしれない。

 てかなんでリメルはそんな事細かく覚えているわけ!?

 5年以上前のことだよね!? おかしくない!?

 ていうか、ここまで鮮明に覚えているのに、今まで私の『タイプじゃない』発言はどういう気持ちで聞いていたわけ……?

 恥ずかしすぎるんだけど……穴があったら入りたい……。

 てかあの時起きてたなら言ってよ……。


 羞恥に顔が赤く染まりそうになるが、なんとか堪える。

 そんな顔したらリメルの思う壺だ。


「……だから何? タイプが変わったのよ。もうあなたはタイプじゃないの」


 ……うん、ちょっと苦し紛れ感が尋常じゃないが、こうとしか言えない。

 すると、何を思ったかリメルが急激に距離を詰めてきた。

 顔と顔がぶつかるほど近い。少しでも動けば鼻先が触れそうだ。


「い、いきなり何……!」

「ほら、顔が赤くなった。ヴィナ様、僕が不意に近付くといつもほんのり顔を染めますよね。タイプじゃない男に近寄られてそんな顔になります?」


 んな、な、な……バレてたーーー!!

 マジで!? なんで!? 絶対バレてないと思ってたのに!!

 そりゃ絶世の美少年に近寄られたらイヤでもドキッとしちゃいますよ!

 だって前世は普通の女子高生だったんだよ!? 異性に対する免疫なんてこれっぽっちもなかったし!? 増してやこんな美貌の持ち主初めて見たし……!

 ていうか私、面食いだし……!

 そりゃリメルの外見はドタイプですとも!!


 でも言い訳をしている手前そんなこと悟られるわけにはいかないから、必死に動じてないフリして隠してたのに……まさか隠せていなかったとは。

 穴があったら入りたい……むしろ自分で穴掘ろうかな……。

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