篝火
村の人たちは私が食べ残した白い布の切れ端を燃やしている。山と積まれた薪には無感情な光を発する炎がまとわりつき、すっかり暗くなった森の影を濃くしている。ああそうだ。私が食べたんだ。縛られていた彼らを。そして、あの水干の______
どうかされましたか?という声が聞こえ、我にかえる。そうか、今は聞き取りの最中だった。しかしどうしたものか。夢の話をするつもりが昔話をしてしまったらしい。今この村で信用を失うのはまずい。山奥のこんな村では、何をされるかわからない。筆舌に尽くし難い目にあった人間たちを、多く見てきたではないか。そもそもどうして今まで忘れていたんだろう?
そこで気がついた。自分の顔を覗き込む民俗学者の男。なんと名乗ったかは覚えていないが、今は名などどうでもいい。こいつのかけている、眼鏡が。光の加減によってさながら鏡の如く自分の姿を映している。それに気付き思わず見開いた眼。その瞳孔が、縦に伸びている。しまった。眼鏡の奥、目に恐怖が宿るのが見えた。やらなくては。私は指先に力を込め、右手を男の喉へ叩き込んだ。
ここまできたら見つからないだろうか?村からだいぶ離れたはず。ここに埋めれば、きっと。死体を運ぶのに手間取ってしまった。遠くの稜線に夕陽が届きそうだ。早く社屋に戻って後片付けをしなくては。さて、これからどうしよう。どう誤魔化していこう。血と土に塗れた両手を広げて膝をつく。あの夜の火の粉がまだ、辺りに舞っている。
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