第4話

 なんとか入学初日の学校を乗り越える。木野瀬さんと会話を出来たその後は結局誰とも話せず、ただ学校のシステムについていくだけで精一杯だった。

 教室を出て、放心状態となりながら僕は帰ろうと下駄箱のある昇降口へ向かう。

 だが友達作りを諦めてはいけない。むしろポジティブに考えよう。気を抜くと大反省会をその場で開始してしまいそうだが、そんな時こそ希望について考えるのだ。

 伊橋さんとのやりとりを会話と言っていいのかは少し考えてしまうが、それでも自分から声をかけることは出来たし、木野瀬さんとも簡単なやりとりとはいえ会話を出来た。

 二人と会話を出来ている! 何事も焦ってはいけない。友達は数じゃない! どれだけの信頼関係を築けるかだ! つまり大切な一人の友人を手に入れるための滑り出しとしては決して悪くない初日なのではないか? と僕は必死で考える。

 何も行動の出来なかった小中時代に比べれば、進んだ歩みは微々たるものかもしれないがゼロではないのだ。確かに正の方向に僕の歩みは進んでいる。そう信じるんだ……!

 そんな風にマインドセットをして下駄箱の前に来る頃には僕もだいぶ気持ちを取り戻している。夜になるとネガティブの波が押し寄せてくる、と経験上わかってはいるものの、それでも今の気持ちが立て直せたのは良いことだ。今日は家に帰ってゆっくり休もう。

 そう思って、下駄箱を開ける。僕の靴以外に、見慣れないものがある。

 封筒だった。それはピンク色の可愛らしい小さめのもので、そう、まるで手紙、ラブレターのような如何にもありきたりな……。


「ら、らららららラビュレタ!?」


 思わず下駄箱の前で声が飛び出る。周囲の生徒の視線がチラリ、と向けられるが僕に気にする余裕はない。僕の頭は崩壊寸前。完全に処理できるタスクの量を超えている。

 いや、焦るな。こういうのは勘違いというのが王道だ。冷静に考えろ。僕は今日、伊橋さんと木野瀬さんとしか話していない。そして二人がこんな呼び出しをしてくれるほど僕に親近感、好意の類を持っている反応だったか?

 答えはノーだ。その答え1を元にこのラブレター問題について考えよう。このラブレターは僕に対してのものか? 答え、ノー。ありえない。そこまで僕は僕に自惚れていない。

 つまりこれは僕にとって悲しすぎる王道展開。誰か別の、僕の下駄箱の両隣の人宛のラブレターを勘違いして僕の下駄箱に入れたパターン! 間違って入れられた! これが答え2だ!

 と、僕のオンボロ頭脳が答えを弾き出した瞬間、封筒を落として、地面に落ちる瞬間、裏面が僕に見える。


『九榎悠さまへ』


 答え3。僕宛だ。

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