おうちデート(意味深)だったらよかったな その3

 コーラをがぶ飲みし、ジ〇ギスカンキャラメルとかいう名前の時点でアレな食べ物を食すお姉さん系美少女と、コーラをがぶ飲みし、カ〇トリーマアム(徳用)を貪り食うゆめかわ系美少女。外見を完全に台無しにした二人は、重すぎる沈黙を背負っていた。

 ゆめかわ系美少女こと今回のやらかした方は、沈黙を破る度胸もなく。お姉さん系美少女こと今回の被害者の方は、混乱でそもそも物を言える状態ではなく。つまりはこの双方ともに不幸しか産まない沈黙は、暫くの間継続されることが運命づけられていた。


「……なあ」


 結局、重い重い沈黙を破ったのは梅吉の方だった。


「オレ、大分やらかしたよな……?」


 珍しくしおれた、覇気のない声が問いかける。何せ根本的な原因は自分なのだ。自分がこの沈黙を破るべきだろう。そう考えて意を決して問いかけたのだが、返ってきた声は予想外のものであった。


「いや、やらかしたのは梅吉じゃなくて俺だろ……」


 今まで聞いたことがないほどか細い声が、青仁の口からこぼれる。そしてそのままキャラメルをつまむ手を止め、顔を覆ってしまった。

 青仁のやらかし?今回はただただ被害を受け続けただけなのではないのか。まあ醜態を晒したという意味ではやらかしかもしれないが、そもそも青仁が醜態を晒すような状況になってしまったのは梅吉が原因であり、つまりは青仁は特に悪くな


「……あー。青仁、お前もしかして」

「言うなぁ!」


 ぺち、と膝の当たりを叩かれる。そもそもそういうある意味かわいらしい抵抗をするような奴ではないんだよなあ、という殊更残酷な真実は告げぬまま。梅吉は別件の残酷行為を続ける。


「半ベソでオレに抱きついて弱音吐いたのをガラじゃないというか女の子がやる方向性の行動だな?って恥ずかしがってると」

「うびやあああああああああああ!!!!!!!!!!!」

「あっ壊れた。かわいそうに」

「絶対そんなこと一ミリも思ってないだろがお前……」

「いや今回は割とガチの哀れみと同情だぞ……正直明日は我が身感が半端ねえし」


 急性性転換病。基本的に変わるのは身体の性別だけである、と言われているトンチキ病だが。脳科学とかいうなんか難しそうな話を除いても、物理的にホルモンバランスが変わることから性格の変異は大小を問わず、どうしたって避けられない。とかいうのをこの病気の発症者は医者に散々言われるのだ。

 正直自分ではさして変わった気がしいていなかったのだが、青仁の言動にこうして変化が起きている辺り、あながち間違いでもないのだろう。


「明日は我が身ってか、お前ももう大概なような」

「……えっ」


 などとある意味上の立場から物を言っていたら、急に同じフィールドに引きずり落とされた。


「おい何時の話だ!!!!オレが何時!!!!女の子ムーブをした!!!!言え!!!!!!!」

「えぇ……なんかこう、色々だよ色々。もう気にするのも面倒くさいし諦めたら?」


 反射的に青仁の肩を掴みガクガクと揺らすも、いつ何時梅吉が女の子ムーブをしていたのか、青仁は吐く素振りを見せない。色々、と言うからには複数該当箇所があったのだろう。悪夢か?正直身体の変異はなんかもうどうしようもないところがあり、既に若干諦めているが。精神は自力でなんとかできそうな気がちょっとするからこそ、余計心に傷を負うのだ。


「じゃあ言ってやるよお前も諦めたら?」

「うぼあ」

「誰も幸せにならねえ」


 結局最適解は諦めること、ではあるのだが。素直に認められる程梅吉も青仁も達観していないし、アイデンティティーが希薄だったりもしない。だからこそ悩み続け、どうにかこうにか折り合いをつけていくしかないのだ、的なことを医者に言われた気がするのを今更思い出した。


「俺、この病気の真の恐ろしさをやっと理解した気がする……どうして女の子になっちゃった人は治療法がまともに存在しないんだろ」

「なんかちんこは今の科学技術じゃ再現が厳しいとかなんとか言ってたよな。穴を開けるのと棒を生やすんじゃ色々違うんじゃねーの?」

「つまりちんこには再現できないほどの神秘がつまってるってこと……?」

「いや単純に無いものを生やすのとある物から引くのなら、後者のが楽ってだけじゃねーの」

「なんでそんな現実を突きつけるんだ」


 実際のところ、完全に元通りとは行かずとも元女性であった性転換病の患者は、一応治療法と呼べなくもないものがあるのだ。とはいえ元男性であり、治療法が元女性程確立しているとは言えない梅吉達には関係の無い話なのだが。

具体的に言うと性的興奮によって元気にならないちんこになんの価値があるんだ?という偏見気味の話である。


「はあ~……トンチキ病ならトンチキな感じに治れよって、俺めっちゃ思うんだけど」

「なあ知ってるか青仁、多分この話続けたら延々とお通夜ムードが続くだけだぞ」

「だよなあ。なら俺が見つけたドリンクバーのスペシャル配合の話でもするか?」

「しねーよ話題が飛躍しすぎだろが他にもなんかあったろ。……ていうかお前、怒ってねえの」


 控えめに続けた、相手の感情を気にかける言葉。本来梅吉が真っ先に聞くべきことであり、完全に鬱方向の話題に全力疾走していた結果逸らされていたそれを。自ら掘り返すように問いかけた。

 果たしてその返答は、梅吉の構えが馬鹿らしくなるほど、随分と気の抜けたものであった。


「うーんまあ、正直ファミレス奢れぐらいは思ってるけど。俺の女性免疫の無さとホック付き下着つけられないのは実際問題だろ。でも、とりあえず次からは予告と合意は絶対取れよ、うん」

「……マジすまん。ファミレスは今度行ったら奢る」

「んじゃまあ、これでその話は終わり!ってことでだな、俺がこの前見つけてしまったドリンクバ」

「いや結局その話に行くのかよ!」

「そりゃあ話したいし!」


 相変わらずドリンクバーで真面目な空気を破壊していく素振りに、今回ばかりは多分意図的なのだろうなと薄々気が付きながらも、今回ばかりは流石に話に乗ってやろう、と梅吉は話を聞く構えを取る。湿っぽい空気が嫌、という青仁の要望を素直に汲んだのだ。

 従ってそこからは普段と同じような状況が繰り広げられた訳だが。あまりにも代わり映えせず、「そういえば今って一応お家デートじゃないのか?お家デートってこんな健全だっけ?」という至極冷静な思考が過りもしたが、まあ自分も楽しいし青仁も楽しそうにしているから別にいいか、となった。


「いやー友達の家に行くとか小学生とか振りだけど、案外楽しいな!」

「青仁知ってるかー今のオレら恋人なんだぜー」

「なんかもう鉄板ネタ化してきてあんまり衝撃を受けなくなってきたな」

「それもどうなんだそれも」


 名称という意味での関係性は変わったものの、こうして話している分には基本的に違いは感じないのだ。ならばそも一応とはいえ恋人同士でいる必要もないのでは?と思わなくはないが。当初の目的はなんだかんだで未だ達成されていないのである。おそらく双方、それなりに段階を経てからヤるべきだろう!とか思っているか、双方ヘタレかで。

 故にまだ、この慣れぬ名称は自分たちの関係性の形容詞として在り続ける。


「まあでもいいんじゃねーの?俺たちはこ、恋人とか、なんかこうそういうのとか関係なく元々友達なんだし!」

「……それは、そうだな」

「ていうかたかがその程度のことで今みたいに遊べない方が普通に嫌なんだけど」

「お前そういうとこあるよな……」

「えっ何が?!ま、まさかまた無意識に女の子ムーブを」

「いや単純にお前昔っから妙なところ素直だよなって話」

「?」


 『たかがその程度』。その言葉にどこかでひっかかりを覚えたのもたしかではあったが、見ないふりをする。そうしないと、いけない気がしたから。

 それに青仁の言葉も間違ってはいないのだ。梅吉だって、ぎくしゃくするぐらいならば恋人なんて肩書きはいらない。いくら当初は勢いで、今現在も純度百パーセントの下心由来とはいえ、完全なる考え無しというわけではないのだから。


「俺って素直なのか?」

「別に自覚無いならそのままでいいと思うから、気にすんな」

「そうなのか……じゃあ俺は自分の感情に素直になって、今から別のことにツッコミをいれるんだけどさ」

「なんかツッコミを入れる要素あったか?」


 カ〇トリーマアムをひと袋空にして、次はキ〇ラメルコーンかなと開封しながら首をかしげていると。わざとらしくすう、と息を吸い込んでから。びし、と人差し指が突きつけられる。


「お前お菓子食いすぎ!なんでそれで太らないんだよ?!」


 そんなにか?と梅吉はキ〇ラメルコーンを指に被せながら思った。

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