第56話 選ばれた自衛官との顔合わせ
転移門を任意で稼働できるゲートマスターの存在はまだまだ貴重だ。
それもあって基本的には素性などは公表されておらず日本では謎に包まれた凄腕の人物、なんて勝手な印象が付けられていることもしばしばあるのだとか。
そのせいもあるだろう。
現実世界で顔合わせをした際、異世界に派遣される自衛官四人がこちらを見て驚いた、もっとはっきり言えば拍子抜けしたといった様子を見せたのは。
もっとも現実世界では俺など就職したばかりの二十代前半の若造だ。
そして別に他を威圧する圧倒的な雰囲気なども持ち合わせいないので、そういう反応をしても仕方がないことなのだろうと思う。
実際、異世界ならともかくこっちなら訓練などしたことのない俺は彼らに手も足も出ないだろうし。
「鳴海君。既に聞いてはいると思いますが、今回の君の任務はこの四人を異世界に連れて行くこと。そして可能であれば異世界特有の力である真言を彼らが手に入れられるように手配することとなっています」
事情を知っておりこの場の立会いの仲介役も担っている大石部長がこれから行動を共にする彼らの紹介してくれる。
右から酒井 剛毅三等陸尉、佐々木 敦陸曹長、鈴代 沙雪一等陸曹、初島 涼音二等陸曹とのこと。
自衛隊の階級なんてよく分からないが、酒井さんが一番偉い立場でリーダー的な役割らしい。
なお名前を見れば分かると思うが後者二人は女性となっている。
異世界でゴブリンの被害に遭ってしまった人を連れ帰る際など、男性だけだと色々と問題がある可能性があるから男女がバランスよくなるように編成されたらしい。
「……まさか彼のような若者が日本で三番目のゲートマスターとは。正直に言って驚いきましたよ」
「安心してください。彼が非常に若いことは否定しませんが、優秀な人材であることは保証しますから。それに実は異世界から戻ってくる人の割合は若い人が多いようですよ」
その原因は恐らく魔物という危険な敵に襲われた際にその方が逃げられる可能性が僅かなりとも高いからだろう。
体力的に衰えて走ることもままならない中高年と全盛期で動きの機敏な若人なら、どちらが生き残る可能性が高いかなど考えるまでもないし。
魔物というこの世界の人間にとって未知の相手をするに当たっては、人生経験などよりも体力が多いことの方が重要ということなのだろう。
「それと重々承知の事と思いますが、彼のことについては決して他言しないようにしてください。ゲートマスターであるからの身柄を狙う奴らがどこにいるか分かったものではないですからね」
「それは重々承知しているよ」
そこから軽い自己紹介と今後の予定の擦り合わせなどを行なったが、やはり鍛えているようには見えないせいもあってか本当に大丈夫なのかと心配する懸念をその場では消せなかったようだ。
(これでもあっちでは必死に鍛錬も積んでるんだけどな)
自己流で鍛えていても本職の人から見れば貧弱なように見えてしまうのだろうか。
あるいは真力は保有する量が増えれば強化具合は強くなるが、それで体格が良くなったりはしないのも原因の一つなのかもしれない。
(まああっちに行けば嫌でも分かるだろ)
半ば予想はしていたが、実際にその力を見せて証明するしかないみたいだった。
◆
その後、準備を終えた俺は四人の随行者と共に異世界に転移していた。
何度も転移してきたこともあってもはや慣れたものである。
「ふう、身体が軽いな」
真力が多くなって強化具合が高まれば高まるほど、現実世界に戻ってその強化がなくなった時の反動で身体の重さが強くなるのだ。
何度も行き来したことで慣れた面もあるが、それでも影響が皆無になることはない。
つまり今の俺にとって文明的な面などで快適なのは現実世界のだけど、肉体的に楽なのは異世界なのである。
そして今回使用した転移門はハリネ村のものだ。
このハリネ村近くの遺跡は既に発掘され尽くした後ということもあって人が寄り付くことも無いから、こうしてこっそりと人を連れてくるのに最適なのである。
また遺跡という紛いなりにも建物があるのが有り難い。
雨が降っていた際などでも身を隠せる場所が有るのと無いのとでは大違いなので。
ちなみに蛙沼の方だと他の冒険者に見つかるかもしれないし、もう一つの方は人里から離れているので不便なので候補から外れている。
「……やはりどれもダメだな」
「今回は色々な種類を持ってきたのでもしかしたらと思ったんですが、やはり電子機器だけでなく銃なども使い物になりませんね」
転移に慣れていない人は転移酔いのようなものでしばらく意識を失ったり気分が悪くなったりすることもあるのだが、流石は普段から鍛えている人達。
比較的早くその状態から脱した四人の自衛官は今回の調査のために持ってきた装備などを点検している。
だが残念なことにその大半が使い物にならなそうだった。
といってもこれは予定外の出来事ではない。
これまでの様々な検証の結果、どうも転移門は生物以外が通過した際に強い負荷が掛かる設定がなされていることが分かっているのだ。
その影響か精密機械などは軒並み故障してしまうし、銃器なども内部に不可解な歪みなどが生じて使い物にならなくなってしまうらしい。
(門の規模の問題なのか。それともその機能がまだ解放されてないのか)
個人的には後者だと思っている。
何故なら暴走した転移門ならスマホなどの精密機械が故障していないことは過去の出来事で証明済みだからだ。
でなければ
(最初のゲートマスターが信用されたのも何らかの映像を撮れていたからって話だし、暴走した転移門ならその制限はないみたいだからな)
暴走したことで本来は使えない仕組みが偶然にも機能していたとかその辺りだろうではないか。
で、ゲートマスターによって暴走が収まったことで強引に使用していた仕組みも使えなくなったと。
この予想が正しいかどうかは色々と試して門の機能の検証をしていくしかない。
それよりも問題なのは現実世界から異世界に銃などの兵器を持ち込むことが実質的に不可能なことだ。
厳密には銃器などの構造が複雑な物以外、つまりは鈍器や刃物などなら問題はない。
だがそれらがこちらで有用かと聞かれれば首を横に振るしかないのだった。
だって仮に鋭い刃物を持ってきても、現実世界の武器ではこちらと違って真力が込められていないのだ。
その時点でそれらの武器の扱いはこちらでは鈍同然のストーンランクとなってしまうのである。
(ただでさえ俺以外の人や物をこっちに転移させるのには真力を溜める必要があるってのに、折角苦労して持ってきたそれらが使い物にならないとか勿体ないにも程があるな)
それならどうにかしてこちらで真力の込められた武器を用意する方が断然マシだろう。
無論のこと日本政府もバカではないのでそう考えたらしく、選出する人員の変更などをしてそれで色々と時間が掛かったようだ。
ただそのおかげもあって今回選出されたメンバーは武道の心得があるなどかなりの武闘派な人なのだとか。
まあ自衛隊という職の時点で素人ではないだろうし、その中でも選りすぐりともなればかなりの腕前の人ばかりなのだろうとは思う。
それが果たしてこちらでも通用するかどうかは俺にも未知数なところはあるが。
「それでは予定通り使えない装備はこの遺跡に置いていこう」
なお故障した物も後で現実世界に持ち帰って色々と調べるそうだ。
どういう形で故障するかが分かれば、あるいはこちらでも修理が可能になるかもしれないとかで。
「それじゃあまずはこの遺跡の近くにあるハリネ村に向かいましょう」
「ああ、すまない。その前に少しだけいいだろうか?」
彼らが移動できる準備を終えた後に予定していた行動に移ろうとしたのだが、そこでリーダーである酒井さんに制止されてしまった。
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