第3章 異世界への人員派遣
第54話 プロローグ 自衛隊、派遣準備完了
異世界という未知の開拓地の存在。そこに価値を見出さない国家などある訳がない。
広大な異世界にどのような資源があるのかだけでも大きな期待がされるというのに、それだけではなく真言や真力というこちらの世界とは違う力があるのだ。
それを自国のために活用、あるいは己のために利用したいと考えるのが普通のことだろう。
それが人間という生物の性がというものなのだから。
そしてそれは我々、日本政府でも例外ではない。
ただ転移門はゲートマスターの存在がいなければ任意で開く事はできないし、大人数や荷物が増えれば増えるほど転移に必要な真力というエネルギーを溜める時間が必要だった。
(本格的な派遣に至るまで思った以上に時間が掛かってしまったな。だがようやく始められる)
総理というある意味では日本という国の頂点に位置する地位であろうとも全てを自由にできる訳ではない。
むしろ色々な柵も非常に多く、国会などで審議しなければ決定できないことも多いものだ。
自衛隊を異世界に派遣させる。
暴走した転移門に連れ去られた国民の救助のためという名目があるからどうにかなったが、そうでなければ決定までもっと時間が掛かっていたかもしれないのが頭の痛いところである。
それどころか一部の人からは、自衛隊の派遣は侵略に繋がる行為に他ならないと未だに徹底的に反対されている始末だし。
それなのに異世界に連れ去られた国民を早く救助しろ、できないのは政府のせいだと好き勝手なことを言ってくるのだから本当に困ったものである。
(我々とて国民を見殺しにしたい訳がない。だけどそう簡単にいかないから困ってというのに)
当初、魔物という特殊な力を持つ危険な生き物が異世界にいると分かっても、相手は生物なのだ。
だから銃器などの兵器を持ち込めば対応は可能だと考えられていたのだが、ゲートマスターなどの協力によってそうではないことが判明してしまったのである。
それもまた自衛隊の派遣が遅れた理由の一つでもあった。
「どうされましたか阿木総理?」
色々と困った事態に頭の痛い思いをしているのを察したのか秘書がそう語りかけてきた。
「いや、自衛隊による救助や調査が上手くいってほしいと願っているのですよ。ここで下手な失敗を打てば、反対派の動きが活発になって次の派遣計画などに支障が出かねませんからね」
今後のことを考えればそれは絶対に避けなければならない。
異世界の情報を手に入れること。
その利用方法を見つけることは今やどの国家にとっても至上命題となっている。
そこで後れを取ることは、こちらの世界でも他国に優位な立場を取られる可能性すらあり得るからだ。
異世界での勢力争いが現実世界にも直結しかねない。となればそこに注力しない訳にはいかないだろう。
また国民の救助に失敗すれば人命が失われる上に、我々政権の支持率にも大きな影響が出るのは避けられないだろう。
野党の中にはむしろそれを期待して失敗することを願っている奴もいるという話も耳に挟むくらいだし。
「改めてゲートマスターの情報規制は念入りにしておいてください。万が一彼らの身に何かがあれば、我が国にとってもその損失は計り知れない」
「承知いたしました」
現在、日本で確認が取れているゲートマスターは全部で五名だ。
その中でも二番目にこちらに戻ってきたゲートマスターは心的外傷のせいでゲートマスターの役割を拒否しているので実質的には四名といった方が正しいだろう。
時間の経過と共に徐々にゲートマスターの数も増えてはいるが、今後もそれが続く保証はどこにもないのだ。
貴重な人材を失うようなことだけは何としてでも避けなければならない。
「ところで今回の自衛隊の派遣に協力してくれたのは三番目の人だったね?」
「ナンバー3ですね。複数の転移門のゲートマスターになっている、かなり優秀な人物とのことです」
「逆に一番目の人物は問題行動が多く、正直にいってあまり使い物にならないのだったか……」
それでもゲートマスターの数は少ないので丁重に扱う必要がある。
一番目の世話をしている人はかなり苦労しているようで申し訳ないが、それでも今はどうにか頑張ってもらうしかない。
(もっとゲートマスターの数が増えればその限りではないのだがな……)
そんな都合の良いことが早々起こるとも思えないので、やはり一番目の担当者には我慢してもらうしかないようだ。
「……ところでその、ナンバーなんちゃらという呼び方はどうなんだい? 本当にそれでいくのかね?」
「……正直に言うと私もどうか思いますが、それでも一番目とかよりはマシなのではないですか? そちらだと場合によっては物扱いと見られるかもしれませんし」
「コンプライアンス的な問題か。いや、難しい時代になったものだねえ……」
はっきり言ってダサいと思うのだが、情報統制の観点から名前は可能な限り伏せた方が良い。
だから分かり易くゲートマスターとして確認が出来た順番をコードネームとしているそうだ。
(よく分からないが、そういう時代の流れなら下手に逆らうのは不味いか)
そんなくだらない……もとい些細なことで足を掬われてはたまったものではないし、私は大人しくその呼び方をすることにした。
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