第53話 幕間 ゲートマスターとしての価値
俺の名前は榊原 省吾。
少し前までは売れない動画投稿者だったが、そんな惨めな経歴は過去のものでしかない。
なにせ今の俺は日本で最初のゲートマスターであり、言ってしまえば選ばれた存在なのだから。
突如として魔物という怪物が蔓延る異世界に送り込まれたというのに、俺はそこから生存してみせたのだ。
それも真言という異世界にしかない力を手に入れた上で。
(他の有象無象は戻って来れずに死んでるって話だしな。やっぱり俺は特別なんだ!)
それによってゲートマスターとなったことで俺の人生は以前とは丸っきり別物となっている。
日本では異世界調査協会という組織を立ち上げて、未知の力や技術が存在する異世界の情報を得ようと必死だ。
そしてそれは世界中の国も同じである。
そんな状況で自由に使える転移門の存在の価値は計り知れない。
ただゲートマスターである俺がいなければ俺の所持する転移門はどうあっても使えないのだ。
つまり俺以外の有象無象が異世界に行くためには俺の協力が必要不可欠。
それが分かっているからか、政府の役人とかいう奴らは俺に対して実に弁えた態度で接してくるものだ。
中には口煩く注意してくる奴もいたが、それなら協力しないぞとでも言えば黙らざるを得ないのである。
(俺は特別なんだ。だから少しくらい良い思いをしたっていいだろ)
協力してやる見返りに多少の金銭や協会での役職を寄こすように言ったりもしたが、その程度のことは我儘の内にも入らないだろう。
だってゲートマスターである俺がいなければ、肝心の異世界の調査ができないのだ。
そうなれば異世界調査協会などという名前も笑い者でしかない。
俺がいるから奴らだってその立場を確立できているのだから、むしろ協力的なこちらに感謝してほしいくらいである。
それに政府の役人とかがペコペコと情けないくらいに頭を下げてお願いしてくる姿を見るのは正直言って痛快だった。
以前までなら羨ましかった公務員という立場も今では全く気にならないくらいに。
このまま俺はゲートマスターという立場を活用して、現実世界で確固たる地位を確立するのだ。
そうして一生遊べるだけの大金を得て、数多の美女を傍に侍らし、誰もが羨む王様のような人生を歩むのだ。
そう思っていたのに、
「だってのに邪魔しやがってよ!」
普段ならお気に入りのキャバ嬢などを侍らせて気分よく飲んでいるのだが、今日はそんな気分にもなれず家で飲んでいる。
だけどどれだけこれまでなら手を出せなかった高級な酒を飲んでもイライラが止まらなかった。
「くそ、時間が経つごとに新たなゲートマスターとやらが現れやがるじゃねえか。ふざけやがって! 大人しく異世界で野垂れ死んどけばいいものをよ!」
俺以外のゲートマスターが現れれば、俺の転移門以外からでも異世界に行けるようになる。
即ちそれは俺の唯一無二の価値が下がることを意味していた。
実際、新たなゲートマスターが現れる度に役人どもの態度が徐々に変わってきているのが分かるのだ。
表向きは俺のことを敬っているそぶりを見せても、裏では他と比較しているのだろう。
そうに決まっている。
(俺が日本で最初のゲートマスターなんだぞ。後から真似しているような奴らが邪魔しやがって!)
しかもムカつくことに、どうも他のゲートマスターとやらは積極的に異世界でも活動して様々な情報を持ち帰っているらしいのだ。
役人どもが三番目とかいう奴は優秀だと褒めているのも偶然聞いてしまったこともある。
「くそが、どうやって強力な真言を手に入れたってんだ!?」
魔物が蔓延る異世界でそんなことが出来るということは、それが脅威にならないだけの力を、つまりは真言手に入れたに違いない。
でなければ危険を冒してまで異世界で活動するなどあり得えないだろう。
俺が手に入れられた真言はゴミみたいものだというのに。
何の力も伝手もない状態で手に入れられる真言などカスみたいなものばかりだ。
そしてそのカスみたいなのを最初に手に入れてしまったら、もうそいつは大成を望めない。
それが異世界での常識のはずだった。
だからこそ俺も異世界での活躍は諦めて、こっちでその立場を利用しているというのに。
「不公平だろ。そうだ、ズルだ。そいつはズルしてるんだ」
きっと強さの秘密を独り占めして、自分だけが良い思いをしようとしているのだ。そうに違いない。
それだけの情報なら他のゲートマスターなどに共有すべきだというのに。
自分のことなど棚に上げて俺は他のゲートマスターに対する暴言を吐き続ける。
だけどそれでどうにかなると思ってはいなかった。
(……どうにかしないとこのままじゃ不味いな)
そいつらの利用価値が俺よりも高くなれば、俺以外の奴が重宝されるようになるのも時間の問題だろう。
それはつまりこの何をしても許される王様のような立場を失うことを意味していた。
「嫌だ。俺は特別なんだ。特別であり続けるんだ」
幸運にも手に入れたこの立場を手放すなんて考えられないし考えたくもない。
ならば何としてでもこの最高の立場を維持し続けなければ。
そう、どんな手を使ってでも。
(そうだ、異世界では死ぬことも珍しい事じゃない。あっちならうまいこと誘き寄せて魔物に殺されたように見せかけられるんじゃないか?)
それが無理ならこっちでもどうにか始末できないだろうか。
どんなに強い真言を持っていても、その力が活用できるのは異世界のみ。現実世界なら俺と変わらないただの人に戻らざるを得ないのだから。
「そうだ! 殺して初期化した転移門も俺の物にしてしまえばいいんだ! そうすれば誰も俺の言うことに逆らえなくなるに違いない!」
何人もゲートマスターがいるからいけないのだ。
特別なのは俺一人だけでいい。
そう、俺一人だけでなければならないのだ。
「となると、まずはどいつがゲートマスターなのか特定するのが先か」
命を狙うにしてもターゲットが分からない事には始まらないだろう。
そう考えた俺はどうにかして他のゲートマスターの情報を得られないかと酔った頭で計画を練り始めるのだった。
―――――――――――――
これにて第2章は終了です。
第3章以降では他のゲートマスターや国から異世界に派遣された人の情報も色々と出てくると思います。
中には妙な計画を立てている奴もいるようですし、それが主人公にとってそれらがどういう働きをするのかなどお楽しみに。
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