第52話 異世界での飲み会
副ギルドマスターへの報告だがそれほど長くはならずに済んだ。
当初予定としていた通りゴブリンの巣穴はしっかりと潰したし、その他のゴブリンも目に付く範囲で狩っておいた。
何ならこの後もゴブリンの数を減らすのには協力する予定だし、それほど遠くない内に蛙沼は通常の状態へと戻るだろう。
ギルドからしたら亜種よりもそちらの方が重要だったようである。
まああの亜種が雷電蛙という奴で、ランク的にスチール級に近いブロンズ級の魔物だったことも大きいのだろう。
ブロンズ級は下から三番目。
つまり雑魚ではないが倒せる冒険者もそれなりにいる魔物ということだ。
(俺は死ぬ物狂いな上に幸運に恵まれることでようやく一体倒せたってのによ)
腕の良い冒険者はブロンズ級程度なら群れを相手にしても狩ってくるというのだから、この世界の腕の立つ奴らの恐ろしさが分かるというものだろう。
また色蛙の亜種の出現と、それによる周囲への被害に関しては不問とされた。
亜種が現れるのは俺達がどうすることもできない問題だし、それを放置しても被害が広がる結果に繋がることが多い。
生き残るために戦ったこと自体は責められることではないこと。
また被害が出ているのが蛙沼の一部でしかなさそうなこともあり罰金などもなしで済んだ形である。
勿論正式な決定はこの後に派遣される調査隊の報告を受けたからになるそうだが。
ただしどういう状況で亜種と遭遇したのか。どんな亜種だったのか。そしてどうやってその亜種を打倒したのかなどについてはしつこいくらい聞かれたものだ。
蛙沼で亜種が生まれることは稀とのことで、今後のために可能なら原因を特定したいのだろう。
(初心者向けの魔境であんなのがポコポコ出現したら大惨事になりかねないだろうしな)
それは分かっていたものの転移門のことを話す訳にもいかなかったので、亜種は蛙沼を見て回っているところに突然現れたことにしている。
転移門も俺がゲートマスターとなったことで暴走することはなくなったし、あんな形で亜種が現れることも無いはずなのでそれで許してほしいところであった。
そんなこんなで俺は待ってくれていたゴラムの案内で酒場までやってきていた。
「ぷはー」
ゴラムが美味そうにグビグビとエールを飲んでいるのに対して、俺は正直あまり美味しいとは思えなかった。
味もそうだが、それ以上に酒が温いのが残念だったのである。
(単純にあっちと比べる訳にもいかんけど、基本的に食事の面では現実世界の方が充実してるもんな)
現代の居酒屋の方が空調は効いていて快適だし、氷も使いたい放題なのは誰もが知る通り。
そんな環境を知っている身としては、温い酒に酔っ払いの放つ熱気が籠っている場所というのは少々辛いものがあった。
まあ魔物の中には大変美味な種類もいるとかで、それこそ貴族がこぞって求めるような奴も中にはいるとのこと。
あるいはそういうなら魔物なら現実世界の食事を超えてくるかもしれないが、こちらの世界では何の伝手もない俺がそれらを手に入れられる日は、あったとしても遥か先のことだろう。
「それにしても良かったな。あの雷電蛙は結構な値段で売れそうだったし」
「そうだな。亜種との戦いで新調した武器も壊れちまったけど、それを買い替えることができそうでなによりだよ」
持ち帰った亜種の死体という名の素材についてはギルトに相応の値段で買い取ってもらえることとなった。
ギルド以外でも売ることは可能だが、素人が下手に闇市などに手を出すと痛い目を見ると忠告されたので大人しくそれに従った形である。
それでも新しい銅の短剣を何本も買えるだけの収入となったので、必死になって持ち帰った甲斐があったというものだ。
「それにしても亜種を倒したのなら強力な真言も手に入ったんじゃないか?」
「まあな。幸運にも『雷電』って第四階梯の真言が手に入ったよ」
「かー第四階梯とは羨ましい限りだぜ。やっぱりブロンズ級の亜種でもそれだけの真言が他に入ったのは一人で倒したからかねえ?」
グビグビと酒を呷りながらゴラムが言う。
「一人でって、複数人だと何か違うのか?」
「いや、分からん」
「おい」
「正確にはそういう噂があるって程度さ。複数人で亜種の命を削ると、その魔物から得られる力も分散されてしまうっていうような。まあ根拠のない眉唾な話さ」
真言が手に入るのは対象の魔物に止めを刺した人物だけ。
それ以外の人物はそれまでに幾らダメージを与えても手に入らない。それは俺も知っている。
ただ単独で亜種を倒した冒険者が階梯の高い真言を手に入れるが多いらしく、一部ではそんな説が唱えられているらしい。
「ちなみに別に複数人で亜種と戦っても強い真言が手に入らないってことでもないからな。だから単なる偶然の可能性も十分あるぞ」
そもそも亜種の出現率はそう多いものではないので証明は難しいとのこと。
また通常の魔物と複数人で戦って倒した際も別に真言が貯まる感覚は一人だけしかないそうなので、基本的にはこの話は間違っているのではないかと思われているそうだ。
「そんなことより俺達と別れてから何があったのか教えろよ」
「まあ別にいいけどよ」
そこで俺はハリネ村でゴブリンの群れと戦ったこと。
その際に辺境伯家の人間と関りを持って、今はその依頼をこなしていることなどを話す。
「お貴族様、それも辺境伯家と関わるとはな。お前も苦労してるみてえだな」
「まあな。でもおかげで割の良い仕事も与えてもらえてるよ」
「それならいいけどよ。まあとにかくだ。無事にこうして再会できたこと、それとついでにお前が無事に亜種を討伐して戻ってこられたことを祝して乾杯するか!」
既に何杯も飲んでいるくせに今更な話ではある。
だけどそれをここで指摘するのは無粋というものだろう。
「それじゃあツカサの無事を祝って乾杯!」
「乾杯!」
口を付けた安酒は相変わらず温いままだったが、先程よりも飲み易く感じたのは俺の気のせいだったのだろうか。
その後も俺はゴラムとくだらない話をしながら異世界で初めての飲み会を楽しむのだった。
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