第51話 思わぬ再会
街に戻る前に死体の最低限の処置である血抜きや周辺を探して折れた角やそこに刺さっていた銅の短剣の残骸など回収できるものは全て回収しておいた。
色蛙が食えるなら亜種も食えるかもしれないので。
ただ短剣の方は修理不可能なくらいにボロボロで修理するのは無理だろうと思ったが、それでも一応持って帰ることにする。
だってこの銅の短剣がなければ命はなかったのは間違いないのだから。
だから直せなくとも感謝の意味を込めてここに捨てていくのではなく自分の手でちゃんと処分してやりたいと思ったのだった。
そうして牛並みの大きさを誇る色蛙の亜種を担いで歩くことしばらく、拠点にしているカサンディアに続く街道へ出る。
蛙沼近くには小鬼が大量発生しているせいか他の誰も見なかったが、ここまでくるとカサンディアに出入りする商人や冒険者らしき人とすれ違うこともある。
「……あれ? お前、ハリネ村にいた奴だよな」
その内の一人が俺の顔を見て話しかけてきた。
そして俺もその人に見覚えがあった。
「えーと確か名前は……そうそう、ツカサだったよな! そっちは俺のこと覚えているか?」
「勿論覚えてますよ。ゴラムさんは命の恩人ですから」
彼は異世界に転移した際、俺を遺跡からハリネ村まで運んでくれた冒険者だ。
そうした理由が勘違いだったとしてもそれで俺が助かったことには変わりはないし、ハリネ村でも真言などの知識がない俺に色々と無償で教えてくれたので感謝していたのだ。
「あんなの大したことじゃないし別にいいって。それよりその様子だともしかして冒険者になったのか? 随分と大物を仕留めたみたいだが」
「はい、あれから色々あって、少し前に冒険者になりました」
「……それは構わないけどよ、冒険者ならそんなバカ丁寧に話していると舐められるぞ? 悪いことは言わないからもっとラフにしとけ」
なんと冒険者をやっていることよりも言葉遣いで注意されてしまった。
別に簡単な敬語だしそれほど丁寧な口調のつもりはないのだが、転移門に勝手に翻訳されているせいか向こうにはそうは思われていないようだ。
「……分かったよ、普通に話せばいいんだろ」
「そうそう、それでいい。で、改めて背中のそいつは何なんだ? この辺りにそんな魔物が出るなんて聞いたことも無いが」
「こいつは色蛙の亜種だよ。蛙沼の調査中に襲い掛かってこられて、かなりギリギリで撃退した感じだな」
「蛙沼? おいおい、今のあそこは
「それは色々あったんだよ」
それについては話せば長くなるし、なにより全てを話すと小鬼狩りとしてバカにされるかもしれないので適当に誤魔化しておいた。
「まあ言いたくないのなら詮索はしねえよ。それよりも背中のそいつはカサンディアまで運ぶつもりで合ってるか?」
「ああ、そのつもりだ。素材として高く売れるかもしれないし」
「まあ色蛙でも亜種ならそれなりの値段は付くだろうよ。よし、分かった。ここで再会したのも何かの縁だし運ぶのを手伝ってやるよ」
ゴラムはそう言うと、こちらの返事を待たずに荷物を持とうしてくれる。
「いいのか?」
「別に今は依頼も受けてないし、暇してたところだから構わねえよ。その代わりと言ってはなんだが、これを売り終わって暇になった後でいいから一杯付き合えよ」
ゴラムとしては自分達が去った後のハリネ村のことなどが気がかりではあったようだ。
無事だったことは伝え聞いているが、ハリネ村のような各地の村の具体的な話までは中々街まで伝わってこないとのこと。
だからそれを知っているだろう俺から色々と話を聞きたいらしい。
勿論、話せる範囲でいいとのこと。
「ちなみにその飲み代はどっち持ちだ?」
別にこれは金を出したくないとかではない。
異世界での酒の値段などは知らないから、もしかしたら手持ちの金では足りないかもしれないと思っただけである。
「おいおい、俺は新米に集るほど落ちぶれちゃいねえぞ。これでもスチールランクなんだからな」
そのランクでアイアンである小鬼を狩る依頼を受けていたとは思っていなかったので、その言葉には素直に驚かされた。
どう考えてもそのくらいならもっと他に稼げる依頼もあるだろうし。
(なるほど、こいつは本当にお人好しなんだな)
割に合わないゴブリン退治を引き受けていたこともそうだし、見知らぬ俺を助けたのもそうだ。
明らかに利益の出ないであろう行動をこいつは何度も取っている。
そしてそこに損得勘定以外の何かがあるのは明白だった。
「じゃあ良い機会だし、冒険者の先輩に遠慮なく奢ってもらおうかな」
「おう、任せとけ」
ゴラムの協力もあって予想より早くカサンディアの冒険者ギルドまで辿り着けた俺は、周囲の注目を浴びながらもなんとか解体をお願いして、今回の調査報告のために副ギルドマスターに部屋まで呼び出されるのだった。
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