第42話 権能持ちとその生き方
どうにかエイレインからの疑いは晴れたようで先ほどまで漂っていた不穏な雰囲気は消えていた。
心なしかエイレインの態度も軟化しているし。
「そう言えばどうして貴族の令嬢である私が騎士のように行動しているのか聞きたがっていましたね」
聞いて不味いことや失礼になるのなら遠慮すると申しても気にしないでいいとエイレインは笑っていた。
「答えは単純で私が生まれながらの権能持ちだからです」
「権能、ですか?」
聞いたことはない単語だが真言や真力とはまた違った力があるのだろうか。
「権能は簡単に言えば真言の上位互換です」
権能。
それは真言と同系統の力だが、その威力などは真言とは一線を画す代物とのこと。
『火炎』の真言が一度発動するのに真力を1必要とするのに対して『火炎』の権能は十回発動して真力が1必要になるかどうかどいう想像以上の燃費の良さを誇るらしい。
その上で威力も権能の方が倍以上も高いというのだから反則だろう。
「通常の手段で権能を手に入れるには最低でも
権能を狙っていても必ず手に入る訳ではなく真言しか手に入らないことが普通。
そもそも
だから余程の強者が類い稀な幸運に恵まれることでようやく手に入る本当に滅多にない力なのだとか。
だが目の前のエイレインはその力を生まれながらにして持っているらしい。
「真言も権能もごく僅かな可能性で子や孫、あるいはその子孫に引き継がれることがあります。そして『聖炎』の権能を引き継いだ私がその一例ということです」
威力や燃費がいいことを除けば権能も真言も同じ。
つまりその階梯に応じた真力が手に入る。
それはつまり本来なら十歳からしか手に入らない真力という力を幼少期から訓練することが可能という戦う者として絶対的なアドバンテージを持っているということに他ならない。
「そういったこともあって私は幼い頃から領地を守る騎士となるべく訓練を積んできました。辺境伯領は魔境と多く接していることもあって魔物との戦いが多く起こらざるを得ない土地です。領主一族の私が領地を守るに相応しい力を持っているのだから戦う、そう自分で決めました」
そうエイレインは語る。
ちなみにそんなことを一冒険者の俺に教えていいのかと尋ねたが、この話は領民の誰もが知るような有名な話となっているので問題ないとのこと。
「一般的な女性の役目は貴族や平民に限らず家の繁栄のために相応しい相手と結婚して子を産み、その血筋を残すことが最優先とされています。平民だと繁栄という意識はないかもしれませんが、やはり子を残すことが重要視されるのは間違いないでしょう。その道から外れざるを得なかった私はどうやっても異物扱いされますから、父が少しでもそうならないように美談としてこの話を広めているのですよ」
領地を守るために女としてではなく騎士として戦うことを選んだ気高い女騎士として。
多様性が重視されている現代ではこんな価値観は到底受け入れられかもしれないが、ここは異世界でその土地に根差した価値観がある。
ハリネ村のことを考えてみても一歩間違えれば魔物に殺されかねない世界だし、子孫を残すことが重視される傾向にあるのはある意味で当然のことなのかもしれない。
改めて文字通り世界が違うのだと認識させられる話だ。
「ってことはもしかして高位の冒険者とか強者には生まれながらの真言持ちとか権能持ちが多いとかありますか?」
「その傾向はありますね。例えばハインツは生まれながらの真言持ちですよ」
「なるほど」
あの若さで騎士団の副団長まで上り詰めるだけあるというか、やっぱり特別な存在だったという訳か。
(俺みたいな奴らとは文字通り生まれからして違ったってことだな)
そう思って納得しているとその様子を見ていたエイレインがまたクスクスと可笑しそうに笑っていた。
さっきから変なことはしたつもりはないのだが何をしても面白がられている気がする。
「あの俺、また何か変な事をしていましたか?」
「さあ、どうでしょうね?」
その質問が更におかしかったようで堪え切れないといった様子でエイレインは笑っている。
その表情はこれまでのものと違って幼く、どこか年相応に見えた。
(何がおかしかったんだ?)
別に変なことを言ったつもりはないのだが世界が違うせいで常識が通じないので原因の特定もままならない。
まあ幸い楽しそうにしているので気分を害したこともなさそうなのは良かったが。
そこでハインツからようやく色蛙が出たという報告が入る。
経験を積むためにも戦闘するべく俺は笑うエイレインとその原因の謎を残してその場を後にすることとなった。
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