第34話 異世界調査協会
俺が帰還して一月ほどが経って異世界調査協会という組織が設立された。
本当は最初の帰還者が確認されてからすぐに設立するはずだったらしいが、関係各所との折り合いが中々つかなかったせいでかなり遅れてこの時期になったらしい。
民間でも異世界の調査を行いたいところは腐るほど存在している。
だが何の準備もなしに行けば魔物に殺されるだけだし、それ以外での現地人や向こうの権力者である貴族などと揉める可能性も大いにあり得た。
あちらにも人や国が存在していることも確認がとれているので、場合によっては国交を交わす間柄になることだってあり得ないとは言えない。
あるいは相容れず敵対することになる可能性だって考える。
そういった重要な判断を下す前に民間人が勝手に行動されるのは国としても困る訳だ。
そういったことから日本では転移門は国が管理すると決められ、異世界調査協会は国に管理された転移門を利用できる現状ではただ一つの組織となっている。
そしてゲートマスターである俺もここに所属することとなった。
国が管理する建前としては異世界にも国があり勝手な入国は密入国となる可能性があるため控えるように……ってことらしい。
それを言うなら俺は何度も密入国を繰り返していることになるのだが、それでも何も調査しない訳にはいかないので国から許可を得て調査しているという体で罪にならないようになっているらしい。
やっぱり権力は偉大だ。
もっともそれで全て大丈夫となるとは誰も思っていない。
未だに転移門が全国各地で急に何の前触れもなく開いているようだし、その数が増えて行けば政府が把握できないゲートマスターが現れる時が来るかもしれない。
また現状では確認されていないが、異世界から人や魔物がこちらの世界に転移いてくることも可能性としては話されている。
転移門の原理が判明していない以上、誰もそれを否定できないのだ。
そうなった時にこちらの世界の銃器などで対抗できるのか、それを分かる人は現状では誰もいない。
だから異世界や転移門の調査は急務であり、それ以外の点でもこれから先のことを考えれば考えるほど他国に後れを取る訳にはいかないらしい。
まあそう言われても俺にできるのはせいぜい異世界の調査に協力して、これから先に来るかもしれない事態に備える手助けをするくらいだ。
そこから先のことや難しい政治の話なんかは政治家や役人にお任せするしかない。
ちなみに国によっては転移門を管理していないところもあり発展途上国などは管理できる体制が整っていないなどの理由でその傾向が強いらしい。
逆に独裁体制の国などでは強制的に国が管理するなどもあるようだ。
有名どころだと中国、ロシア、ドイツやフランスなどの国が管理しようとしていて、アメリカ、インド、オーストラリアやイギリスなどは現状では管理しようという動きはしていないらしい。
もっともどちらが正解なんて今は分からないし、国によっては管理しようとしても民衆の反対にあってダメになったなんてこともあるらしいので難しい問題なのだろう。
(まあ一般市民の俺には関係のないことだな。仮に日本が世界情勢に従って方針転換したとしても俺には従う以外の選択肢は今のところないし)
国に逆らってどうにかできると思うほど無鉄砲でもなければバカでもない。それに下手に逆らっても良いことないのでこういう時は流れに身を任せておくに限る。
少なくとも表向きは。
それにそれよりも今はこっちの方が重要だ。
「つまり転移門は転移する時以外でもゲートマスターの命の保護を最優先としているんだな?」
【肯定。転移門によって程度の差はありますが、どの転移門においてもゲートマスターの保護は最優先事項となっており最優先でその為に機能を行使します。例外はありません】
「程度の差ってのは門の規模以外にも何かあるのか?」
【肯定。転移門は特定の条件を満たすことで機能の拡張、言うなれば成長することが可能となっています。その成長具合によって行使可能な機能に違いが存在しており、それによりマスターの保護に使用できる機能に差が出る場合があります】
「その機能の拡張はどうやればいいんだ?」
【現在の機能では回答できません】
(その言い回しだと機能を拡張できれば回答させられるってことか?)
転移門と意思疎通ができるのは異世界側に居る時だけ。そして質問はできても全てに回答してくれるとは限らない。
(まだまだ分からないことも多いけど集まった情報もある)
初めの内に転移門から聞き出せた情報は多くない。
・転移門は世界各地に存在している。
・ゲートマスターが存在せず稼働している転移門は放置すると暴走状態になってしまうことがある。
・転移する際にゲートマスターが居ればその保護が最優先であり、また転移の際にはほとんどエネルギーを必要としない。それ以外が対象だと保護機能は最低限となり、また対象の数や重さなどによってエネルギーが必要とされる。
これくらいだ。
それでも大いに価値のある情報ではあるのだが、どうして転移門なんてものが存在するのか。
またなぜ急に転移が起こったのかなどの核心をつくようなものを含めた他の質問については【回答できません】という返事で一蹴されるだけだった。
だが今日、何度目かの転移を行った時に転移門側から教えられた。
【転移門の機能の拡張が確認されました。転移する際に使用するエネルギーが減少されます】
という風に。そして改めて質問してみたところ前には一蹴された質問でも回答してくれるものがあったのだ。
そのため改めて質問攻めして分かったのが以下の通り。
・転移門は門の規模によって行使できる機能、転移できる対象や数の違いがある。規模の大きな門ほど数が多く、対象も広くなる傾向がある。ただその分、必要なエネルギーも多くなる。
・転移門は通過者が環境に適応できるように特定の保護を行っている。またその保護の内容は転移門の大きさや使える機能によって異なる。
・転移門はゲートマスターの生命維持を最優先にする。
・ゲートマスターとして登録するには真力やそれに類する力を持ってマスター不在の門に干渉する必要がある。
・転移門一つにつきゲートマスターは一人のみ。一人で複数の転移門のマスターになることは可能だが資格の譲渡は不可能。
・ゲートマスターが死亡した際、転移門はマスター不在の転移門となる。また拡張した機能は特定のものを除いて全てリセットされる。
・規模の小さい転移門ほど放置されてから暴走するまでの期間が短い傾向にある。
・転移門の機能の拡張方法は複数ある。その具体的な方法は現状では不明。
・転移門には稼働状態と休眠状態が存在する。それらの状態による差異は現状では不明。
新たな情報から分かること、推察できることはかなり多い。
予想通り転移門は真力を持った状態で通過すればゲートマスターとなれるようだ。ただそれに類する力というのが気になる。
同じ力ならわざわざこんな説明があるとは考えにくいし真力に近い、けれど別の力がこの世界にはあるのだろうか。
(とりあえず報告に戻ろう)
転移してきたばかりだが重要な情報が多過ぎる。
早めに報告した方が賢明だろう。
ただ回復した真力を無駄にしないように『火炎』の真言での訓練だけは行って、俺は元の世界へととんぼ返りする羽目になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます