第15話 増え続けるゴブリンと逃げる算段
異世界に来てから約二ヶ月、俺はゴブリンを狩り続けた。
一ヶ月が経ってからはゴブリンとの戦闘に慣れてきたのと、村から離れても大丈夫な道具を貸し与えられたので、それなりに離れたところまで行って狩りをしたこともあり相当な効率でゴブリンを殺しているのだが、
「また現れたか。しかも六体のうち武器持ちが三体か」
その数が減っている気配は一向にない。
それどころかこうして武器を持っているゴブリンの数が増えてきているくらいだ。
勿論小鬼狩りのスペシャリストとなってきていることもあって、この程度ではやられることはないと自信を持って言い切れる。
だがそれでもこの数には辟易とさせられる。
武器と言っても太い木の棒を持っただけのようだが、道具を扱うくらいには知恵があるやつなのだ。
そういった個体が増えていったら厄介なことは嫌でも想像ができる。
(ここまで数が減らないってことは何か見落としがあるのか?)
リュディガーが情報収集した限りでは近々で周辺の村々からゴブリンに連れ去れた人はいない。
この情報は実際に近くの村々を訪れて手に入れた情報だからまず間違いないそうだ。
だからこういった異常繁殖の原因となる母体の確保をゴブリンたちはできていないはず。
だが現実はそうはなっていない。
何らかの手段でゴブリンは異常繁殖を行うための母体を手に入れているのだ。
それも周囲の村々以外から手に入れる形で。
だがその方法についてリュディガーも見当がつかないと言っていた。
(小鬼狩りが必要とされる限り俺の利用価値も消えないけど、だからと言ってずっとこのままっていう訳もいかないよな)
そう思って原因について考えてはいるが、ここが地元のリュディガーが分からないのに異世界人でこの世界の常識も碌に理解できていない俺がそう簡単に分かる訳もない。
だからこうして地道に感知したゴブリンを確実に狩っていくことしか俺にできることはないと言える。
少なくとも今のところは。
「くそ、やっぱり厄介なことになってきてるな」
今回も奇襲を仕掛けて怪我なく順調に六体のゴブリンを狩った。
だが俺の言葉の通り安穏のしていられる状況ではない。
戦うゴブリンの強さが徐々に、だが確実に上がってきているからだ。
単純な腕力とかは変わらないが、動き方や連携を取ってこようとしてくるあたりの厭らしさが加わってきていて明らかに戦闘力が違うのだ。
このまま数が減らずに敵の強さが増していった場合は俺一人の手では足りないなんて事態になりかねない。
そしてそれはそう遠いことではない気がする。
(援軍も今のところはあまり期待できないし、どうしたらいいんだ?)
二ヶ月も経つのに未だにリュディガー以外の冒険者達は真言食いを恐れてこの村からの依頼を受けようとしないらしい。
この状況に危機感を覚えたリュディガーが遠くの街まで遠征して援軍を連れて来られないか試みているが、この調子だとそれも望み薄を言わざるを得ない。
(……最悪の場合は村を見捨てて逃げるしかないけど、その場合はどこに行けばいい?)
逃げる算段をつけておくべきなのかもしれない。なんだかんだ二ヶ月もの間、世話になった場所だ。
恩を感じていない訳ではないし、可能ならそんなことはしたくない。
だがそれでも自分の命を懸けてまで守りたいかと言われればそうではない。
小鬼狩りだと罵倒し馬鹿にし続けてくる奴、そうでなくても余所者を嫌ってこちらに対しての態度があからさまに悪い奴だっていた。
今は好意的でも最初は厄介者として殺そうとしていた奴だって中にはいた。
そんな奴らを自らの命を懸けてまで守る? 友人や家族でもないのに? 冗談ではない。
(逃げるならリュディガーがいない今の内か? ……いやまだそこまで逼迫した状況ってわけでもないし、何の用意もなく行動するのは悪手か)
本当はもっと早くに逃げた先でも最低限生きつなげる金や食料などを都合しておきたかったのだが、リュディガーが逃げ出さないか警戒していたこともあってこれまでは信頼されるように気を使ってきた。
その代わりと言ってはなんだが他の村の場所など多少の情報はこの騒動が終わった後に手に入れたい真言の話などをした時などにそれとなく聞いている。
だから後は物資をどう都合するかだろう。
幸いなことにこの二ヶ月の努力のおかげもあってようやくリュディガーも俺を信頼してきているはず。
でなければいくら援軍を欲したとは言え、日帰りで済む近くの村ではなく行き来に数日は掛かる街へと出掛けはしないと思う。
(よし、どうにか本当の目的は隠して俺に好意的な村人達から物資を渡してもらおう)
数が増えてきているので遠くまで狩りをしにかなければならないとか理由をつければ遠出するための食糧などは用意してもらえるはず。
問題は金銭だ。
(……こっちはうまい理由が思い浮かばないな)
理由もなく今まで要求していなかった金を欲しがれば怪しまれること必死。
だがここまで金を使う必要がなかったこともあり適当な理由を用意することも難しい。
(最悪の場合は食糧だけ持って逃げるしかないかもしれないな)
そんなジリ貧に繋がりそうな事態は避けたいが、それでも命には代えられない。
この異世界にきて俺は学んだのだ。少なくともこの場での絶対の掟は弱肉強食で弱ければ死ぬしかない。そう、俺が何体も殺してきたゴブリンのように。
「絶対に死んでたまるか。生きて元の世界に帰るんだ」
祖父母や両親、姉、妹、友人。このまま会えずに死ぬなんて絶対に御免だし、元の世界でやりたいことだってまだまだある。
その目的を諦めるつもりはない。だからこそいざという時に手段を選ぶつもりもない。
勿論、そんなことにならないことが最善ではあるのだけれど。そればかりは神様でもないこの身では分かる訳もない。
(そう言えばこの世界には妖精とか竜とかファンタジーな存在がいるらしいけど、だとしたら神もいるのか?)
いるとしたらそいつはきっと意地の悪い奴に違いない。
優しい神なら異世界に突如放り出された俺にお詫びとしてチート能力を与えてくれただろうから。ゲームやラノベであるみたいに。
もっとも現実はこうして何も与えられない無情なものだったが。それどころか使えないとされている真言を得なければいけない状況に追いやられる始末。
「この世界に神がいるとして、奇跡が起きていつか神に会えたなら文句を言ってやる」
勿論本気でそんなことができるなんて思っていない。ただ愚痴らないと気が済まなかっただけで。
だから遠い未来で本当にこの世界の神のごとき存在と出会うことになるなんて、この時の俺は想像すらしていなかったのだった。
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