第11話 階梯零 使えないとされる真言
ゴブリンから得られる真言は全部で四つある。その最後の四つ目の真言は
「あ、手に入れました」
『
最初の真言を手に入れたから三日、俺は既に何回も真言が身体に刻まれていく感覚というものを体感していた。
そして実際に手に入れた感覚も。だからその結果は間違いない。
「……そうか」
それを聞いたリュディガーは余り嬉しそうではなかった。
どちらかと言えば気まずさや申し訳なさみたいな感じがその表情から透けて見える。
(本当にこの真言はゴミ扱いなんだな)
話は聞いていたがこの表情から改めてそれを実感する。
もっとも今の俺にはこの真言は結構重宝するのだが。
この『
その効果を確認する為にも俺は早速その真言を使う。
(よし、リュディガーから聞いた話の通り遮蔽物が有ろうが関係ないな。これは有り難い)
自分を中心として一定範囲――半径五十メートルくらい――に存在しているゴブリンの居場所が手に取るようにわかる。これがこの真言の効果の全てだった。
真言は大まかに分けると発動の仕方が二種類に分けられる。
そう、発動し続けるのだ、本人の意思なんて関係なく。意識を失おうが自動的に、半永久的に。それこそ真言食いに食われるなんて特殊なことでもなければ。
基本的にはこれは役に立つ場合が多い。例を挙げれば『頑丈』などの真言による強化が眠っていても気絶していても続くというふうに。
(でも基本的にはってことは中には例外があるってことだよなあ)
まあ今のところそんな珍しい真言を手に入れる予定は皆無なのでそれについて考えるのは後回しでいいだろう。
もっと考えるべき問題があるのだし。
今回手に入れた『
俺の持っている他の真言では『増強(真言)』と『負荷』もこれに当たる。
ただしその発動の仕方や消費する真力についてはかなりの差異がある。
例えば『
『負荷』は効果の発動の仕方は同じだ。ただし発動するのに一定の真力を消費して、その量によって掛けられる負荷の強さが変わる。
消え方は本人が解除しようと思うか、眠りや気絶など発動者の意識がなくなることとなっている。
なおこの真言だけでは負荷を掛けられるのは自分の肉体だけなので敵の動きを鈍らせるとかは無理だ。
『増強(真言)』は効果の発動の仕方は他二つと同じだが真力を消費する上に時間制限もある。
消費した真力で強化の具合や時間を変更できるのは調整が効いて助かる……が強化できる対象が他の自分が持っている真言なので現在の俺ではそれほど使い道がない。
(てか俺の手に入れてる真言ってどれも使えなくね?)
『増強(真言)』だけは他の真言との組み合わせ次第で活躍しそうな気配がなくもないが現状ではその希望は儚い夢でしかないだろう。
ここまでの話で分かる通り『悪食』『交配』は
そう、真言は
そのため
その効果がいくら高くても真力を常に消費してしまうことになり、他の真言がまともに使えないのだからそれも当然だろう。
しかも真力による体の強化は最大している真力ではなくその場で保有している真力に依存している。つまり何らかの真言で真力を消費すればそれだけ強化が薄まるのだ。
つまりどんなに真力を有している超人でも、それを使い切ってしまえば、ただの一般人と同じ身体能力しかない状態へと陥る訳だ。
(真力を必要とする上に使えない
そういう使えないとされているゴブリンからの真言よりもヤバイ地雷の真言もあるのがなんともいやらしい。
これがこの世界の神のような存在が設計しているとするならば意地の悪さが透けて見える。
と、そんなことを考えていると感知に反応があった。
「あ、こっちに向かって来てるゴブリンがいますね」
「数と方向は?」
「数は三体。方角は自分から見て右の方です」
「合っている。よし、これならゴブリンから不意打ちされることはなくなったな」
俺とリュディガー、どちらも感知型の真言を持っているがその効果は大きく違う。
リュディガーの感知は魔物だけでなく周囲の生物を知ることが出来るらしい。
それと比べて俺が感知できるのはゴブリンだけ。他の魔物については全く分からない。
あまりに限定的な効果。
しかも階梯零だから真力も入らないので誰も手に入れたがらない真言でも仕方がないだろう。
驚くべきはどの魔物でも最後の真言はこういった特定の魔物の感知ができるものなのだとか。そしてこれまた共通で階梯は零。
リュディガーが持っている真言の方が圧倒的に便利だし、そちらの系列なら真力も手に入る。
となればこんな限定的な感知なんて誰も欲しがらない。
そんな使い道の少なそうな、いや正直に言えばほぼ皆無な真言だが俺はこれを役に立てることが出来る珍しい状況だった。
この辺りには現れる魔物はゴブリンがほとんどで、たまに別のところからやって来る魔物もいない訳ではないが、滅多にない上に今はゴブリンが大繁殖しているのでその可能性はまずない。
なにせゴブリンは他の魔物が食糧にしないくらいに不味いのだとか。
餌としても見て貰えない邪魔なゴミが大量に存在している場所にわざわざやってくる魔物なんて普通はいない。
だからこそ真言食いが現れた時には皆より一層驚いたのだとか。
この周囲に魔物はゴブリンしかいない状況において『
この状況が改善されればゴミでしかないとしても、少なくとも今は活躍できるのだ。
「ああ、虚しい」
これが条件だったから仕方がないが、ゴミ扱いされている真言を取って限られた枠が埋まっていくのを嬉しい訳もない。
なのでその虚しさやら悲しさを全部これから右手の茂みから飛び出してくるゴブリンに全てぶつけることにした。
もはや作業と化すくらいには慣れたのできっかり棍棒の三振りで仕留めて、感知から反応が消えることを俺はしっかりと確認するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます