第13話 奇襲と戦法

 幸いなことにゴブリン達が村に到着する前に森の中でその影を捉えることができた。


(よし、こちらに気付いている様子もないな)


 『小鬼感知』の精度は対象に近付けば近付くほど精度が上がる。


 その特性を活かしながら俺はゴブリン達を視認しなくともその存在をしっかりと認識できていた。


 その数は五体。森の中で完全な一直線とは言わないが、やはりハリネ村のへと明確な意思を持って進んでいる。


 どう考えても村を狙っているとしか思えない。


「そうはさせるか」


 現状唯一の活動の拠点を潰さるのは御免だ。茂みに身を隠してその集団が通り過ぎるのを待ってその背後を取る。


 これで奇襲バックアタックの準備は整った。


 俺は腰に差していた二本の内の一本の短剣ダガーを抜く。


 残念なことに一番扱いになれている棍棒はあの絡まれた場で持っていなかったのだ。


 それでもこの一月でリュディガーには色々と訓練してもらったので扱い方は心得ている。


 準備を整えた俺は大きく息を吸って、そして飛び出した


「ギャ!?」


(まずは一匹)


 最後尾にいた奴の首を背後から斬り裂く。


 血が吹き出るのを待たずにその体を蹴り飛ばして近くに居た奴にぶつける。


「ギイ!?」

「ギイ!」


(遅い、二匹目)


 そこでようやく襲撃者に気付いた奴らだったが動揺しているのか具体的な行動に移れてはいない。


 その隙を逃さすに棒立ちになっている一体の顔面、右目に短剣を突き立てた。


「ギャアアア!」


 眼球を潰された奴から悲鳴が上がるがそんなものは無視して、短剣を放すと両手で叫んでいる頭を掴むと力一杯捩じる。


 ゴキッと首の骨の折れる音がしてそいつの身体から力が抜けた。


 残りは三匹。


 ここでようやく一体が俺に向かって突っ込んできた。


 その手にはこれまでのゴブリンと違って錆びついた剣が握られている。

 やはりこれまでのはぐれゴブリン達とは違う。


(武器を持っているのはこいつだけか。なら後回しだな)


 俺は素早く目に突き刺さっていた短剣を抜くと首を折って殺したゴブリンの体を掴むと剣を持って襲い掛かって来ている奴に向かって投げつける。


 意表を突かれたのか同じような重さの死体をぶつけられて支えきれなかったのか、そいつはそのまま勢いのついた死体に押し倒されていた。


 そこで最初に仲間をぶつけられた奴が仲間の死体を押しのけて起き上がろうとするが、残念な事にその動きを俺は見なくてもできている。


 振り向くと同時にそいつに持っていた短剣を投げつけて、顔に突き刺さった短剣の痛みがその動きを阻害する。


 そのまま痛みで地面をのたうち回る奴の足を踏みつけた。


 本当は首の骨を折ってしまいたいのだが、動き回る顔を狙うのは難しいと判断して動きを封じに掛かったのだ。足の骨を折ってしまえば動けなくなるので脅威ではない。


(三匹目っと)


 そこで背後から無事な一体が襲い掛かってくるがそれも俺はしている。


 距離的に短剣を回収している暇はないと判断して、そいつに背を向けたまま前方へと走り出す。


 奇襲から一転して逃げ出した俺に対してゴブリンは警戒することもなく本能のままに俺を追ってきていた。


 これで剣を持った奴から距離を取れる。


 振り切らないように注意しながら茂みを掻き分けて進み、十分な距離を稼いだのを確認した俺はタイミングを計って反転する。


 茂みを抜けた獲物を追うつもりだったゴブリンは、その見えていない先で急にこちらに踵を返した俺と相対することになり、


「ギイ!?」

「四匹目だ」


 咄嗟に爪を立てようとしたその手を体裁きだけで躱して、その首に残っていた短剣を突き立てる。


 後ろ向きに倒れた後しばらくは痛みを示すように動いていたが、やがてその動きも痙攣に変わる。


 十分に距離は取っていたので俺は焦らずにその首から短剣を抜いて装備を取り返す。


 そうこうしている内に残った最後の剣を持った奴が現れた。


「ギイ! ギイイ!」

「逃げる気はないか」


 剣を振り回して威嚇する姿からはまだ戦う気なのがはっきりと伝わって来た。


 逃げてくれれば一番やり易かったのだが仕方がない。


 先程と同じように仲間の死体を投げつける奇襲を仕掛けてみたが、それは警戒していたのか今度は回避される。


(武器のリーチの差があるし真正面からはやりたくないな)


 やっても勝てるとは思うのだが、刃物相手に防具なしで立ち向かうのは流石に躊躇してしまう。


 多少の打撃は真力のおかげで問題ないのだが斬撃にたいしてどこまで強くなっているのか分からないし、そもそも怪我をしたくない。


 俺は地面から石を拾うと敵に向かって投擲する。


 だが警戒されている投擲では流石にゴブリンでも当たってはくれず、横に動くことで回避されてしまった。


(よし、ならこうするか)


 俺はすぐに走り出してまた逃げ出す。


 その後をゴブリンが追って来ているのを感知しながら迂回して逃げ続けて目的の場所まで来た。


 そこは先程まで戦っていた、足を折られたゴブリンが居る場所だ。


 痛みで動けないそいつの顎辺りを蹴り飛ばして意識を朦朧とさせる事で抵抗できないようにしたあと、そいつの首を掴んで準備する。


 またしても投げつける? いやそれは学習されているので対処されてしまうだろう。


 だから今度は違う使い道をする。


 俺を追って茂みから飛び出て来た剣持ちゴブリンは仲間の傍で膝を付く俺に対して好き有りとばかりに斬りかかってくる。それを待っていた。


「ギャア!」

「ギイ!?」

「ゴブリンでも仲間を斬ったら動揺するんだな」


 その間にまだ死んでいないゴブリンを持って来て楯にする。


 すると当然、斬撃は楯にされたゴブリンがその身で受けることになって叫び声を上げる。


 そしてそれに驚いて隙を晒したのを逃すつもりはない。


 剣持ちのゴブリンも必死に動こうとしたが力任せに振るった剣が仲間の肉体に食い込んでいて、それを引き抜こうとした時点で結果は決まっていた。


 その首に俺は短剣を滑り込ませるように走らせ、血飛沫がそこから吹き出す。


「五匹目で討伐完了っと」


 楯にしたゴブリンも仲間の攻撃で死んでいるので生き残りはいない。

 『小鬼感知』で周囲に伏兵がいないことも確認したのでこれで大丈夫だろう。


「あ、短剣回収しなきゃ」


 血で濡れたままだと錆びて切れ味が悪くなってしまう。


(こっちのが切れ味はあって攻撃力はあるんだけど、そういう手入れが必要ない分、棍棒のが楽だよなー)


 強い魔物相手には通用しないのだろうがゴブリン相手には棍棒で十分だし最適だ。やはりゴブリン相手には基本的には棍棒を使う事にしよう。


 その事を再認識しながら俺はハリネ村への帰路に着いた。


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