第8話 危機的状況

 戻ってきた冒険者の大半がゴラムからの話を聞いてゴブリン退治を中断することを決定していた。


 その気持ちも今なら分からなくもない。


(冒険者として今まで厳選して手に入れてきた真言が失われるなんて最悪だろうからなあ)


 この世界において真言が占める要素は相当大きいようだ。


 それを失う可能性があるなんて余程の理由があるか大金を積まれでもしないと許容できないだろう。


 そんな中で唯一人、決断を下せていない人物がいた。


「ゴラム、どうしても無理か?」

「すまんが無理だ。悪い事は言わない。リュディガー、お前も手を引け」

「しかしここは俺の故郷なんだ。家族を見捨てるなんて……」


 どうやらこのリュディガーと呼ばれた人物はハリネ村出身の冒険者らしい。

 それを見ながら俺はこれから自分がどうするべきか考えていた。


(今のままだと冒険者はこの村からいなくなる。そしてゴブリンに襲われる可能性が高いか?)


 リュディガーという冒険者の様子からして彼一人でどうにかなると考えない方が良いだろう。


 つまり今、このハリネ村とそこにいる俺は危機に瀕している。


 そんな状況で余所者である俺をこの村は受け入れてくれるだろうか。答えは否だ。


(……よくよく考えればそれ以前の問題か)


 例えゴブリンの危機が無くても俺の状況は悪いままだ。

 そのことに今更ながら気付く。


(食べ物を手に入れるにしても宿に泊まるにしてもそもそも金がない)


 魔物なんて危険な生物が跋扈している以上、安全な拠点は絶対に必要だ。


 子供にも勝てないと太鼓判を押された俺が村の外に出て野宿なんてしたらまず間違いなく死ぬ。


(金さえあれば護衛を雇って……いや金があっても奪われて終わりか?)


 この世界の常識やら道理がまるで分っていないのだ。


 この世界の人間がゴラムのようにお人好しばかりなんて都合のいい話がある訳がない。


 運良く金が手に入ったとしても最終的には奪われるだけになる気がする。


 もっともそれ以前に金を稼ぐ手段がないのだが。


(日本にみたいに警察がいて保護してくれるなんてこともないだろうし、今の俺はいつ死んでもおかしくない)


 この世界に来たばかりの頃はその場をどうするかしか考えられなかったが、人里にきて冷静になったことでようやくそんな事実に気が付く。


(考えろ、今の俺にとって必要なものはなんだ?)


 必死に頭を回して幾つかの選択肢が浮かんだが、まだ確定できない。

 その為に情報を手に入れに行く。


「あの、すみません」

「ん、なんだ?」


 必死に頼み込んでいるリュディガーとの話に割り込む形になったがここは遠慮しない。


 している余裕はない。


「ここから離れるそうですが俺を連れて行ってくれたりしますか? ここは危険なんですよね」

「……金はあるか?」

「いえ、ありません」

「なら無理だな。短距離ならともかく街まで護衛するとなると俺達の足も遅くなる。真言食いの危険がある以上は報酬もなしにそんな危険は冒せない」


 この返答に落胆したが予想通りでもある。


 いくらお人好しでも何の報酬もなく世話してくれるなんて都合のいい話があるとは思ってはいなかった。


 まあもしかしたらという多少の期待はあったのだがそれを押し付けてもどうしようもない。


 だとしたら俺の選択肢はもうほとんどない。


「話は変わりますがゴブリンって弱い魔物だそうですけど、倒すのにはどれくらいの強さが必要なんですか?」

「そうだな……単体なら真力が五、複数が相手でも余程の数じゃなきゃ七か八もあれば安全に狩れるだろう。有効な真言が有ればもっと少なくても良い」


 怪訝な顔をしながらも答えてくれる。俺はその事に感謝しながらもう一つ質問を口にした。


「それじゃあ俺が短期間で真力を五、出来れば十、手に入れる方法はありますか?」

「お前、まさか戦う気か?」


 その質問に俺は頷く。


「そうしないと生き抜けないみたいですからね」

「しかし真言食いがいるんだぞ」


 普通ならそれは脅威なのだろう。だがそれは彼らの勘違いだと俺は知っている、


(戦わなければ高確率で死ぬしかないんだ。やるしかないだろう)


 覚悟を決めてやるしかない。そう思っていたら思わぬ方から答えがやって来る。

 リュディガーからだ。


「……方法ならあるぞ」

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