第7話 真言・真力
真言、それを簡潔に言い表せばこの異世界においての力に他ならない。
なんでも十歳を超えてから魔物を倒した時に手に入るらしい。
手に入るといっても物理的にではない。体の中に刻まれるという形で目に見えず、だけれど確かに存在している力なのだとか。
例えば『頑丈』という真言を手に入れれば文字通り身体が頑丈になり、『剛力』の真言を手に入れればこれまた文字通り力が強くなる。
これ以外にも『火炎』や『氷結』。『
また真言には零から五までの階梯があり、同じような効果の真言でも階梯が五に近ければ近いほど効果が高いとのこと。
「これだけでも高位の真言を数多く持っていればいるほど良いって話になるんだが、更に続きがある」
真言はその階梯に応じて真力を有している。
第五階梯の真言では五、第一階梯では一というふうに。つまり零はなしだ。
そして保有している真力が多ければ多いほど単純に肉体が強化されるというのだ。
大量の真力保有者は何らかの理由で真力を消費しなければ生半可な刃物では傷一つ付けられなくなるというのだから、その強化具合はバカにしていいものではない。
「つまりより高位の真言を多く持っていればいるほど強いって事ですね?」
「まあ基本的にはそれで間違ってないな」
勿論それだけではないらしい。
階梯が低くても特殊な効果を持つ真言だってあるし、高位でも使い道がよく分かっていない真言もある。
真正面からの殴り合いなら真力が多い方がほぼ間違いなく勝つが、戦闘となると必ずしもそうなるとは限らないらしい。
それに戦闘以外でも偵察など他の用途に優れる真言もあるとか。
「だが真言は保有数が多くなればなるほど手に入れにくくなるって点を注意しないといけねえ」
五つまでは簡単に手に入る。
だがそれを超えると保有数が増えれば増えるほど手に入り辛くなる。
十を超えるだけの真言を持っているのは魔物との戦闘を生業にしている冒険者やら騎士の中でも限られた一部ぐらいのものだとか。
ちなみに十五以上の真言を持っているのは一流の冒険者とかほんの一部の例外だけらしい。
そんな世界で真言・真力がない俺は下手すれば十歳の子供にも負けるくらい弱い奴って事だ。
というか真力は持っているのといないのでは大きな差が有るので真言を持っているなら相手が子供でもほぼ間違いなく負けるそうだ。
「だから手に入れる真言は慎重に選ばなきゃいけねえんだ」
階梯も低くて使い道の無い真言を取っていると真力による強化の恩恵も受けられないに等しい。
真言は一度体に刻まれると滅多なことでは消せない。
それこそ真言食いと呼ばれる特殊な魔物によって奪われるなどしない限りは。
つまり弱い真言を得るとそれで枠を潰されてしまうという訳だ。
「その点で言うと今回のゴブリンなんて最悪だな」
魔物から得られる真言は固定であり順番も決まっている。
ゴブリンなら『鈍感』『悪食』『交配』の順だとか。ちなみにどれも階梯は一。
(最弱の魔物の候補って話なのに全て階梯零とかではないんだな)
『鈍感』は感覚が鈍くなるだけ。
この真言は
『悪食』は多少悪い物を食っても大丈夫になる。
ただし毒が効かないとかはではない。
分かり易くすると消費期限が切れた物を食っても腹を壊しにくくなる、って感じだろうか。もしかしたらサバイバルには多少役に立つかもしれないがわざわざ貴重な真言の枠を一つ使うほどではないだろう。
最後の『交配』は単純に言えば妊娠する可能性を高めることができる。
この世界には獣人族とか妖精族などのファンタジーな種族もいて、妊娠しにくい妖精族などにはそれなりに人気の真言らしい。
だがこれを手に入れるまでに他の余分な真言を手に入れるなんてせずとも、他に『交配』が最初に手に入る魔物がいるのでわざわざゴブリンから取る必要はない。
更にゴブリンの肉は不味くて食えた物ではないし、薬などの材料になる部分も存在しないので死体が金になる訳でもない。
つまりゴブリンという魔物は倒しても金にならない上にクズ真言しか手に入らない割に合わない魔物なのだ。
それなのに他種族を孕ませるほどに繁殖力が強く、放っておくと大群となって人里を襲いに来るから倒さない訳にはいかないという、ある意味で最悪な魔物として万人から嫌われているらしい。
「唯一の救いは弱い魔物だから多少倒したところですぐには真言が手に入らないって点くらいだな。真言として身体に刻まれる前なら時間をおけば問題ない」
一般的に強い魔物ほど真言が手に入り易い。ゴブリンのような雑魚は十数体狩っても真言が手に入るかは微妙なところ。
魔物から得られる真言はその魔物を倒せば倒すほど体に蓄積していき、一定量を超えると真言として身体に刻まれる。だがそうなる前に時間を置けばリセットされるようだ。
(逆に考えれば有用な真言を手に入れるために魔物狩りするにしても時間を置かない方が良いってことか)
「まあ正確にはゴブリンには四番目に手に入るもう一つ真言があるんだが、これはそれまでの真言と比べてもより使えないもんでな。今じゃ誰も手に入れようなんて考えもしねえのよ」
「そんな真言があるんですか?」
これまでの三つでも聞く限りでは使い道がなさそうなのに、それを超えて使えない真言とは一体何だろうか?
その話について聞こうとしたが、タイミングが悪く森に入っていた冒険者が戻ってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます